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合作小説きっと、天使なのだと思う

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合作小説「きっと、天使なのだと思う」

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第1話

ロールスロイスが横付けされて、風鈴みたいなクラクションが鳴った時、その音が、僕を呼び止めてると思いもしなかった。

だから耳で聞きながら、受け流すようにして歩みをやめなかった。

そんなもんだから、カブトムシの羽根みたいに光り輝くボンネットを装備したロールスロイスは、再びクラクションを鳴らすのだった。

すごいタイミングで、どこかの民家で風鈴が鳴り

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第2話

透明感のある声に、僕は数秒間動けなくなった。少女の印象ある瞳が、世界の色を正しい色に変えてしまったからだ。

それほど少女の瞳は、すべてを見透かしているように思えた。

「あの僕に‥‥‥」と小さな声で言った瞬間、僕の言葉を遮るように、後部座席のドアがゆっくりと開いた。

思わず後ずさりしてしまう。まず状況を把握していない事と、僕は小心者だからだ。そ

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第3話

少女の言うとおり素直に従って、僕は恐る恐る後部座席へ乗り込んだ。テトラと名乗るウサギは、どこから用意したのか謎だけど、青いワイン?を手渡した。

恐縮しつつ僕は素直にワイングラスをもらった。飲むべきか飲まないべきか迷っていると、隣に座る少女がクスクスと笑い出した。

何がそこまで可笑しいのか、まったく理解できないが、上品に視線を僕に移しながら少女は

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第4話

「お嬢様着きましたよ」とテトラがよく通る声で言った。クラリネットの言うとおり、ワインを飲み干したと同時に屋敷に着いたみたいだ。

「さあ、行きましょう。そうだ!!帰りにワインをお持ちになって下さい。そうね、そうでしょう。きっとあなたは嬉しいでしょう」とテトラの耳を触りながらクラリネットが言ってきた。

確かに気になるワインだけど、ホントに青や黄色の

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第5話

その重厚で威圧感ある扉の前で立ち止まり、僕はそれとなく後ろを振り向いた。

背中を撫でてた彼の姿はなかった。

運転手のアルファベットは確実にいるのだけど、その姿を見ることはなかった。

振り返った景色を見渡してみると、アーチの向こうは霧が漂うみたいに景色を景色としてなくしていた。

悪寒が肌を滑るようにうぶ毛まで震わせた。果たしてこのまま屋敷に入

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第6話

「あれは‥‥‥、例のワイン!?」と一人言にしては大きな声で呟いた。後ろにいるであろうアルファベットに問いかけるように。

「そんなのは行けばわかるさ。君が本来取り戻すべきものだろう」とアルファベットは抑揚のない声で囁いた。

「嗚呼、そうだったね。僕が必要としているからなんだね。嗚呼、何となくわかってきたよ。何故、僕が選ばれたのかも‥‥‥。いや、頭

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第7話

「‥‥‥‥‥‥」

目を覚ますと、そこには見慣れない景色が広がっていた。真っ白な天井が広がり、傍らからは一定の機械音が響いている。

さらに、いつの間にか横たわっている身体は肌触りの良い布に包まれ口元には何故か透明のカップが被せられており、絶え間なく空気が送られていた。

「‥‥‥‥‥‥?」

状況が飲み込めず、冷や汗を流しながら目をギョロリと動か

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第8話

ハハっとかすれたような笑い声をこぼす。傍らに居た母親が不思議そうな顔をしたのは言うまでもなかった。

そして頭の中で浮かべたのは、あの奇妙なアーチとクラリネットやウサギのテトラだった。最後まで姿の見えなかったアルファベットは誰だったのだろうか?

僕は安堵と生きている感謝で、再び深い眠りへと誘われた。

あれから三ヶ月後、僕は無事に退院した。一人の

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第9話

「綺麗ね~、テトラ。これ、ビワコって言うんでしょう? 海みたいね」
「そうでございますね、お嬢様。……そして、ご無沙汰しております。雪道様」

その時、聞き覚えのある声が、背後から伝わってきた。ハッと振り返ると、窓から呑気に琵琶湖を眺めているクラリネットと、半分だけ耳を折って会釈するテトラの姿があった。

最後に見たツギハギだらけのぬいぐるみとは違

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第10話~最終回~

だから……生きてください。
それが、いつも通りの……何の変化の無い日常だったとしても……それが、私の願いです

ゴンドラがゆっくりと降下しながら、少しずつ地上に近づいている。窓の外を見れば、あんなに小さかった建物や車も徐々に見慣れた大きさに戻り、シーンと静まり返ったゴンドラの周りには、相変わらず風船が浮遊していた。

「……分かった」

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