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バラに突っ込む男

男性二人。
 
「いいな~」
「お前、ずっとそれな」
 
「だって、
 いいものはいいじゃない」
「まあそうだけど。
 ただただながめてて、楽しい?」
 
「すごく…楽しい」
「そう……
 ……告白すれば?
 
「ば、ば、ばかっ!
 そんなの無理だって!
「何で?」
 
「何でって…あれだよ!?
 
 美人で口数も少なく、
 仕事ができて所作しょさに無駄がなく、
 一切のすきもない…。
 
 近寄りがたいそのたたずまいは、
 まるで一輪のバラのよう…。
 
 その美しい枝には無数のトゲが…
 僕はそれが怖い…。
 
 だから近づけない…
 でも、見とれてしまう…」
「それで?」
 
「それでって言われても…
 無理でしょ?
 どう見ても?」
「どうして?」
 
「どうしてって…
 そんな矢継やつぎ早に聞かれても…」
「お前のさっきの鈴木さんの表現の方が、
 矢継ぎ早で気持ち悪かったけどな
 
「そういうのその場で突っ込んで!
 あとから言われるともの凄く恥ずかしい!
 でなければ心の奥に閉まっといて!」
「今度からそうるすよ。
 ようするに…
 美人過ぎるから無理ってこと?」
 
「そう!
 それ!」
「でも美人だって恋人作るし、
 結婚してるじゃん…芸能人とか」
 
「いや、そうだけど…。
 でもほら!
 
 やっぱり相手って、
 それなりの人でしょ?
 俳優だったりスポーツ選手だったり」
 
一般人ってのも多いぞ
「あんなの一般じゃないよ!!
 医者だったり弁護士だったり、
 大手広告代理店の社員とか、
 ITベンチャーの社長とか、
 経営者だったり…外資系だったり…」
「お前はスイッチが入るとキモいな。
 呪いの呪文みたいに聞こえるぞ」
 
「だってそうでしょ!?
 そういう人でしょ!?
 美人と結婚する人って!
「まあ間違ってはないけど、
 鈴木さんは俺たちと同じ、
 この会社の社員だろ?
 
 同じフロアーで仕事してるんだぜ?
 
 自分が芸能人と付き合うのと、
 鈴木さんと付き合うの…
 どっちが確率高い?

 
「鈴木さん…?
 いやいや、ないない!」
 ありえない!
 よく見てよ、あの姿を!」
「足…超長いね」
 
「ね!
 あんな素敵な人、
 絶対、恋人いるに決まってる!
 男ならほっとかないよ!」
「お前、ほったらかしじゃん!」
 
「僕は見守ってるの!」
「何も守れてねえよ!」
 
「……はい……そうです。
 僕は心の痛みに弱いんです。
 
 あんな高嶺たかねの花子さんに告白して、
 振られたりしたら…
 もう一生、女性不信になってしまう…」
高嶺の花な。
 あの曲に引っ張られてるから…。
 しかし…お前さあ…
 一生…彼女を眺めてるつもり?
 じいちゃんの盆栽ぼんさいじゃあるまいし」
 
「ちょっとずつ…
 ちょっとずつらしてるんだよ。
 こうやって見つめることで、
 免疫めんえきつけて…彼女に近づこうと。
 彼女はやっぱり…高値のバラだから」
「11月は旬だけどな。
 っていうか…もうすぐ12月だぞ。
 んで、どこまで近づけるようになった?」
 
「書類の手渡しは無理だけど、
 自販機で並んだ時、
 鈴木さんの後ろにひとり居てくれたら、
 大丈夫だった」
クリスマスは絶望的だな
 
「大丈夫!
 現代社会では交際経験のない人は2割。
 交際中の相手がいない人は7割!
 そう言ってる自分だって、彼女いないくせに」
「まあそうだけど」
 
「ほら見て!
 同期の岡村くん。
 彼は僕の精神安定剤…。
 彼を見てると鈴木さんとは違う…
 充足感を与えてくれる…」
「お前、岡村のこと下に見てるだろ?
 まあ確かに…モテるタイプではないな…。
 
 また、部長に怒られてるし…
 あ~あ~書類落として~
 
 何であいつ、
 しゃしゃり出てくるんだろうな?
 
 それやります…
 それ手伝いますはいいけど、
 ミスばっかで足引っ張ってるしな」
「岡村くんを見てると、
 クリスマスもおだやかに過ごせそう…
 
「あっ、鈴木さん。
 岡村の書類拾うの手伝ってる
「優しいなあ~鈴木さ~ん」
 
「嬉しそうにしやがって…岡村のやつ…
 ペコペコペコペコしてんじゃねえよ。
 
 岡村のくせに~
 鈴木さん…めっちゃ笑顔だな…
 
 ん?今の何?
 
 右手を振って…またね~の後に二人…
 手でタッチしたぞ!?
 おい!見たか今の!」
…………チーーーーン
 
「ヤバい!
 白目むいてる!
 どうなってんだ!?
 二人って仲良かったか?!」

向かいの席の女性社員。 

え~知らないの?
 二人は付き合ってんのよ

「え!?
 あの二人って、恋人同士なの!?」
 
「岡村くんは見た目はあれだけど、
 何にでも一生懸命だし、
 頑張り屋さんでしょ?
 
 鈴木さんって美人だから、
 学生の頃からモテたみたいだけど、
 ろくな男しか来なかったとか言ってたわ。
 
 だから入社した時からずっと、
 岡村くんがいい…
 岡村くんと付き合いたいって、
 言ってたところに…ちょうど」
「まさか…岡村がコクった?
 
「そうみたい。
 私はあの二人。
 とってもお似合いだと思うけど」
 
「おい!
 聞いたか!
 聞いてるか、おい!」
…………チーーーーン
 
バラを恐れず突っ込む男…岡村……
 いや!
  バラを抱きしめる男…岡村…」
…………チーーーーン
 
「お前…完敗だな…。
 
 今回はこんな結果だったが…
 
 お前も岡村みたいに、
 好きになったら迷わず、
 真っ直ぐな気持ちで挑戦しろ!
 
 そうすれば岡村みたいに、
 美人とだって付き合えるさ!
 なっ!」
「すず…き…さ~ん…」
 
絶望という名の贈り物が、
 1ヶ月前に届いてしまったか…

 

このお話はフィクションです。
実在の人物・団体・商品とは一切関係ありません。 

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