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#19【劇評・酷評】劇場版SPY*FAMILY CODE:White(ネタバレあり)

チキの教え「観てからものを言え」

評論家・編集者の荻上チキさんが、『シン・ゴジラ』のころ、ご自身のラジオ番組Sessionの中で、学生たちには「映画でもなんでも観てからものを言うように」と教えている、というお話をされていました。当たり前といえば当たり前ですが、最近はAmazonなどで「まだ届いていませんが、期待を込めて☆5です」という謎のレビューを見かけたりすることを考えれば、至言ですね。

その教えを守るため、くらたは年末、「劇場版SPY*FAMILY CODE:White」を観にいきました。
原作マンガが大好きで、原作に敬意をもって作られているテレビアニメシリーズも楽しみに観ています。
「完全オリジナルで年末年始のファミリー向け映画」って枠組みがちょっときな臭かったけど、でも、まずは観るんだわたしは。
でもまさかこれほどとは予想していなかったよ!

ネタバレありです。未見で情報入れたくない方はここでストップをお勧めいたします。また、超・酷評ですので、大好きだったという方もここでストップをお勧めいたします。あと、もともと大変下品な映画ですので、お食事中の方もストップされてください。
また、完全に個人の感想です、すみません。


※個人の感想です※ 名実ともに「うんこ」映画だった。

「ジャンプ作品のアニオリはろくなことにならない」説をネットで目にしましたが、それ以前の問題でした。
よかったところは、ヨルさんの戦闘シーンは劇場版ならではの大迫力でした。ロイドにもらった口紅が勝負の決め手になるのもよかったと思う。以上。
そもそもヨルさんの「私は妻失格」思い込みからのドタバタは原作でもう終わった話の質の悪い二番煎じだし、過剰なまでの「家族いっしょ」プロパガンダをなぜあそこまであおる必要があったのか謎だし、もっとも顕著で許しがたいのはうんこネタ。

観ていない方のために補足すると、

  • アーニャが重要情報チップの仕込まれたチョコレートを誤って食べる。

  • チョコレートの本来の持ち主である悪漢に拉致される。

  • アーニャはそのチップを排泄しない限りにおいて命が保証される。

  • アーニャに排泄させようとする悪漢と、排泄を我慢しながら逃げ惑うアーニャのドタバタ追いかけっこが繰り広げられる。種﨑敦美の無駄遣いだと思う。

  • さらに、「うんこの神」なるキャラクターまで出てくる。千葉繁の無駄遣いだと(以下略)

スパイファミリーの魅力の特徴的なところって、知性的であること、上品であること、主要登場人物が孤独であること(腹の底を見せ合えないため)だと思うんですよね。良さ全部台無しじゃん。この映画を作った方は、一体全体どういう読解力を持ってスパイファミリーを読んでいるのか、ぜひとも説明を求めたい。

そもそもスパイファミリーって子ども向けアニメじゃないじゃん。ネットフリックスでも、暴力描写のため対象年齢16歳以上になっている。
いや、図書館の児童担当経験者のはしくれとして言いますけど、子どもは物語を楽しむ天才ですから、少し上の年齢向けのコンテンツでわかりにくい部分があるものでも楽しんでくれます。そうやって成長していく。
でも、それにしても東西冷戦など難しい内容だし、ネットフリックスのいうとおり暴力描写も多い。また、原作アーニャのキャラクター造形もおおよそ子どもらしくない、大人が考える「イマジナリー子ども」だと感じていたんです。アーニャには子どもらしい下品さがあまりない。
だから、今回の映画のアーニャの衣装にも違和感。作品世界って東西冷戦くらいのころの東ヨーロッパあたりで、しかも上流階級の話のはずなので、現代日本でよく見る子供服っぽいアーニャの服のデザインにすごく違和感を感じました。

今まさに原作改変問題が悲しい事件にまで発展してしまっていますが、そもそも原則として、著作物の著作権は著作者が占有するものであり、著作権には複製権や同一性保持権、その他もろもろが含まれます
くらたの著作権の知識は図書館周りが守備範囲なので、コンテンツ商売周りでは契約内容いかんで著作権者の権利の制限はどうにでもなるのかもしれないのですが、根底は変わらないはずです。
つまり、そもそも作品は原作者のものであり、原作者が変えてほしくない方向に作品を変えることは著作権侵害だということです。

スパイファミリーの場合は原作者も劇場版楽しんでいらっしゃるみたいで、くらたが声を荒らげるのはお門違いではあるのですが。でもさー、やるならもっと上手に、作品の世界観守ってやっていただきたかったです……。

最近子ども向けコンテンツで肛門使いすぎ

そもそも、元・図書館児童担当のくらたは、近年子ども向けコンテンツが肛門期におもねりすぎじゃねえかと思うのです。失礼、言葉が乱れました。
肛門期とは何かというと、下記のとおりです。

肛門期
精神分析で、性本能の発達段階で、口唇(こうしん)期の次に位置する第二段階(約二~四歳)で、もっぱら排泄など肛門性感帯(肛門や尿道を刺激する神経)の刺激に快感を感じる時期をいう。

