食器洗い、買い物、洗濯、愛

久々にひどい風邪を引いた。病院にはまだ行っていないのでインフルエンザかどうかはわからない。でも、たぶんインフルエンザだと思う。一昨日会っていた和美がインフレンザA型になったと昨日の朝に連絡してきて、それから程なくしてオレも具合が悪くなり始めた。初めは呼吸器のあたりがゼエゼエするようなって、そのうちに乾いてむせるような咳が止まらなくなった。熱は全く無かったし、寒気も無かったので、まさか自分がインフル

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a land

ねぇ、ホテルいこうよ。シュンくん、エッチしたいんでしょ? 歩きながらハルカが突然そう言って、まだすこし寝ぼけていたオレは一気に目が覚めた。オレはあと数ヶ月で十七歳になろうとしてた十六歳で、ハルカは二十四歳で、初めて付き合った彼女だった。その頃、オレは学校には行かずに毎日バイトばかりしていて、とにかく退屈だった。そんな中で、突然、ハルカと付き合うことになった。好きな子がいたことはそれまでにもたくさん

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二十二歳

たぶん、それは今までの人生のなかで、おそらく最悪の誕生日の迎え方だった。別に、自分の誕生日を祝うということに特にこだわりはないし、むしろ、祝ってもらったりするのが苦手で、誕生日はいつもどおりに普通に過ごしたいと常々思っている。SNSに祝いのコメントとかメッセージとかが適当に届いたりするくらいであとはいつもどおり、というくらいがたぶんオレにとって一番快適な誕生日の過ごし方なような気がする。二十二歳に

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夜葉桜

桜が綺麗な夜だった。その頃のオレはミエという名前の痩せていて背の高い女と付き合っていた。三宿通りのちいさな個人経営のフレンチで食事をした帰りだった。そのままオレの部屋に帰ってもよかったのだが、なんとなくそういう気分になれなくて、目黒のラブホに泊まった。渋谷のほうが近かったが、あのラブホ街を歩くのはなんだか、いかにも、過ぎるような気がしてなんとなく憚られて、それで、目黒の駅から少し離れたところにある

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プリティ・シングス

ラーメンショーってわかる、ほら、駒沢公園でやるやつ、来週からなんだけどさ。おすすめはね、大分佐伯ラーメン、ぼくが食べるのは毎年ここだね、行くなら食べてみてよ。そう言って、宇一さんは目の前にあった注文伝票の紙に「大分佐伯ラーメン」とビッグ社の軸がオレンジ色のボールペンでサッと書きなぐって、そのページを台帳から破いて渡してくれた。スペシャルティコーヒー、サードウェーブ、そういうキーワードで盛り上がるコ

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銭湯

ほんとうにうっかりしていた。すっかり払ったつもりになっていたのだが、先月の分のガス代の払い込みを忘れていた。今月の分はもう払ってあったというのに。督促と停止宣告の手紙はきっとポストの奥に埋もれてるのだろう。出かける支度をするためにシャワーを浴びようとしたらいつまでたっても水が温かくならなくて、しばらく風呂場で寒さにもだえていた。つま先にかかるシャワーの飛沫が冷たい。もしかして、と思って風呂場から出

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ヨコハマ・チャイナ・ブルー

とにかく誰もいないようなところに行ってみたくて、それでオレは行き先を式根島に決めた。伊豆七島に詳しい人はもちろんその存在を知っているが、メジャーな伊豆大島などと比べると、一気に知名度が下がるような気がする。オレは十六歳で、まだスマホもなかった時代で、ノートパソコンも持っていなかった。竹芝桟橋で、一番下のクラスの船室の券を現金で買った。大部屋に雑魚寝、というやつだ。長距離の船旅は、それが最初で最後で

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縁日

子供の頃は大好きだったはずなのに、大人になって久しぶりに触れてみると本当に全く興味が持てなくなっていて、驚いた。子供の頃は夢に満ち溢れていた輪投げとか射的とかのゲームも、細々と並んでいる駄菓子も。大人になってしまったオレの心を何も踊らせてくれなかった。そこで縁日をやっているということは、午前中に用事で出かけたときに車で通りすがって知った。昼過ぎに家に戻って、車は置いて、歩いて縁日に出かけた。どんな

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よなよな

いまでこそ、別に珍しいものでもなくなったが、その頃のオレにとって、それは初めて飲む味だった。ビールに種類があるということもよく知らなかったし、普通に市販されているラガー系のビールしか飲んだことがなかったオレにとって、初めて飲んだそのビールの華やかな香りは、まさにちょっとした衝撃だった。日本でよく飲まれている一般的なビールは、下面発酵という、低温で時間をかけて発酵させる製法で作られていて、ラガービー

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十九歳

情けなさと誇らしさが絶妙に混ざったような複雑な気持ちで、オレはだらしなくベッドに横になっていた。寝る前に暖房を強くしすぎたせいで部屋が暑くて、足元だけ少し布団をはいだ。オレは来年、四十歳になる。別に、人肌に飢えていたというつもりもないし、どうしてもこの女と寝たかったわけでもない。でも、やれるかやれないかの土壇場ではやっぱり妙にアドレナリンが湧き出たし、射精した後だからいまはそう思うのであって、やっ

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