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連載小説【正義屋グティ】   第50話・スノーボールアイランド

あらすじ・相関図・登場人物はコチラ→【総合案内所】
前話はコチラ→【第49話・三千年の恨み】
重要参考話→【第2話・出来損ない】(五神伝説)
      【第42話・世紀大戦 ~開戦~】(世紀大戦・①)
【第43話・世紀大戦 ~侵略~】(世紀大戦・②)
【第44話・クローバーの戦い】(世紀大戦・③)
【第45話・邪魔者】(世紀大戦・④)
【第46話・裏の裏】(世紀大戦・⑤)
【第47話・寝返り】(世紀対戦・⑥)
【第48話・緑の悪魔】(世紀対戦・⑦)

物語の始まり→【第1話・スノーボールアース】

~前回までのあらすじ~
時はさかのぼり約六十年前の2950年。グティ達の時代の世界情勢にも大きくかかわる事態が起こった。カルム国の宿敵、ホーク大国では五神伝説の一人であるホークによって命を救われたヨハンという少年がいた。少年は数年後政府の幹部にまで上り詰め、「この平和ボケした星には絶対的な主が必要だ」という正義を元に中央大陸連合軍へ宣戦布告し、世紀大戦がはじまった。ホーク大国は持ち前の軍事力によって次々と小国を撃破していき、遂には中央五大国の一つであるトレッフ王国に目を付けた。士気を高めるために五神の一人のホークと共に進軍していったホーク大国軍の勢いは衰えることなく、トレッフ王国の中心にある緑の城までもが制圧された。しかしその後、寝返ったホーク大国軍総隊長のフロリアーノに情報を聞いたサイモン率いる中央大陸連合軍と、それに協力するフレディ総裁率いる正義屋による攻撃でホーク大国軍は降参を認めた。しかし、正体不明の緑の液体により戦場はパニック状態に。そんな中、未だに逃亡を図っていたホークを追うためにフレディは狼にその姿を変え、遂にホークを捕らえ動きを封じ込めることに成功した。「三千年ぶりだな」そう睨みつけたフレディの真意とは……

50.スノーボールアイランド

荒廃した大国の少年が成り上がり正義を見つけ
それに縛られた少年は未来のため、兵を出す
国は崩れ町は焼け巡り合った人と人を引きはがし
それを終わらせるためにこの島にやってきた
しかし戦いは長引いた
自然や建物、人の犠牲は今この瞬間にも増え続ける
そんなこと火を見るよりも明らかだ
それでも人々は戦うことをやめなかった
彼らの信じた『正義』のため
『正義』の犠牲を積み重ね両陣営が死に物狂いで繋いだものは
この二人に託された

