はいとじう

ほんのちょっとだけ未来の日本とか、富士山消失後のお話とか、ちょっと不思議な町の住人のこ…

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ほんのちょっとだけ未来の日本とか、富士山消失後のお話とか、ちょっと不思議な町の住人のこととか書いてます NASA JAXAロスコスモス、人クローン作成、ヤバい研究者、諜報員、実はその筋の方よろしくお願いしますhttps://www.pixiv.net/users/96575378

最近の記事

スーパーソニック

「きのうの夜中、地震あった?」  朝食を食べている時に、シスターがおもむろに聞いた。 「なかった」    パンをちぎりながら牧師は眠そうに答える。目の下の隈がひどい。    ののめは相当美味しかったのか、スクランブルエッグをおかわりした。    ジョゼフは左のおでこを擦る。 「一応、順調に帰路についてますってLINEしとこうか、先生たちに」 「待て。先生等スマホなくしたってこの間言ってなかったか? 田中くんに連絡入れとけばどうだ?」    コーヒーを飲む。    苦い

    • 〝泣いているのを誤魔化したからなんだ〟

      2028年、秋。 ジンが死んだ。 「ちくしょう」    田中先生が、真っ白い箱に入ったジンを見て、も一度「ちくしょー!」と言った。  ふざけているように見えたのは、多分田中先生が泣いているのを誤魔化したからなんだと思う。    夕方に死んだジンを、わたしたちは病院から連れて帰った。その日のうちに、田中先生はジンの物を全て撤去した。    わたしは児童養護施設の中から、少し離れた海沿いの野原の方で、何かを燃やしているのを見た。ジンのクッションやら、毛布やらを燃やして

      • 「いつもは道端に転がってる」

        ジョゼフの目は、青白いパソコンの画面に吸い寄せられた。 「見たいですか? いきますよー」 「さっさとしろよ、ここは漫喫だぞ。時間取らせんな」  牧師は辛辣に言った。  漫画喫茶の中だったので、声は少々抑え気味だった。  映像は山梨側から湖畔を挟んで撮られた、タイムプラスだった。5秒に一回といったところか。  奇妙な映像だった。  大学生の映した映像には、溶かしたガラスのように柔らかそうな夜空が、富士山に向かって垂れてきている瞬間が映っていた。 「すげぇ」  

        • 「人の記憶なんて当てにならないから」

          オレンジ色の光で居心地がいい。 熱いコーヒーの香りで、ジョゼフは自分の身体が指先まで和らぐのを感じた。  ホテルから、歩いて二分の場所にある漫画喫茶は、黄色いビルの七階にあった。  かわいらしい印象的のビルだった。少し奇妙だったのは、階段やらエレベーターの前に、やたらと小物がが置いてあったことだ。ガネーシャやら、インド風の小物、銀細工のアンティークなどが、そこかしこに置いてある。  しかし七階につくと、店内はいたって普通の造りになっていた。 「隕石が落ちた、っていう

        スーパーソニック

          “よく晴れた、青い空の日だったことも”

           午後6:59   河口湖富士山パノラマロープウェイ入り口前。  河口湖に面した駐車場に降り立つ。  ジョゼフはその広い湖を見つめ、浅く呼吸をした。  もう一度大きく吸ってみる。 「げほっ」  冬の湿った湖の香りを肺いっぱいに吸い込んだら大いに咽せた。  人気の少ない湖に並ぶアヒルのボートが町の光で朧げに映る。 湖の向こうには細い橋が架かっていて、ライトをつけた車が何台も通っている。辺りはもう薄暗いのだ。 「悪い悪い、遅くなった」  牧師は悪びれることも無く、

          “よく晴れた、青い空の日だったことも”

          「ゾーンみたいだな。ストーカーの」

          ジョゼフはそのデカい身体を屈めて、ゆっくりと車に乗り込んだ。 「やっぱあんたデケェな」    牧師は、助手席にこじんまりと収まる190センチの中年男をみてしみじみと呟いた。  白いワンボックスの横には〝コスモスの家〟と書かれてある。これは牧師の教会の隣に建つ、児童養護施設の名前だ。フロントガラスに、小さなヒビが入っているのが少し気になる。    羽田からは、牧師の運転で富士山に移動した。    初日は富士山に花をたむけに行って、2日目に富山県の警察署に見つかったリュッ

          「ゾーンみたいだな。ストーカーの」

          男のローマンカラーに似た黒いシャツが、やけにはっきりと網膜に焼き付く。

          2028年 冬 羽田空港 「三年間、何してたんだジョージ」      空港のカフェで、抹茶パフェを食べている目の前の牧師の男は聞いた。    男のローマンカラーに似た黒いシャツが、やけにはっきりと網膜に焼き付く。  この男はジョゼフのことを〝ジョージ〟と呼ぶ。 「生徒とはうまくやってるか?」 「ああ、」 「みんないい子だよ」ジョゼフはおでこの傷を擦った。    嘘だ。違う。嘘じゃない。    みんないい子だ。    ただ、問題があるなら私にということだ

          男のローマンカラーに似た黒いシャツが、やけにはっきりと網膜に焼き付く。

          「まるで別人みたいな顔をするんだな」

          2025年12月27日   午前4:52 富士山の頂上に隕石が落下した。 その日私は、奥庭自然公園付近を妻と共にふたりで観光していた。 そこへ隕石が直撃したらしい。 富士山が閉山期間だったため、私たち以外に観光客も、登山者もいなかった。 富士山は 五合目より上を、ごっそりと抉られたような形になってしまった。 死者一名。 私は生きている。 私の妻以外に犠牲者は出なかった。 日本の象徴とも言えるあの白く巨大な山を失ったことは、この国の人々にとって大きな損失だったこと

          「まるで別人みたいな顔をするんだな」