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読書記録:たかが従姉妹との恋。 (ガガガ文庫) 著 中西鼎

【始めてのキスは甘くほろ苦く、鮮烈に記憶に焼き付く青春】


【あらすじ】
初キスの相手は四つ年上の従姉だった。

初めてキスをしたのは幹隆が小学六年生の時、相手は四つ年上の従姉「あやねえ」こと、中堂絢音。

「みっくんはさ、私のこと。いつかは絶対に、忘れないと駄目だよ」

だが、幹隆はいつまで経っても、あやねえのことを忘れられずにいた……。

幹隆の祖父・中堂源一郎が死んだ。大富豪であると同時に恐ろしい女たらしだった彼にはたくさんの孫がおり、彼の遺言状により孫たちには都心にあるマンションの一室が与えられた。

都内の高校へ進学し、そのマンションで一人暮らしを始めた幹隆は、懐かしい人物と再会する。同い年の従妹・真辺伊緒と、その双子の妹の真辺眞耶。彼女たちもマンションの一室を相続したことで、故郷の三重から東京へ越してきたのだ。互いの部屋を行き来してのお泊り会など、幹隆にとっては不本意ながらも彼女たちとの賑やかな日常が始まる。

そんなある日、幹隆はマンション内であやねえと再会する。彼女もまた同じマンションの住人だったのだ。

大学二年生になった彼女は、幹隆の鮮烈な記憶の中のまま美しく成長していて……。

初恋の相手は四つ年上の従姉だった――甘くて苦い恋物語。

Amazon引用


登場人物紹介

初恋の人と運命的に再会する物語。


何事も初めての経験はそこから何かを見出そうとする物で、大した事がなくても尊く扱おうとする物。従姉との記憶が鮮烈に焼き付く幹隆は、祖父が亡くなり、莫大な遺産と高級マンションの一室を手に入れた。
学校に通う中で懐かしい双子である伊緒と眞耶とも再会する。
彼女達との賑やかな日々を過ごす中で、初恋の絢音とも巡り合い、伝えられなかった想いに向き合う。郷愁を感じながらも、従姉妹達に囲まれて生活する中で。

大富豪であり稀代の女たらし、故に子孫多数。
あちこちに種をまき散らした事で死後、骨肉の遺産争いを巻き起こした男、源一郎。
そんな存在を祖父に持つ幹隆は源一郎が子供達には明確に残さないものの、孫たちには段階的に渡るようにしていた遺産の一つである東京のマンションの一室に引っ越す事を決める。
源一郎の遺産争いに手を出している両親から離れ、故郷である三重から東京へと引っ越し、進学に伴って、一人暮らしを始める。

始まって早々、凪夏という級友と仲良くなって。
可愛い彼女に、初恋のようなときめきを感じながらも始まる、彼にとっては新天地での新鮮な生活。

しかし、その日々は唐突に変化の時を迎える。
彼に遅れる事少し、同じクラスに転校してきた従妹である伊緒と、その双子の妹である眞耶。
お互い気を使わないやり取りを繰り広げて。
子供心特有の、今冷静に省みると、とんでもないやり取りを繰り広げていた相手に、最初はぎくしゃくするも。
同じマンションに引っ越してきた事でまた距離は縮まり、あの日のような関係にすぐに舞い戻って。
その最中、ついに彼は再会する。
初恋の相手であり初キスの相手であった四歳年上の従姉、絢音に。

年齢を経て、更に美しく成長して、あの日は無かった香りまで漂わせる彼女に、心のどこかに残っていた気持ちを震わせながら。
凪夏との関係を疑った伊緒に、絢穂に助言を求める事になり。
気が付けば、彼女達にサポートされる事になり、凪夏との恋へと強引に駆り出されていく。

そんな中、ふとした眞耶の言葉が幹隆の心を揺らす。
バタフライ効果のような、そんな奇跡があってもいい、と何かを望むのを仄めかす彼女の言葉。
それがどうしよもなく、心に突き刺さっていく。

気の許せる従姉妹達とぬるま湯のような停滞を享受していく中、今までの生い立ちと経験で拗れきった恋愛観。
自分自身が成長すると同時に、世界の捉え方が変わっていき、子供だった頃の懐かしい思い出と共にあの頃とは何かが違うという寂寥感が込み上げてくる。
再会して間もない頃は、その容姿の変化に衝撃を受けて、二の足を踏んでしまうが、もう一歩踏み込んでみると。
昔と何も変わっていない純朴な心がある事が分かり、何とも言えない懐かしさも滲み出してくる。

自由な恋愛をして良い筈なのに、「好き」は「選択」であり「行動」でもある。
誰かを愛したり愛されたりする事は、世界を壊す事である、ある種の呪いで。
愛は世間では美徳とされるが、その想いが強ければ強いほどに、自分の世界に興味がなくなり、省みなくなる。

そんな現実に葛藤しながら、恋というものは何なのか、どこからどこまでが恋なのか考えて行く中で、メビウスの輪のように答えのない問題にぶち当たる。
「従姉妹」という、血縁だけど結婚できる絶妙な距離感。
始まるのではなく、止まっていた物が再び動き出した故の、一筋縄ではいかない恋心の錯綜。
叶う筈のない過去の恋愛に縛られた現状から逃れる為の、覚悟と行動。

遠く過ぎ去りし、もう届かない想い出を懐かしむように噛みしめるように思い出しながら。
少しくすんだセピア色の青春を重ねていく。
誰もが、どうしよもなく青さと未熟さを抱えていて。
己の想いに振り回されながら、燻り続ける感情を埋めてしまうのか、燃やすように身を捧げてしまうのか。

たかが従姉妹との恋、されど従姉妹との恋。
まさしく、どこか痛々しく青くて、誰もが若く、大人とは言い切れなくとも、揺れる思いに戸惑わされる。
けれど、その感情の起伏こそが、甘くてほろ苦い青春の醍醐味とも言える。

凪夏と従姉妹3人それぞれの想いと考え方が交錯する中で、幹隆の積年の想いは、従姉妹である絢音に届くのか?

彼らの未熟な青い春は、ちゃんと結実を果たせるのだろうか?



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