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ゴタンダクニオの短編小説や詩など、当面のあいだ無料公開しています。
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記事一覧

【短編】チョコチップクッキーと双子宮

【短編】チョコチップクッキーと双子宮

※前回のお話→「ティースプーンと処女宮」

「このお姉さん適当なこと言う」
「僕の考えではリネンは無いな」
寝坊した朝だった。
 テレビからのニュース番組の音声にはっとする。ああ、やってしまった……テレビをつけっぱなしで寝てしまったらしかった。飛び起きたが、休日だと思い至り、再び枕に埋もれた。
「月子、朝ごはんまだ?」
「おはよう、月子さん」
若い声がふたつ同時に飛んできて、月子はげんなりとふとん

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新刊『詩集 人工島の眠り』と文学フリマ京都7のご案内

新刊『詩集 人工島の眠り』と文学フリマ京都7のご案内

文学フリマ京都7の新刊には歌集を出すつもりで、俳句・短歌・川柳のカテゴリで申し込んでいたのですが、7年ぶりに詩が書けたので、今回は詩集になりました。

この記事の前半は自分の覚書として事の次第を記録しています。詩集の冒頭を飾る、7年ぶりの最初に書けた詩(「球根」)を後半に引用していますので、そちらだけでもご覧いただけますと幸いです。

事の次第思い返せば2022年9月、Twitterでフォローして

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二人展書下ろし短歌「ステージの下から四首」紹介

二人展書下ろし短歌「ステージの下から四首」紹介

ここまでの顛末について4/4(日)から西院夕方カフェにて開催していた、絵と短歌の二人展「陸離たる日々」ですが、感染防止対策で会場が臨時休業になり、二人展は西院のライブハウスである和音堂さんに一時お引越ししております。ライブもBAR営業もできないなか、夕方カフェに戻れる日までギャラリーとして営業していただけることになりました。
5/1(土)も当初の予定通り、感染症対策下で在廊いたしますので、ご無理の

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【短編】いなり

【短編】いなり

 おとふ屋さんに入ったらぼおっとしてしまって、気づけばすしあげを入れてもらった袋をぶら下げて歩いていた。とつじょ、お稲荷さんと思った。空が曇っている。これ以上寄り道をしなくても作れる。
 ちょうどご飯がなかったので、おあげを炊いている時間で炊飯した。いい感じの桶なんて持っていない。隣で扇いでくれる人もない。気の利いた具がなかったので、ごまをたっぷり振った。それでもぴかぴかつやつやしたすし飯ができる

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【詩】客中行 四篇

【詩】客中行 四篇

旅人駅前で
若い女がプラムを売っていた
夜のバスを待つため
酒場でビールを飲みながら
それを見ている

女の旅は
文庫本ひとつポケットに入れて
というわけにはいかない
着替えに
お化粧品に
コンタクトレンズに
香水に
薄いストール
腕時計に
折り畳み傘
ことばが出てこないときとかのカメラ
そしてやっと
チケットと文庫本
最近しりあったお姉さんが
すすめてくれたアンデルセン
絵のない絵本
お土産のか

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蟄居通信・号外「ルノホート通信」と「月の中にいる男」

蟄居通信・号外「ルノホート通信」と「月の中にいる男」

先日、蟄居通信vol.2を配信しました。

蟄居通信についての記事はこちら

こちらでも少し触れているとおり、
蟄居通信は当初から、隔月で号外を出すつもりで計画していました。
名前は「ルノホート通信」。

蟄居を「”活動できない=冬眠”が明けるまでの準備期間」と謳っているにもかかわらず、
蟄居通信を単なるインドア系情報コンテンツとして編集・配信するだけではゴタンダ的に不十分だと思ったため、定期的に

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【短編】牛を追う男の話(古今東西古典事情・壱)

【短編】牛を追う男の話(古今東西古典事情・壱)

 なぜ世の中は失恋や別離の歌が多いのか。
 幸せなとき、楽しいとき、また怒っているときも、歌なんて詠もうという気にならないからだ。
 今日は第七の月の七番目の日。
 君が来るまであともう少し。

 身分違いの恋。よくある話だ。男は牛飼い。女は天帝の娘。けれど二人は結ばれた。
 喜びのあまり仕事を忘れてお互いに熱中してしまうのもよくある駄目な恋人たちの話。
 男は牛を追わなくなった。だけど君は織姫だ

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【短編】ティースプーンと処女宮

【短編】ティースプーンと処女宮

 ※前回のお話→「キャベツと金牛宮」

 満月にしても明るすぎる月明かりの下で、誰かの隣を歩いていた。
 知り合いだと思う。知り合いどころじゃない。
 夢の中の月子は、確かに彼に好意を寄せていた。
「もう、指が、動かないんだよね」
彼はぽつりと言った。彼はピアニストだった。定期的に演奏を聴くことがあった月子は、そのことに気付いていた。
 彼は身体が徐々に石になってしまう病に冒されていた。手足から動

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【短編】宝石になったお姫さま

【短編】宝石になったお姫さま

 砂漠の大きなオアシスに、ある王国が栄えていました。
立派な宮殿には王さまと八人の姫が住んでいました。名前をそれぞれ柘榴石に葡萄石、玉髄に紅玉髄、琥珀に翡翠に真珠、そして瑠璃といって、宝石のように美しい、王さまの自慢の姫君たちです。
 あるとき、王宮に宝石商を名乗る者がやってきました。王宮には年に数回、きちんとした通行証を持つキャラバンが出入りしておりますが、その者はターバンを目深に被り、身なりも

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【短編】キャベツと金牛宮

【短編】キャベツと金牛宮

 月子の朝は早い。
 午前3時49分。だいたい日の出の1時間前くらい前にアラームをセットして、顔を洗い、1杯の水を飲み、ベランダに出る。この時期ならカーディガンを羽織ればいいけれど、真冬でも震えながら出る。真冬なら、6時過ぎで良い。
 月子のホロスコープはおばあちゃんが作ってくれたものだ。おばあちゃんは月子に、「昔からのやりかたなのよ」と言って、ぬか漬けをつけるやりかたを教えるみたいにして、星占い

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