短編小説【「手記」えにし】
その昔別れた彼女がこんな話をしてくれたことがある。
彼女の父親が病気で亡くなり葬式をした。葬式の前日に30代半ばの女性が訪れた。
母親はその女性のことを知っていたようで家に招き入れた。女性が彼女を目にすると、こちらを向いて少し涙ぐんだ目で頭を下げた。
女性は家の中に入り、そのときはじめて彼女も呼ばれて母親から紹介された。
3人の女性を取り囲む場所がリビングなのかダイニングなのか聞いてはいないが、ともあれ女性は一通りのお悔やみを言った後、彼女が初めて聞く話を語り出した。