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免疫に関わる遺伝子発現も変えられるほど1かけでもパワフルなニンニク?!

高血圧から免疫の強化など多くの健康効果があるとされ、様々な分野で
研究されているニンニク。その中から今回はニンニクとがん研究に焦点を
あてます。そして、なぜヒトでの臨床試験が少ないのかも考察してみます。 

この記事はニンニクに「がんを予防する効果がある」「がんのリスクを下げる」など不正確な情報で、過度な期待を煽るのが目的ではありません。

実験室での研究では、ニンニクに含まれるアリウム化合物に抗がん作用があることが示されていますが、ニンニクががんのリスクを下げるという裏付けは、ヒトでの研究からは得られていません。

がんリスクにおけるニンニクの役割が、量、吸収、調理法、個人差によってどのように異なるかを理解するためにはまだまだ研究が必要であり、ニンニクとがんリスク低下について結論を出すにはデータが限られています。

実験室での研究

ニンニクとがんに関する研究のほとんどは、ニンニクのアリウム化合物に焦点を当てています。中でもアリシンという物質が最もよく研究されており、これはニンニクの組織が損傷を受けたり粉砕されたりしたときに放出される酵素から生成されるものです。

細胞・動物実験では、ニンニクのアリウム化合物が特定の種類のがんの発生を減少させたり、がん予防の役割を果たす可能性が示されています。

これらの効果は、腫瘍抑制遺伝子をオンにするなど遺伝子発現に影響を与えることによってもたらされていると考えられています。

ヒトでの研究

ニンニクに関連するヒトを対象とした臨床試験はあまり多くありませんが、
ここで1つ論文を紹介します。

2015年にニンニクの作用を調べるために行われた臨床試験では、
17人を生ニンニク(5g)を使った食事を食べるグループと生ニンニクを含まない食事を食べるプラセボグループに分けて、1回の食事の後に被験者の血液を解析しました。

健康効果が証明されているされていないの話ではなく、生ニンニク5gはニンニク一欠片かそれより少し小さいぐらいなので、現実的に日々の食生活に取り入れることが可能な量で研究されたというのは私的にはポイントが高いなと感じました。

この結果、生ニンニクを使った食事をとったグループでは、生ニンニク摂取3時間後に異常細胞の自己破壊や免疫機能の調節に関連する7つの遺伝子を活性化することが示唆されました。

H1F1AとかJUNとか書かれているのが、遺伝子発現が活性化することが分かった遺伝子です。統計学的にP<0.01というのは、次にまた同じ実験をした時に同じような結果にならない確率が1%以下ということです。非常に高い信頼度で、ほぼ100%でこれらの遺伝子発現がニンニクの摂取で活性化されるようです。

”異常細胞を破壊したり、免疫機能を調節する遺伝子の活性化”
なんか、良さそう。だけどだから何?と思いますよね。

clinical outcomeつまり、ニンニクの摂取と関係する健康、機能、生活の質など私たちが気づくことのできる変化はないのかと思ったので、ここで今度はclinical outcomeにフォーカスしてニンニクに関する論文を探してみたところいくつかの論文がありました。
例えば、

「ニンニクとヘリコバクター・ピロリ菌と胃がんリスク」に関して調べたシステマティックレビューとメタ分析
「ニンニク摂取と結腸直腸がんリスク」に関して調べたメタ分析

これらの研究の結果を要約すると、ニンニク摂取と胃がんリスクとの有意な逆相関を示し、結腸直腸がんに関してもリスクを低下させる可能性を示しました。
ですが、これらの結果は主に症例研究に基づいて導き出されたものです。症例研究は過去に遡って特定の要因に曝露されていたかどうかを比較することで要因と疾患の関連性を検討する方法です。

症例研究を簡単に説明すると、胃がんになった人となっていない人に、ニンニクよく食べてましたか〜?ニンニクを使った料理は定期的に食べてましたか〜?的なことを質問して、過去のことを思い出してもらうような感じなので、この種の研究は強力なタイプの証拠とはみなされません。