精選版 日本国語大辞典

子どもが面白さを感じて「うんこ」を連発する時期があるのは自然なことです。それにあわせて科学絵本などで排泄を取り上げたものもたくさんあり、そういった作品を通じて正しく排泄を理解することは成長にとって必要です。
だけど、「うんこ」を面白おかしいものや恥ずかしいものとして扱うのはよくない。子どもが「うんこ」ばかりいうときの基本的な対処法は、「だから、なに?」だそうです。

排泄を恥ずかしいものでも笑うべきものでもないと教える立場の大人が、笑うためのコンテンツとして「うんこ」を扱うことに、くらたは反対です。
ウケるし売れるんだろうけど……。でもそれだと、排泄が恥ずかしいもの、笑ってもよいものという価値観を再生産し続けてしまいます。

逆に言えば、うんこまで出してこないと面白いものをつくれないのか?
コンテンツの作り手のみなさんは、それでいいのか?
という疑問もわきます。

お尻を出して「ブリブリ~」と踊るクレヨンしんちゃんが世の中に出てだいぶたちます。くらたが子どものこどろからあるので、もはや古典の域でしょう。ただ、もとは大人向けのマンガであることは当初からある程度認知されていたし、「子どもに見せたくないもの」として認識されていたと思うんです。そして、クレヨンしんちゃんは劇場版を中心に感動的なストーリー性を取り入れ、少しずつ軸足を移してきました。

しかし現在、『おしりたんてい』だの『うんこ漢字ドリル』だの、乱立しすぎじゃない?
もちろん、観てからものを言う派のくらたは『おしりたんてい』を読みました(『うんこ漢字ドリル』は図書館になかったので読んでませんすみません)。『おしりたんてい』は人気シリーズなので、おそらくどこの図書館にも所蔵があります。
お話そのものやゲーム本的要素は、『ゾロリ』シリーズなどとさほど変わりません。おしりくんは紳士的と聞いていたけれど、本当にキャラクターとしてはそのようです。
ただ、クライマックスで見開き2ページを使って描かれるおしりくんの必殺技「ブッ」!OH……これはいかん。おしりくんお尻のような形の顔の、常人であれば口にあたるであろうところから、茶色い不透明な気体がものすごい量放出されている。
くらたにはこれは受容できない。シンプルに絵面が汚い

確かにおならは児童書ではよく使われるモチーフで、『かいけつゾロリ』でも、ゾロリの手下のイノシシのイシシとノシシがさつまいもを食べておならで空を飛ぶシーンがありますが、かわいいもんです。その『ゾロリ』でさえ、シリーズ開始当初は下品だと眉を顰められたそうですから、隔世の感が否めません。
ていうか今しきりに宣伝されている『おしりたんてい』劇場版の広告の最後、おしりくんのキスシーンにおわせみたいな演出あるけど、その「ブッ」!ていうの出すところにキスするのかな……くらた的にはちょっとかなり相当気持ち悪いし、それを子ども向けコンテンツでやるって趣味悪いと思います。
くらたは、ゾロリまでは大丈夫派。くらたより上の世代の児童担当さんは、ゾロリもアウト派です。でも、その気持ちもわかります。児童担当を勤めた期間が長ければ長いほど、うんこなんか出さずとも面白くてすばらしい子どものための作品が、古今東西たくさんあることを知っているからです。

ジブリが描く排泄

本の話ではありませんが、ジブリアニメで笑いのために排泄を描いた作品を、私は知りません。そして言うまでもなく多くのジブリ作品は子どもにも人気があります。
ジブリの森美術館で観ることができる『毛虫のボロ』では、毛虫たちが草を食べてまるまると大きな糞を落とすシーンがあります。
生まれたばかりの毛虫のボロが、上の草から落ちてきた兄弟たちの糞に圧倒されるシーン。また、自身も何かわからぬまま初めて排泄を体験するボロの驚いたような表情。このシーンの主眼は、排泄がごく自然な現象であること、その自然な現象の迫力、そしてたいてい人間は覚えていないだろう「初めての排泄に対する感慨」を描き出すことにあっただろうとくらたは思います。

まとめ うんこ映画にするくらいならアニオリやめれ

排泄を扱わない作品でも、逆に、排泄を笑うためではなく真面目に扱う作品でも、子どもが楽しめる作品はたくさんあります
そして、原作スパイファミリーは間違いなくその一つでした(本来子ども向けに作られたコンテンツではないし、暴力描写は気を付けるべきだけれども)。
それなのにわざわざ「うんこ」映画に貶めた今回の劇場版については、くらたは怒りが収まりません。
非常に残念な映画化だったと言わざるを得ません。

どこかで書きたかったのですがなんか書く気も起きないでいたら(語るに落ちる、って感じ)、よそで原作と脚本家の悲しい事案が起きたので、著作権の話とともに書いて置くべきだと思いました。セクシー田中さんは未読なのでそちらのほうは作品については語るべき何をも持っておらず……。

お目汚し失礼しました。

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