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「人の記憶なんて当てにならないから」
オレンジ色の光で居心地がいい。
熱いコーヒーの香りで、ジョゼフは自分の身体が指先まで和らぐのを感じた。
ホテルから、歩いて二分の場所にある漫画喫茶は、黄色いビルの七階にあった。
かわいらしい印象的のビルだった。少し奇妙だったのは、階段やらエレベーターの前に、やたらと小物がが置いてあったことだ。ガネーシャやら、インド風の小物、銀細工のアンティークなどが、そこかしこに置いてある。
しかし
“よく晴れた、青い空の日だったことも”
午後6:59 河口湖富士山パノラマロープウェイ入り口前。
河口湖に面した駐車場に降り立つ。
ジョゼフはその広い湖を見つめ、浅く呼吸をした。
もう一度大きく吸ってみる。
「げほっ」
冬の湿った湖の香りを肺いっぱいに吸い込んだら大いに咽せた。
人気の少ない湖に並ぶアヒルのボートが町の光で朧げに映る。 湖の向こうには細い橋が架かっていて、ライトをつけた車が何台も通っている。辺
「ゾーンみたいだな。ストーカーの」
ジョゼフはそのデカい身体を屈めて、ゆっくりと車に乗り込んだ。
「やっぱあんたデケェな」
牧師は、助手席にこじんまりと収まる190センチの中年男をみてしみじみと呟いた。 白いワンボックスの横には〝コスモスの家〟と書かれてある。これは牧師の教会の隣に建つ、児童養護施設の名前だ。フロントガラスに、小さなヒビが入っているのが少し気になる。
羽田からは、牧師の運転で富士山に移動した。
男のローマンカラーに似た黒いシャツが、やけにはっきりと網膜に焼き付く。
2028年 冬 羽田空港
「三年間、何してたんだジョージ」
空港のカフェで、抹茶パフェを食べている目の前の牧師の男は聞いた。
男のローマンカラーに似た黒いシャツが、やけにはっきりと網膜に焼き付く。
この男はジョゼフのことを〝ジョージ〟と呼ぶ。
「生徒とはうまくやってるか?」
「ああ、」
「みんないい子だよ」ジョゼフはおでこの傷を擦った。
嘘だ。違う。嘘じ
「まるで別人みたいな顔をするんだな」
2025年12月27日
午前4:52 富士山の頂上に隕石が落下した。
その日私は、奥庭自然公園付近を妻と共にふたりで観光していた。
そこへ隕石が直撃したらしい。
富士山が閉山期間だったため、私たち以外に観光客も、登山者もいなかった。
富士山は 五合目より上を、ごっそりと抉られたような形になってしまった。
死者一名。
私は生きている。 私の妻以外に犠牲者は出なかった。
日本の象徴と