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【読書】結局ナチスとはなんだったのか?

ナチスはいったいどこからやってきたのか?ナチスを実体験した政治理論・哲学者ハンナ・アーレント著。全体主義を因数分解し、一つ一つ掘り下げ源泉を探り、再構築して全体主義体制の核心を照らし出した一冊。

記事要約

  • 全体主義の特徴である反ユダヤ主義優越人種主義の源泉を、ナチス台頭以前の当時の社会・文化的文脈に求める。

  • 全体主義台頭の条件は、階級の消滅、大衆の組織化、インテリ層の支持取り付け等

  • 全体主義体制は、恐怖と洗脳を伴うプロパガンダを通じて大衆の支持を確保し続ける事によってのみ維持されうる。




1.本の紹介

米国の政治哲学者ハンナ・アーレント(ドイツ出身ユダヤ人、1906-1975)の著書で本のタイトルは「The Origines of Totalitarianism」(1951年出版)邦訳は「全体主義の起原」、みすず書房から3部作として刊行。

全体主義の神髄に迫った名著。

2.本の概要

反ユダヤ主義を信条の一つとして掲げたナチズムだったが、反ユダヤ主義自体はナチズムの台頭以前から存在する根深い問題であった。アーレントは、その反ユダヤ主義の歴史的社会的文脈を丁寧に紐解いていく(第一部)。

さらにナチズムのもう一つの信条でもある優越人種/Raceという概念を、近代帝国主義の台頭の国民国家の形成過程に見出す(第二部)。

そして全体主義/Totalitarianismに台頭については、個の意識を持たないSelflessでかつリーダーに対する忠誠心の高い大衆/Massesの形成・組織化と貴族や資本家層を中心とした階級社会の消滅、全体主義的運動とリーダーたちのRadicalism/過激さに魅了されたインテリ層の支持などの要因に着目。

全体主義的な運動の勢力拡大に寄与したのが、大衆を支配するツールであるプロパガンダ的洗脳 / Propaganda with indoctrinationと恐怖心/terror。特に強制収容所に体現されるTerrorが、全体主義的政治体制の要であり、法治国家の法に当たるような支配の道具であったとする。

ナチスドイツが使ったプロパガンダ・ポスターの画像
1938 年 4 月に併合されたオーストリアとドイツの統一を宣伝するドイツのプロパガンダ ポスター(出典: USホロコースト博物館)

そして全体主義的体制/Regimesというのは、あくまで大衆からの支持と信頼を保持し続けることができて初めて成立しうると強調。

… the totalitarian regimes, so long as they are in power, and the totalitarian leaders, so long as they are alive, 'command and rest upon mass support' up to the end. Hitler's rise to power was legal in terms of majority rule and neither he nor Stalin could have maintained the leadership of large populations…. if they had not had the confidence of the masses.

pp.400-401
ナチスによるミュンヘンでのビアホール騒動の画像
ナチスによるミュンヘンでのビアホール騒動の画像

特に興味深いのが、近代以降の独裁者とそれ以前の圧政者の間にある決定的な違いは何か?に関する著者の見解。

それは恐怖/Terrorの使い方にあるという。歴史上の圧政者たちが暴力的手段として抵抗者や反対者らに露骨に恐怖を抱かせ抹殺する手段/meansとしての恐怖/Terrorを使用した。

一方、近代以降の独裁者たちは、ごく普通で完全に従順な大衆/Masses of peopleを支配するツール/Instrumentとして、無実な犠牲者(抵抗も反抗もしていない)に対して使用したところに違いがある。

A fundamental difference between modern dictatorshps and all other tyrannies of the past is that terror is no longer used as a means to exterminate and frighten opponents, but as an instrument to rule masses of people who are perfectly obedient. Terror as we know it today strikes without any preliminary provocation, its victims are innocent even from the point of view of the persecutor.

p. 7

3.感想/オピニオン

ナチズムという全体主義的体制を実際経験したことのある著者だからこその説得力ある分析。彼女本人もインタビューで言っていたが、哲学的分析というよりかは、政治理論チックな分析。

しっかりとした歴史的考察に基づき近代における全体主義的運動の台頭と繁栄について、ヒトラーやムッソリーニといったワルモノだけに焦点を当てるのではなく、その背景にある社会文化的、あるいは政治経済的要因にまで掘り下げた本。

ヒトラーが悪いと言ってしまえばそれで終わってしまうが、それでは問題を取り違えてしまう。全体主義という大きな社会政治的現象の中に、その要因を求めようとするそんな研究書。

このことは、著者の別書籍「エルサレムのアイヒマン」とも共通する事だが、全体主義の一番気持ち悪い部分である大衆によるユダヤ人の大量抹殺という現象を解き明かそうという彼女の試みが見てとれる。エルサレムのアイヒマン概要は以下。

トランプ大統領の再選が現実味を持って語られる今日この頃。この本を読むと、本当に怖いのは彼ではなく、彼をサポートする大衆にあることがわかる。彼らは、国会議事堂を襲うほどトランプに忠実な大衆であり過激。彼らが親衛隊化しないことを祈るばかり。

最後に一言

こういう本こそ、しぬ前には読んでおきたい本な気がした(人それぞれだけど)。なのでこの年でこの本に出会えて良かった。

ドイツ人英語なのか、読むのにちょっと苦労。

本記事は、あくまで私がポイントだなと思った部分のみ書き出しまとめているだけです。この概要記事がきっかけとなり、この本に興味を持っていただけたら幸いに思います。


併せて、他の記事もご覧いただけたら幸いに思います。


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