症例研究の限界を考慮すると、これらの研究のエビデンスはニンニクとヘリコバクター・ピロリ感染との関連や結腸直腸癌リスク低下について明確な結論を出すには十分ではありません。

慎重に解釈するべき研究結果ですが、症例研究であっても症例数が多ければ統計解析から得られる精度は上がり、科学的妥当性も高くなります。

どんな研究だと強力なタイプの証拠を見つけられるのでしょうか。

大規模な前向きコホート研究を行うことができれば、ニンニクのガンに対する根本的な予防効果の解明に貢献することが期待できます。上に紹介した研究方法のように被験者の記憶に頼るのではなく、ニンニクを食べる人と食べない人のグループに分けて今から観察を始めX年後にガンになっているかどうかを追跡していくような方法です。

ただ、なぜこれがガンの研究で難しいかを考えてみると、
例えば、骨粗鬆症であれば、骨密度は年齢とともに、特に閉経後に減少していくので女性で50歳以上の人100人集めれば、100人の女性のうち大体数の女性で骨密度は低下していく・低下していると予測できるので、骨密度と○○の関連を調べるための”人集め”と言う点では高確率で集めた人を研究の対象とすることができます。
一方、50歳以上の女性100人を集めたところで、研究をしようとしている時点でこの100人のうち何人がガンになるかは予測するのは難しいですよね。100件の症例を得るために何人を集める必要があるかということを考えると、骨粗鬆症の症例を100件集めるよりもはるかに多くの症例を集める必要があるというのはお分かりいただけると思います。
ましてや、○○ガンとの関連性を調べたいなどと特定のガンに限定するとより難しくなってくるのは容易に想像がつくと思います。

このような点からもニンニクとガンのリスク低下について調べるために症例を集め、前向きに追跡していくのには莫大なコストがかかるります。そのため現時点では大規模なコホート研究が少なく、動物や細胞レベルでの研究が多いということなのではないでしょうか。

ニンニクを使う時のワンポイントアドバイス!

ニンニクを刻んだり潰したら、調理の前に10分ほど置いておくことです。

こうすることで、アリイナーゼという酵素が活性化合物の元となるアリシンを生成する時間を確保することができます!

最後に

現時点ではヒトにおけるニンニクの効果の研究の多くは症例研究で、エビデンスレベルが高いとは言えませんが、ニンニクはすでに私たちが普段から使っている食材なので、個人的にはニンニクの健康効果に興味を持って普段の生活に積極的に取り入れるだけの価値は十分あると考えています。

免疫機能や異物破壊に関連する遺伝子発現の活性化がどのようなclinical outcomesにつながるかは証明できていなくても、たった1かけのニンニクがこれらの遺伝子発現を活性化するのは、「驚くべきニンニクのパワー」と言えるのではないでしょうか?

外出時はいつでもマスクが必要な今日この頃なので、ニンニクを食べるなら
生で食べる機会を増やそうかなと思いました。生だと刺激が強いのでくれぐれも食べ過ぎにはご注意ください。

皆様が健康に一歩でも近づけますように!
Moet


参考文献

Charron CS, Dawson HD, Albaugh GP, et al. A Single Meal Containing Raw, Crushed Garlic Influences Expression of Immunity- and Cancer-Related Genes in Whole Blood of Humans. J Nutr. 2015;145(11):2448-2455. doi:10.3945/jn.115.215392

Zhou X, Qian H, Zhang D, Zeng L. Garlic intake and the risk of colorectal cancer: A meta-analysis. Medicine (Baltimore). 2020;99(1):e18575. doi:10.1097/MD.0000000000018575

Li Z, Ying X, Shan F, Ji J. The association of garlic with Helicobacter pylori infection and gastric cancer risk: A systematic review and meta-analysis. Helicobacter. 2018 Oct;23(5):e12532. doi: 10.1111/hel.12532. Epub 2018 Aug 28. PMID: 30155945.


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