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食パンの行方03「1日目」(連載小説)


翌朝、珍しく早起きをして予告通り朝食は自宅で摂ることにする。
しかしながら、どうしたものか。
せっかく食パンを買ってきてもトースターがなければ意味がない。

とりあえず冷蔵庫を開いてみたが、最近は外食続きだったので大したものが入っていない。
お茶と牛乳と炭酸水とリキュール、それに細かい調味料だけだ。

あとは卵が3つあったのでそれをメーンに考えることにしよう。
目玉焼きでも作って乗せようか……いや、元々私はシュガートーストが食べたくて食パンを買ってきたのだ。

噛んだ時にジュワッと滲み出てくるマーガリンには砂糖が溶け込んでいて、初めに来るマーガリンの塩気を後から包み込むように追いかけて来る砂糖の優しい甘み。
口の中を甘味の幸せに満たした後にブラックコーヒーを一口、スッキリとした味わいが脳内のスイッチをオンにしてくれる。

私はそれを味わいたかったのだ。
だからせめてこの食パンは甘いものにしたい。

とりあえず卵を手にとってもう一度冷蔵庫を見回す……牛乳、これだ! いつもはカルーアやマリブと割って飲む甘いお酒としてしか活用されていないこれを使おう。

フレンチトーストだ。

そうと決まれば調理開始。
ボウルの中に卵1個と砂糖、牛乳を入れて混ぜ合わせる。食パンを1枚取り出し、4当分にカットする。
それをボウルの中に入れ暫く浸す。

浸すのに少し時間がかかるのでこの間にコーヒー用のお湯を沸かしておく。
沸いたらそのやかんを退かし、フライパンを温めておく。うちにはIHヒーターが1口しかない為こういう時には不便だ。

両面ともしっかり浸け込んだところでいよいよヒタヒタのパンをフライパンに入れる。
この時本当は先にバターかマーガリンを溶かしておきたかったが、今持ち合わせがないので仕方がない。代わりに少量のオリーブオイルをグルリとかけた。

焼き目がついたところでひっくり返してフライパンに蓋をする。もう片方の面にも焼き目がついたらフレンチトーストの完成だ。

お皿に盛り付け、コーヒーを淹れてテーブルに着く。テレビと向かい合う位置に置かれたクッションに座り、ベッドの側面を背もたれにする。
これがこの部屋の私の定位置、そこで手を合わせる。

「いただきます」

フォークとナイフを使う、ちょっと贅沢感のある気がする朝食に心が踊る。
まるで貴婦人になったように淑やかにフレンチトーストにナイフを入れ、1切れを口へ運ぶ。

口当たりの軽いカリッとした表面、これは咄嗟に代用として入れたオリーブオイルが功を奏したおかげだ。
それを突き破るとフワッとした食感にトロリと甘みが零れ出し、口の中いっぱいにそれが広がる。美味しい。

私が思い出したかったシュガートーストの素朴な甘みとはまた違うものになってしまったが、これはこれで穏やかな朝を過ごすことができて、なかなか満足な朝食だった。

 

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