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桜が目に沁みる 父を看取って三週間〜その女、喪中につき①

※「インキュベ記(インキュベーション(孵化)期の記録)」始めます

「そんなこと言ったら,次に会う時はお葬式になっちゃうよ」

わたしは,母に丸裸の言葉の爆弾を投下した。この時は,まさか現実になるなんて,1ミクロンも思ってもなかったから。

誰もが見えないバイ菌にヤラレるんじゃないかと,言い知れぬ不安との共存を余儀なくされた《魔の3年間》が終わろうとしている。

でも,母にとっては,3年前の当初から違った。

「おとーさんが罹ったら,大変だから。絶対に帰ってこないで」

去年は,

「お注射を入れる人がとうとう8割を超えた,ディストピアジャパンなんだから,かかるのが怖い人は入れればいいし,そもそも集団免疫ができてるし,大丈夫なんじゃん?」

そう言うわたしを母は「ダメ!ぜったいダメ!」と,実家出入り禁止令は,未だに解除されない。

子ども達を連れて,夏休みや冬休みに帰省しようとするわたしたち一家を母は,電話口で押しとどめた。

「おばーちゃん家行きたい」

と,孫たちが言ってもだめ。

わたしは,思わず,冒頭の捨て台詞を母にぶつけて,電話を切った。

そして,3年後の3月末,現実になった。

父が亡くなった。

入院してきっかり3週間後だった。

でも,不思議とやり切った静かな爽快感が家族全員にあるようだ。

「おとーさんが入院したのよ。でも,家族でも病室に入っちゃいけないみたいで,お母さんも入れないのよ。だから,お見舞いに来ないでいいわよ」

3週間前,母から電話をもらった時,父の入院は3回目だし,たいして心配していなかった。

1回目は,20年くらい前で,クリスマスイブの日。

咽頭がんのオペを家族で見守った。

後から,「実は危なかった」と,聞かされたけれど,独身だったわたしは,自分の恋のかけひきに溺れて,気にも留めていなかった。

しっかり,父は寛解したし,「ああ見えて,いつも何か見えない力に守られているのに感謝しない父」伝説を上塗りしただけだった。

2回目は,5年くらい前。

「自転車に乗って仕事先に行こうとしていたら,倒れちゃったらしくて,近くにいた人が連絡して下さったのよ」

脳梗塞の発作を初めて起こして,病院に運ばれ,オペも成功した。

「ほら,やっぱり,おとーさんってば,守られているわよね。助けて下さる方がいるんだもの。倒れていても気づかれない人もいるのに。感謝の1つもない」

母は,事あるごとにそう言った。

片足に麻痺が残ったが,あらゆる知識を総動員して,わたしがせっせと神経系を回復することをしたら,退院して1か月後に実家に行ったら,幸運にもゆっくりだけど普通に歩いていた。

やっぱり,「おとーさん守られ伝説」は健在だった。

今回も「まぁ,なんだかんだ言って,大丈夫だろう。もし,大丈夫じゃなくても,天の采配でイイ感じにしてくれるだろう」と,わたしは普通に生活をしていた。

だから,たまたま,ビジネスセミナーの最後の合宿で熱海に泊まっている時に,母から電話をもらった時は,「いよいよなのだ」と覚悟した。

とはいえ,母はなんかウキウキしているようで,「夜ご飯はカレーを作っておくから,何時でもいいから帰って来なさいよ」と,わたしに言った。

セミナーを定刻きっかりに退室して,熱海駅から新幹線に乗って東京駅を経由して実家に向かった。

3年ぶりの実家に入って,「お母さんは,わたしに心配をかけたくないから,来るなって言ったんだ」と,一瞬で悟った。

実家の家族に会わない3年間,母は父のお世話に奔走していたものだから,母の部屋の電気が壊れていても,電気ポットが壊れてなくなっても,南部鉄瓶の注ぎ口が詰まっていても,直せなかった。

母の親心を思うと,胸が痛かった。

カレーを食べて,ちょっとゆっくりして,新幹線の往復はきついから寝ようかなと思った時,電話が鳴った。

家族中に緊張が走った。

(まさか,もう?)

誰も口に出さなかったけれど,そう思った。

案の定,病院からだった。

心拍も呼吸も安定しているけれど,血圧だけが上がらない。すぐに来るほどではないけれど,一応,お知らせします。

「まぁ,今から,駆け付けなくてもいいって言うし,明日,午前中にみんなで病院に行こうか」

病院から電話が入るのを覚悟して,わたしたちは一先ず,眠りについた。

わたしはスッと寝てしまったが,母は電話が来るのじゃないかと,寝るに寝れなかったらしい。

翌日,家族で父に逢いに行った。

2人ずつしか,病室に入れないから,母とわたしで先に父に逢った。

シューっとドアが開いて,病室の真ん中にあるベッドに父は居た。

酸素吸入をしているから,口はポーっと開けっ放しで,不謹慎にもわたしは,ちびまる子ちゃんの作者さくらももこの面白エッセイ『たいのおかしら』(多分)に出てくる,さくらももこのおじいちゃん(マンガでは「ともぞうじいさん」)がなくなった時に口が閉まらなくて,手拭いでほっかむりをさせて葬式に出したくだりを思い出してしまった。

でも,すぐに,横隔膜がグワーッとわしづかみにされて,ブルブル震えて,なんだか知らないが何もかもがごちゃ混ぜになった固まりが下から突き上げてくる衝動が目元にまで,さぁっと走った。

コンマの世界。

わけもなく涙がダラダラ出て,止まらない。

お風呂の栓を抜いて,排水溝に水が一気に流れ込むようで,自分が排水溝になったかと思うぐらいの衝撃。

胸から目に抜ける衝動だけど,目からは静かにだくだくと涙が出ている様は,今になって思えば,そのメカニズムの理由もわかるけれど,その時は,衝動になすすべもなかった。

父の命の灯火は,今,終わろうとしているんだ。

「おとーさん,カオルちゃんが来たよ。わかる?」

父はもう話せなかったけど,目でうなづいた。

つづく

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