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一昨年の桜が咲くころの出来事です。

私は午前2時過ぎにスマホの着信音で目が覚めました。
その電話は当時入院中の義母の弟嫁、B子さんからでした。

B子さんは同じ町内に住んでいました。
ご主人は(私の姑の弟)すでに他界、子供はいません。
腹違いの二人の妹とは仲が悪く、結局近所の(遠い)親戚の私が何かと手伝っていました。


16、7年ほど前にB子さんは乳がんを発症し、手術を受けました。

ところが「脱毛がいや!」「副作用が辛い!」という理由で、
その後の抗がん剤治療を拒否し続けたそうです。

私達は手術の事は知っていましたが、抗がん剤治療拒否については、
一作年になって初めて医師から知らされました。

話は戻りますが、
病室にいるB子さんからの電話を慌てて受けました。

しかし、なぜかスマホに耳を近づけても、何の音もしません。

「B子さんなんでしょ?どうしたの?しんどいの?しんどかったらナースコールしてね!」
「明日の朝絶対行くから待っていてね!」

私は大きな声で必死で何回も叫びましたが、全く反応がありません。


もしかしたら眠っているB子さんの体がスマホにあたって、電話がかかってしまっただけかな?
不安な気持ちを抱えながら、次の日は朝早めに義母とB子さんの入院先へ行きました。

B子さんは(小さくかすれた声ですが)その時は話すことができました。
B子さん:「夜中に電話して本当にごめんね!なんか寂しくて寂しくて耐えられなくなって、でも声が出なくて…」

私:「いいよいいよ!心配になって、今日は早く来たんやよ。」


後で、医師から聞きました。
「もうすでに癌が全身に転移し気管の周りにも張り付くようにあったので、恐らく電話の時は、息苦しさで声がうまく出せなかったのでしょう。」

B子さんは義母と私に対して
「忙しいのにいつも来てくれてありがとう。家にいる時も入院の時も、本当にお世話になったね。こんなに親身になってくれた人はいないわ。」と、涙ながらに言ってくれました。

いつもの彼女は自分の事は一切話さず、また感情も出そうとしないので
「ホンマに付き合いにくい人やなぁ」と感じていましたので、意外でしたがとても嬉しい言葉でした。

その後、B子さんがお昼ご飯を自分で(少量ですが)食べているのを見て、安心して帰宅しました。


私達が家に着いて間もなくです、病院から電話があったのは……

「様態が急変しました。急いで来てください!」

病室に駆け込むと、そこには、目を閉じ酸素吸入器をつけて仰向けになっている、B子さんがいました。病室は機械の音だけが鳴り響いていました。

私は何もすることができず、ただただB子さんの体をさすり続けました。「治れ治れ!」と言いながら……(もちろん、もう治らないことはわかっていますが)

意識があるかどうかわかりませんでしたが、私はB子さんに聞きました。
「体をさすらないほうが良いかな?」

すると、B子さんは突然大きく頭を左右に振りました!
聞こえていたんですね。B子さんの両目から涙がこぼれました。
私は自然に流れ落ちる自分の涙を拭くこともなく、B子さんの体をさすり続けました。もうこれでお別れだと感じたからです。

そしてB子さんは亡くなっていきました。

亡くなるその日に、初めて心が通い合ったような気がしました。


たおたおです。プロフィールよろしければご覧になってみてください。



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