見出し画像

悩ましい問いを解く鍵は

さて、あまり嬉しくないプレゼントや、少しばかり冷めてしまった恋人からの質問をどうしよう、というお話の続きです。

正直に本音を伝えて修羅場になったり、言い逃れの嘘をつくのではなく、もっと良い選択肢がないものか。
私たちが頭を悩ませるこの種の問題と、昔の人々が無縁だったはずがありません。二人以上の人間がいる限り、いつどんな場所にも似た問題はあったはず。

そして嬉しいことに、すでにこの問いに対する答えは出ています。それも、さかのぼること数千年、紀元前の世界において。

紀元前1300年頃、インダス文明衰退後に盛んになったバラモン教は、仏教や禅だけでなく、ヨガ哲学の元にもなりました。
ヨガってあの?と意外に思われるかもしれませんが、フィットネススタジオなどで行われている動くヨガは、実は広大なヨガの世界の、ほんの入り口に過ぎません。

ヨガ哲学の聖典『ヨガ・スートラ』によると、人には“目指すべき8つの段階”があり、多くのかたのイメージするあのヨガは〈Asana(アーサナ)〉と呼ばれる、“3番目にチャレンジすべき健やかな心身を保つための技術です。

この“8つの段階”は『八支則』とも呼ばれ、ここにはヨガを究めようという人だけでなく、誰にでも役立つ知恵が満載されています。
たとえば今回の問題は、その八支則の1番目〈Yama(ヤマ)〉にのっとればすんなりと解決しそうです。

ヤマは“禁戒、避けるべきこと”という意味で、そこには5つの項目のリストがあります。
1つ目は〈Ahimsa(アヒムサ・傷つけない、非暴力)〉で、これは他のどの項目より重要です。そのため2つ目の〈Satya(サティヤ・嘘をつかない)〉よりも、1番目の“相手を傷つけない”ことが最優先されるというのが、八支則に叶った考えです。

相手の行動がこちらを思ってのものだとわかっているなら、こちらも相手を傷つけたり失望させず、いかに返すかをまず考えます。

そうすれば、プレゼントがそれほど気に入らなくても、中身云々よりは、まずはその人が自分の大切な時間とお金を使い、心遣いをしてくれたことに感謝しようという気持ちになります。
「誕生日を覚えていてくれてありがとう。あなたがこうしてプレゼントを用意してくれてすごく嬉しい」
私ならこんな回答をするでしょうか。

出会った頃よりときめく度合いが減った恋人には、最近会ってもぱっとしない、と本音をぶつけるのでなく、たとえばこんな言いかたをしてみるとか。
「前は緊張も含めてどきどきしていたけど、今はもっと落ち着いてる。安心感があるし、一緒にいる心地良さが好き」

これなら相手は笑顔になってくれるでしょうし、口にした言葉にも少しの嘘もありません。方便のように言い方を変えて繕うのでなく、正直に真実を話しています。
投げかけられるどんな質問も、正面に限らず別の面に光を当てるだけで、違った答えはいくらでも出てくるはずです。

宗教ってなに?
子どもに聞かれた森鴎外は
人間同士が仲良くするための知恵だよ
と平易な言葉で語りました。
知の大いなる集積であるこの世界には、もっと平和で楽に生きやすくなる秘訣が、誰にでも展かれた形で置かれています。だからこそ、いろいろな文献に触れるのは楽しいのです。

まず何を優先すべきかが定まっていれば、戸惑うような局面でも、無駄に迷ったり揺らぐこと無く決断できます。すると人生はずいぶんシンプルに、生きやすくもなるはずです。
この手法があなたのお役に立ち、周囲のかたとの関係が、更にあたたかなものとなりますように。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?