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#写真
誰にも負けない身体と心
完全に統制された空間の中で、わたしだけが偽物である。とんだスパイ野郎だ。スパイのわたしはひとりひとりの顔や魂をこんこんと観察する。見た目に一般人との差異はないが、彼等の背中には、背骨に沿っていっぽん線のタトゥーが入っている。もちろん普段は服に隠れているわけだが、彼等の使命は、その線を常にまっすぐに保つことである。ぴんと背筋を伸ばして生きるのだ。笑うときも。泣くときも。食べるときも。交わるときも。タ
もっとみるdonor_10_End_太陽と詩人
太陽は(も)夢を見る
遠ざかる意識に身を横たえて
カラダに刻まれるそのビートを
時に心地よく時に疎ましく思う
頭から爪先にかけて
とろっとした液体が流れていく
あたたかくもつめたくもない温度
きっともうこれは夢の中だと
判断して太陽はねむる
太陽はねむる
詩人は想像力でもって液体となり
太陽のまわりをぐるりと囲みこんだ
熱に溶けぬように太陽の呼吸に合わせて
気体と液体を行ったりき
僕のグッド・ウィル・ハンティング
午後のニュースによると、大きな勢力を保った台風がいよいよ東京に近づいていて、電車が止まったり遅れたりしているようだ。でも、僕はお休みだから関係ない。みんな会社から帰れなくなったりするのだろうか。傘が盗まれたり、買ったばかりなのに壊れたり。みんなって誰のことだ。僕の家には傘がないから、雨の日は一歩も外に出られない。雨はこれで休みなく、三日三晩降り続けている。家には食べ物もないから、僕はとてもお腹が空
もっとみるかぼちゃさんの乗る電車
しかくい電車の中に
かぼちゃさんが沢山生えている
男のかぼちゃさんの息は臭く
女のかぼちゃさんの肌は汚い
わたしはマスクを
鼻の上までしっかり持ち上げて
呼吸の数をなるべく減らす
かぼちゃさんは
無意味に息をする
窓の外を自転車が走る
電車と同じくらいのスピードだ
ちらちらこちらを見ている
かぼちゃさんの乗る電車
朝日で眩しいはずなのに
意識はくらくら暗くなる
近くにいる男のかぼち