「三千年ぶり……だって?」
ひんやりと冷たい土に背をつけ、腹に乗る白銀の狼に身動きを封じ込まれたホークは眉をひそめた。海の香りがする方の空の青は徐々に明るくなっていき、ぬるい風が町の中を駆け巡る。狼の姿に変貌したフレディはそれを全身で感じると、心を落ち着かせようと大きく息を吸った。
「なぁにとぼけてやがる。これだから老人は困るんだ」
ホークは生唾を飲み込んだ。意外にも人の言葉を話す狼に追い詰められているこの状況に恐れはないようで、じっと狼の目の奥を見つめていた。
「なんだ怖くないのか。おいらはお前さんと同じ言葉を話しとるんだぞ」
案の定気になったのか、フレディは鋭い声でそう詰める。
「私は五神だ。それくらいの事では怯えやしない」
「話さないのを嫌なほど見たからか?地球で」
「……地球だと」
ホークの目の色がギラリと光った。その目は不死身のホークには決して映りえなかった恐怖と警戒の色があるようにもフレディは思えた。静まり返ったこの空間に再び沈黙が訪れ、風の流れる方向が変わる。その風は緑の城の方向から犠牲になった者たちの緑の灰を乗せ、二人の周りを取り囲んだ。
「あぁ、腹が立ってくる。この忌々しい灰を見てるとよ」
灰の列が二人の間を通り過ぎると、フレディは不満げに言葉を漏らす。
「……そうだろうな」
ホークは何かを確信した様子で、その灰たちに焦点を合わせた。通過していった緑の灰は空へと昇り、ホークはそれを目で追う。灰が目の前から消えのんきに目を左右に動かすホークを見ていると、フレディの体はわなわなと震えだしその表情は悪鬼も怯むほどだった。
「おい」
フレディは短く怒る。が、ホークは上の空で全く耳に入っていないようだった。
「あの時も、お前さんたちはおいらたちが何もできないと思ってさんざんやってくれたな」
半開きに口を開けるも何も発さないホークは口角を少し上げ、フレディの体をゆっくりと眺める。
「あぁ狼はそういうことか……しかしどうやってここまで」
ホークがそう呟くと、耳にも聞こえるほどの突風が二人を襲った。そしてその風に背中を押されたフレディは目を大きく見開き爪を立てると、左手でホークの首根っこを押さえつけ、何の抵抗もしないホークの顔面を何度も何度も右手で切り刻んだ。
「オノフリオの仇!!!」
そう叫びながら腕を振るい続けるフレディの爪はとうに赤く染まり、ホークの顔は傷のついていない場所を探す方が難しいほど原形をとどめていなかった。それでもフレディは手を休めなかった。ザッという痛々しい音と共に大地に赤が飛び散り、滲む。空に散る無数の緑の灰たちもその恐ろしい様子を静観する中、フレディの右手は突如として勢いを失いピタリと止まった。
「なんだと!」
フレディは唖然とした。弱り切ったと思い込んでいたホークの左手がフレディの毛深い腕を強く握りしめていたからだ。ホークは右手で血だらけの顔を拭い目を開けると、驚き動けなくなっている滑稽なフレディの姿に腹を抱えた。
「どうしたんだい、さっきまでの勢いは!オノフリオの仲間なら私に攻撃しても無駄ってわかっていただろうに」
「……あぁよう知っているわ。この星のどいつよりもな」
フレディは爪についた赤のしずくを振り払うと、昂然とこう続けた。
「だからおいらが終わらせに来たんだよ。こいつでな」
フレディは横腹の毛皮を探ると、なんとその中から例の緑の液体の入ったカプセルが唐突に顔を出したのだ。
「君……!それをどこから」
「バーサーク液の研究は、お前さん達ほどではないかもだが地球でも進んでいた。お前さんが知らんわけがなかろう」
ホークの今までにないような焦り具合に、今度はフレディが歯を見せニッと笑う。これはまずい。ホークは残った歯をカチカチ震わせながらも、ポケットに手を突っ込みオレンジ色に染まった細長い拳銃を取り出した。
「バーサーク液は使わんでええのか」
「ただの人間にはこれで十分だ」
「ただの人間ね」
フレディは呆れるように息を吐くと、その一瞬の隙にホークはフレディに銃口を向け、力強く引き金を引いた。
バンッ
短く重々しい銃声が静かな夜明けの街に轟いた。放たれた鉛玉は見事にフレディの眉間を貫き、血の付いた弾丸は勢いを落とさずに空へ飛んで行った。
「ぐっ!」
フレディは口と額から血を出すとホークの胸に倒れこんだ。狼の毛皮から伝わる暖かな獣の香りがホークの鼻に入り込むと、恐る恐るその体をつつき頬を緩めた。
「危険な奴が潜り込んでいたものだな」
ピクリとも動かなくなった白い狼の頭頂部を見つめホークはそう口ずさむ。そして、フレディの手の中にある緑の液が入ったカプセルに手を付けると、
「この星の人間を支配するのは私たちだ。決して脅かされてはならない地位なのだ」
と言葉をこぼし、それを自分に引き寄せようと力を入れた。が、それはなかなか簡単に引き寄せることができなかった。そう、そのカプセルをフレディは今もなお握りしめていたのだ。
「なんだと!確かに私は命中させたはず……」
ここでホークは口をつぐんだ。するとフレディはむくっと体を起こし、風穴の空いた額に人差し指を突っ込むと、
「三千年も生きている『ただの人間』がいるものか」
と嫌みったらしく言った。
「貴様!まさかあの船に!!」
「あぁ乗っていたぞ。馬鹿野郎」
フレディは額から流れる血を左手で押さえ、右手のカプセルにさらに力を入れた。
「それ以上力を入れたら……!」
カプセルの表面の頑丈なガラスはミシミシと音を立て、心なしかへこんでいるようにも思えた。それでもフレディは目線をホークから離すことはせず力を加え続ける。
「割れるだろうな。そうなったらお前さんとおいらはあれになるだろうな」
フレディは顎で空を差し、まだ少し暗い空に浮かぶ緑の灰を見るように促した。風は止み水平線上に描かれた朝日がゆっくりと顔を出した。遂に戦いが終わる。フレディはホークの目を睨みつけた後にオレンジ色に変わっていく空を目に焼き付けると、
「五神の命を一つ持って行けるのであれば、この戦いに命を燃やした奴らの犠牲には意義がある。それにおいらも三千年の因縁を少し晴らせたんだ、それで満足だ」
と言い切り右手にありったけの力を込めた。
「やめろ!!!」
ホークは大きな体を暴れさすが、時すでに遅し。フレディの右手にあったカプセルはパリーンと大きな音をたて粉々に割れ去り、中の緑の液体がホークの腹の上で勢いよく飛び散った。
「ぐあああああ!」
飛び散った液体は情けなくもがき続けるホークの傷だらけの体の上を、腹から胸、顔の順に回っていき見る見るうちにその巨体を緑の灰へと変えていった。しかしそれはフレディも同様。ホークの上に乗っていたため多少反応は遅いが、それでも右手からゆっくりとその体を削っていった。
「互いに苦しいところ申し訳ないが、さっきお前さんが言ったことが気に食わねえ」
緑の液体がフレディの胸を飲み込み始めたころフレディはかすれたようなか弱い声を出した。
「ぐあああああ!」
しかし、そんなこと聞いている暇のないホークは未だに叫び続けている。それも当然。ホークの体を飲み込んでいった緑のそれは、ホークの手足を完全に緑の灰にするほどまで反応していたのだ。殺伐した、という言葉ではなかなか片付けられないほどのこの状況の中フレディはこう続けた。
「人は人を支配してはいけないとよく言うがな、人は神にも支配されねぇ。ましてや、お前さんたちみたいな野郎にはな」
するとフレディの身を包んでいた狼の体は地面に溶けていき、人間のフレディの姿に戻った。フレディは目をつむり、まだ感覚のある体を楽しんでいた。
「だ、大丈夫ですか!!」
突然の事だった、朦朧とする意識の中どこかからか声が聞こえてきてその数秒後、フレディの体に大量の水がかけられたのだ。
「うっ!」
フレディは突然の水しぶきに思わず目をつむり、土の上に倒れこんだ。
「反応が止まっている……?」
そう、水がかかったフレディの体からは緑の液体が嘘のように洗い流され、反応も終わっていた。何が起きたか理解できずに辺りを見渡すと、そこには眼鏡をかけた青年と水にぬれた巨大な右足がその場に転がっていた。
「お前さんは……?」
フレディはあたかも右腕があるかのようにその位置をさすった。眼鏡をかけた小柄な青年は二十歳くらいだろうか。フレディはサイモンと出会ったときのことを思い出し、これを走馬灯だと確信していた。しかしその確信は外れその青年はフレディの元に近づくと、
「僕はヒュー・バザッチ。今すぐ雨の降っている南東の港に向かってください!」
と、けが人に向かって怒鳴り上げた。その大声にふっと内に向いていた意識が外に出されフレディはそのバザッチの顔をまじまじと見つめた。
「南東だって?なんでだ」
「なんでって、ここはもう氷に埋め尽くされるからです!」
「……氷だと?!」
フレディは何かを思い出したのか、か弱い力でバザッチの右肩をつかみ目で訴えかけた。海の上から顔を出した朝日は完全に上り、土に座るぼろぼろの二人を優しく包み込む。バザッチは片腕のない老人とは思えない程の迫力に負け、思わず尻もちをついた。
「そ、そうですよ。ここ一帯に浮いている緑の灰を昇華させて固体にすることで体積を増やして……って、あ!言っちゃった」
バザッチは勝手に口走る口を両手で覆い、目を丸くした。
「がぁはっはっはっは!面白やつだなぁお前さんは」
「お願いです!あなたは何にも聞いていません!」
「あぁ俺も年だでね、なぁんにも聞こえやせんわ」
フレディは声たか高に大笑いするとおぼつかない足取りで港へと歩いて行った。疲労とケガで意識もはっきりしない中、彼は何故かずっと笑い続けていた。それも涙を流しながら……

