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小さな物語┊︎二人の夢

この国で唯一魔法が使える魔女が住んでいると言われている森には誰一人近づきません。
願いをなんでも叶えてくれるという噂がある反面、その代償としてその人の寿命を奪うという恐ろしい噂があるからです。

そんな魔女の所へ一人の少女が訪ねてきました。
トントン、とノックをしますが返事がありません。
「あ、あの。魔女さん、いますか?」
「はい。ここに」
その声は少女の後ろから聞こえました。少女は驚いて尻もちをついてしまいました。
「あらあら、驚かせてしまいましたね。ごめんなさい」
そう言って魔女は持っていたピクニックバスケット置き、少女に手を差し伸べます。少女はまた驚きました。それは魔女が息を飲むほど美しかったからです。真っ黒で銀の星がちりばめられたようなローブをまとい、長い濡羽色の髪は緩く波打っています。そして、光に透けてしまいそうなほど白く美しい肌をしていました。
少女はそんな美しい魔女に見惚れていました。
「あの、どうかしました? こんな森の奥に来るなんて、女の子一人では危ないですよ?」
「あっ、えっと。実は魔女さんにお願いがあってここまで来ました。魔女さんはなんでもお願いを叶えてくれるって街で聞いて⋯⋯それで⋯⋯」
「なるほど⋯⋯。でも私の噂は良くないものもあったのでは?」
「確かにそれはそうですが⋯⋯。でも、どうしても叶えて欲しくて⋯⋯」
「それは一体どんなお願いですか?」

少女は勇気を振り絞って魔女に願いを話します。
「私、お友達が欲しいんです。でも私は勉強も運動もだめで、お料理やお裁縫も苦手で、どんくさい私はみんなに嫌がられてしまいます。だから、なんでもいいので、どれか一つでいいので、魔女さんの魔法で得意にして欲しいんです」
少女の真っ直ぐ純粋な目を見て魔女は微笑みました。
「分かりました。叶えて差し上げます。でも魔法は必要ありません」
「えっ⋯⋯」
「私があなたのお友達になりましょう」
魔女は少女の手を取りそう答えました。少女は目を丸くしたまま固まってしまいました。
「私がお友達では嫌でしょうか⋯⋯」
「そ、そんなことは! でも⋯⋯」
「ああ、もしかして噂のことでしょうか。私は確かに魔法を使うことはできます。でも魔法でなんでも願いを叶えたり、人の命を奪うようなことはできませんし、しません。魔法ってそんなに万能じゃないんですよ」
「そうなんですね⋯⋯。誰かが広めた噂のせいで魔女さんはずっと森の奥で⋯⋯」
「ええ。私も一人で寂しかったんです。だから今日、お嬢さんのような可愛らしい方が訪ねてきてくれて嬉しかったんですよ」
「わ、私魔女さんとお友達になりたいです!」
「よろこんで。私もお友達ができて嬉しいです。そうだ! よかったら私のお手伝いをしてくれませんか? ベリーパイを作ろうと思って沢山摘んできたんです。これくらいあればジャムやジュースも作れそうですね」
「是非⋯⋯! でも、私にお手伝いできるかな⋯⋯」
「大丈夫ですよ。お料理もお裁縫も、その他のこともゆっくり練習していきましょう」

孤独な魔女には夢がありました。それは友達を作るということ。怖がって誰も近づかない森に住む魔女の話し相手は森に住む鳥やリス達という小さな動物だけでした。しかし今日、やっと魔女の夢が叶いました。同じ友達が欲しいという少女と共に夢を叶えたのです。
この日開かれた小さなお茶会は日が暮れるまで続いたそうです。そして、このお茶会は後に少女の友達も混じえて月に数回「秘密のお茶会」として開かれることになります。それはまた別のお話で⋯⋯。

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