マガジンのカバー画像

小説「真夜中に目が覚めた」

15
「真夜中に目が覚めた」で始まる、結婚とは、夫婦とは、家族とは、幸せとはを綴った短編連作。
運営しているクリエイター

#母親

【第六夜】ありがとう

【第六夜】ありがとう

 真夜中に目が覚めた。

 明日、いや、すでにもう今日か、私は25歳になる。と同時に、結婚式の日を迎える。

 しっかり寝ておきたかったのに……母があんな話をするから……気になって仕方がなかった。

 物心ついた時、すでに父親はいなかった。母ひとり、娘ひとり。自分の名前が父親の名前から一字とってつけられたことと、その父親はすでに他界していることだけ聞かされていた。

 けれど……本当は

もっとみる
【第七夜】澱

【第七夜】澱

 真夜中に目が覚めた。

 家の中に漂う空気は明らかに昨日までのそれとは違っていた。昨日まであった美優の気配が、今はもうない。あの子の存在が私を支えてきたことを改めて実感する。

 後にも先にも一度だけ……忠幸さんの葬儀の時、これが最初で最後だと言って、奥さんから私に連絡がきた。

 正直、悲しいという感情は湧かなかった。余命半年と聞かされた時、彼の最期を受け止めるだけの情は私にはなかった

もっとみる
【第八夜】ひとり

【第八夜】ひとり

 真夜中に目が覚めた。

 「ひとり」だということが、こんなにも心許なくて、不安でさみしいことだなんて知らなかった。

 もう立派な大人で、小さな子どもがいてもおかしくないぐらい年を重ねているのに……私は今、迷子になった子どもみたいに不安で押しつぶされそうになっていた。

「洋二さん」

「ああ、美幸ちゃん」

「ちゃんはないでしょう、私明日で25だよ」

「しょうがな

もっとみる
【第十二夜】泣き笑い

【第十二夜】泣き笑い

 真夜中に目が覚めた。

 手を伸ばすとそこには温かい小さな手がある。私は暗闇の中その先にある小さな塊を優しく抱きしめ、また眠りについた。

「ようじぃ、今日くる?」

「さあ、どうかなあ?」

「ねえ、ようじぃ、まだ?」

「幸子は、ほんとにようじぃが好きだねえ」

 日曜の朝、目を覚ました瞬間から、幸子はようじぃはまだかとうるさい。確かにようじぃは毎週日曜にやってきて、

もっとみる