南東の港

先ほどの通り雨が勢いを増して早朝のこの島に降り続ける。焼き払われた草や花、人の命の上を踏みしめて、フレディはぷかぷかと浮かぶ正義屋の航空母艦に静かに乗り込んだ。
「もう、これ以上、おいらには誰も救えない」
フレディは悲しげな声でそう涙すると、ふっと意識が途絶え広く冷たい船の上に転がった。腕は消え、腹はえぐれ、額には弾丸の跡。それでも彼は死ねなかった。空から降り続く雨がフレディの頬に優しく乗り、涙と混じりあう。終わったのか。瞼を閉じたフレディが夢の中でそう呟いているとき、現実世界では突如として島全体が大きな地響きの音と共に、島全体が上下左右に揺れ始めた。この星に住む者たちが感じたことのないような激しい揺れに島から悲鳴が漏れ出す。が、その悲鳴もピタリとやんだ。四葉のクローバーを型取ったこの島の全土に広がっていた緑の灰は消え、その代わりに一瞬にして島全土を分厚い氷が覆いつくしたのだ。雨の降っている南東の港を除いて、人も建物も関係なくその全てを隙間なく包み込んだ。

二人に託された戦いは決着が着き
一方は右足を残し灰となり
一方は瀕死の状態で仲間の船へと帰還した
戦いは終わった
しかし、突如としてこの島のすべてが氷の中へと消えた
未だに戦い続ける兵士たちも
宴に疲れ外で酔いつぶれている者たちも
歴史あるこの国が残した建造物も
全てだ
この悲惨な戦争の全ては後に世紀対戦として語り継がれ
死んだこの島はこう名付けられた
『スノーボールアイランド』 と
                   第四章(前編)・世紀対戦編 完

   To be continued… 第51話・学ぶ者
人々が忘れてはいけない悲惨な歴史。しかし人は繰り返す…… 2023年12月24日(日)夜、投稿予定!長かった世紀対戦編は幕を閉じ、次回から現代へお楽しみに!!
そして今回で50話!皆様、いつもご拝読いただき本当にありがとうございます。これからも【正義屋グティ】並びにスリカチをよろしくお願いいたします!
↓おまけ……

3017年 スノーボールアイランド

「ここが、死んだ島か……」
髪の毛を青く染めた正義屋養成所生は、氷に覆われたその有様を見つめ覚悟を決めた。


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