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「質より数」がやてっく~誕生前夜~#45

人事部に呼び出されたという不穏な状態の荒井さんがいる一方で、新規事業の立案という命を預かった僕もよく分からない壁にぶつかっていた。

今までの打ち合わせで決まったことを総合して考えると、実はビジネス的な方向性が何も定まっていない。その上でなぜか、方向性だけが進行しているという状態になっている。

アイデア自体には、あまり価値はないと思う。想像の域を出ない以上、こればっかりは、やってみないとどうにもならないからだ。ただ、アイデアがないとゴールが決まらない。ゴールが決まらなければ、進むべき道は分からないのだ。

僕たちは今、どこに向かったらいいのか分からない状態でひたすら船を漕いでいる。そんな状態に陥っていた。

もう嫌だなぁ~と思っていた僕だったが、冷静になれたのは荒井さんとの電話があったからだった。正直なところ、荒井さんが置かれている状況よりは、自分は幾分マシなほうだと思った。僕は僕で、自分をしっかり確立しないといけない。そう思った。

僕は前回の打ち合わせの中で、そもそも企画立案や話し合いの方法に問題があると考え、それをやんわり下野さんに伝えた。でも、こうして冷静な状態になってみると、それが伝わっていないことは明白だった。それに、話し合いの方法を確立する手助けをしたところで、今実際に行われている新規事業の立案については、何も進んでいかないということにも気づいた。

僕がやらなければいけないことは2つある。話し合いや企画立案の方法を統一させながら、この新規事業のアイデアを決めるのだ。

普段の仕事をしながら、この2つを考え・形にするのは大変だ。C社は基本、営業・作成指示・面割り・会計確認・現金回収・未回収対応を1人で行う。対応するお客さんが増えていくと、その分だけ仕事のボリュームも増えていくのだ。

圧倒的にめんどくさいと思いながらも、気をしっかり持ったうえで、この状況を打開することに決めた。

まず僕は、新規事業のアイデアを考えることにした。

良いと思うアイデアを1つ考えるのではなく、最低でも30以上のアイデアを持っていくことにした。数で勝負することにしたのだ。

なぜ数で勝負しようと思ったのか?

そこには3つの理由があった。
・数を出した方が通る確率が上がる
・数を出した方がやる気があるとみられる
・やる気があると見られれば干渉されることが少なくなる
この3つだ。

僕は別に、この新規事業に本気で取り組むつもりはない。この不毛な時間を延々と繰り返すのが嫌なだけだ。だったら、通す案なんてものはなんでもよくて、要は相手が納得すればそれで終いなのである。

サラリーマンは効率重視だ。効果的な仕事よりも、多くのタスクをこなし、多くの売上を作ることが求められる。それは企画も同じで、結局のところ数なのだ。上司が判断する評価軸は、数の多さで決まるのだ。

以上の理由から、とにかく沢山のアイデアを出した。

C社が発行しているフリーペーパーの過去のバックナンバーを展示した展示場を作る、有料媒体を持つ、WEBメディアを作成して広告趣向を拡大する、求人のマッチング事業を設立などなど、、、、(笑)

テキトーなのではなく、下野さんでも分かるような・イメージできるような案を中心に確立したのだ。

僕はそれを紙に書きだし、下野さんに提出することにした。もちろん前提として、アイデアをもう一度洗いなおす必要性を説明してからだ。

最低限の労力で進めることも忘れていなかった。幸い営業成績は、僕が大きな労力をかけなくても、ある程度は回るようになっていた。あとは事務的な作業を自動化して、ノータッチで進んでいくようにさえすれば、僕がいないところで、勝手に事務作業が進んでいる状況が作れる。

この時すでに、3時間程度しか働いていなかった。それでも十分、与えられた課題をクリアすることが出来ていた。僕はここに1時間をプラスして、この新規事業案件を動かしていくことに決めた。

この時、僕の体制は固まったように思う。地域PIKCSプロジェクトが始まってからというもの、僕の仕事の体制は崩れつつある状態にあった。再度体制を整えることが出来たのは、僕がこの会社に抱いていた幻滅感のおかげだと思う。

度重なる政略は、僕に客観的な視点を取り戻させてくれた。僕はもう一度、自分のスタイルを思い出し、色々なタイミングを見定めようと努めることが出来るようになったのだった。

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