<連載小説> 沈み橋、流れ橋
―明治・大正・昭和 一族三代のものがたり―
第1章(11)
お初天神の前でばったり出くわした、駒蔵の惚れた女二人が、偶然、住まいも近く、お互いの家の屋号は知っているが下の名前までは知らない、いわば挨拶はするくらいの仲であったというのだ。もちろん驚きはしたものの、「そら、紹介する手間が省けたがな」と、なんでも都合よく考えるのが駒蔵であった。曽根崎新地方面からやってきた千鶴は、駒蔵への挨拶もそこそこに、美津と肩を並べてすでに歩き始めていた。駒蔵は自ずとその後からついて行くこ