「負債論」読書メモ

この有名な本は分厚く見えるが三分の一は注と訳者あとがきなので実際は三分の二の分量だ。トピックは経済人類学的材料を知っている者ならば面白くよめるのだが、理想の社会モデルのようなところ「五章から」あたりでつまづいてくる。確か昔読もうとして放棄したのもこのあたりから先に読もうとしたためと思われる。それはなぜか。五章で安定した互酬というものは再構成された概念にすぎないと言っているように思われるのだが、それは交換概念自体にもあてはまる。そこで出てくるのが経験論的なヒエラルキー概念だが、雑多な証言と共にけっきょくあれこれの概念がまぜこぜにされる。著者が言っているコミュニズムはロシア革命以降のそれとはちがうのだが、能力に応じて働き、必要に応じて取るというレーニンの強調していた原則と同じものである。著者はくりかえし経済人類学的な珍奇な題材は近代社会には通用しないといっているように見えるのだが、にもかかわらず次々とものめずらしいケースを引用してくる。九章の古代をあつかったところぐらいで読む気がなくなってくる。戦争・奴隷・貨幣の三位一体が語られるだけに思われ、そこからすべてが派生してくるような語り口に見えるからだ。著者の暴力はマルクスの大雑把な搾取概念の均等化に思えてきた。

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