京アニ放火殺人事件に思う、出版したい人がおちいりやすい勘違い

京アニの放火殺人事件、本当に痛ましい、あってはならない事件だ。

被疑者の動機は、自作の小説をパクられたことだという。しかし、被疑者は実際には小説を書いてすらいないという話もある。どこまで事実かは不明だが、本当にそうだとしたら、やり切れない話だ。

小説家や出版を夢見る人の中には、強く夢見るあまり、脳内でさまざまな妄想を作り上げてしまうことも多く見受けられる。それは、今まで周りで見てきて強く感じたことだ。

そういう人々について、以前から考えて書いてきたことをまとめてみようと思う。(本を一冊しか出版していない私が偉そうに語るのは許して欲しい)

「書けばすごいのが書けるに違いないんだ」という根拠ない自信を持つ人

イラストの仕事をはじめて15年近くになるが、数えきれないくらい言われたのが「本を出版したいので、出版社を紹介して欲しい」という言葉。

一番驚くのは、「本を出版したい」と言いながら、まだその原稿を一行も書いていない人が多いということだ。

本を一冊書きあげることの大変さは、Cakesで牧村朝子さんもおっしゃっている通り。散文をちょっと書いてみるのとはわけが違う。

「昔から文章を書くのが好きだから、書こうと思えばすぐに書けると思う」という根拠のない自信は一体どこから来るのか、教えてほしい。

むしろ、「紹介して欲しい」と言ってくる人の中に、キチンと一冊書きあげている人はまれである。企画書を準備したり見本原稿を用意したりと、やるべきことをやっている人は、人に頼らず自分で行動を起こしているのだ。

出版社に企画を持ち込む場合、まず第一に、一冊の本を書き上げられる力量があるのか、そこは当たり前だけど、最初に確認される。だから、構想だけで、一冊書き上げたこともないような人の本を出版しましょうという話になるわけがない。

一般企業に当てはめてみれば理解できること

逆の立場で考えてみればわかると思う。
自分が会社の人事だとして、即戦力の社員を雇いたい場合、以下の三人のうちで、一番採用したい人と、絶対採用したくない人と挙げろと言われたら、誰を選ぶか?

1. すでにその仕事の経験が豊富にあり、実績も上げている人
2. その仕事の経験はないが、勉強していたり、独学で作った作品などを提出した人
3. 仕事や勉強の経験もなく、作品の提出もなく、ただ「できると思います」という根拠のない自信だけがある人

当然、一番いいのは「1」で、言語道断なのは「3」だろう。
原稿も無いのに「本を出したい」と言ってる人は、まさに「3」だということに、なぜ自分がその立場になると気づかないんだろう。

また、スケジュールが決まったら、逃げることは許されない。だから、出版社が一番恐れているのは、バックレて逃げられること。一度引き受けたら、何が何でも仕上げるのが当然、そうでなければ、そこに穴が開いてしまうからだ。

出版社がまず知りたいのは、絶対に最後まで投げ出さずに、一冊ある程度のクオリティで書き上げられるか、という点なのだ。

自分が書くものは「商品」であるという自覚

本を出したい人の中には、「出版」とはどういうことか、よくわかってない人も多い。「出版」する場合、自分の好きなように文章を書けばいいというわけではない。

当たり前だけど、出版社にとって「本」は「商品」である。だから「これなら売れる」というある程度の確信がなくては出版できない。出版は慈善事業ではなく、利益を上げなければならないからだ。

「商業出版で本を出す」というのは、「世の中に求められている内容を一冊の本に落とし込むこと」である。「商業出版」は、作家の自己満足に付き合うためのものではないのだ。

自分の好きなことを好きなように書きたいのなら「自費出版でお願いします」と、どこの出版社も言うだろう。

簡単に「紹介して欲しい」いう人にひそむ問題

これまた一般企業に当てはめて考えてみるとわかるのだが、通常の仕事で、営業マンに「あなたのお客さんを紹介して欲しい」と頼むことってあるだろうか。

営業は本当に大変だし過酷だ。その営業マンが、日参して開拓した大事な取引先を横取りするようなことを頼めないのが普通だろう。

誤解されているようだが、出版社は作家にとって、お客さん(クライアント)なのだ。また、作家だからといっても、簡単に出版社と知り合っている訳ではない。営業や投稿などの元手がかかっている。タダではないのだ。

出版社は、作家にとって大切なクライアントで、信頼関係が大切である。そんな中、紹介した人の原稿がひどいものだったり、紹介した人自身が失礼なことをすれば、作家の顔をつぶすことになる。

つまり「紹介する」ことは、作家にとってメリットは少なく、リスクが大きなものなのである。よほど親しい間柄でない限り、頼まないのが賢明だ。

なぜか頼んでくる人って、ヘタすると「初対面に近い」ような人だったりする。(イラストをタダで描いてって言ってくる人も同じだけどね)

それでも出版したいという人へ

これだけネットが発達した時代なのだから、自力で出版にこぎつける方法などいくらでもある。

このnoteや投稿サイトなどに投稿したり、SNSで発信したりと、今は自分の書いたものを発表する方法が本当にいろいろある。昔ながらの自力で持ち込んだり、賞に応募したりするのも、まだまだ有効だ。(ただし、現状は持ち込み原稿は受け付けていない出版社が多いとも言われる)

ただひとつ、脳内で「自分は本当はスゴイのに、周りが認めてくれない」と、自分自身の自己顕示欲をこじらせてしまわないよう、気を付けてほしい。まずは一冊書きあげて、それを見てもらう方法を考えることが大切だ。

作品が「世に出るべきもの」であれば、必ず道は見つかる。まずは書き、そして知ってもらう。知られていない自分を知ってもらうには、コツコツと積み上げて行くしか、方法はないのだ。

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陽菜ひよ子 / イラストレーター&漫画家&文筆家

著書『アトピーの夫と暮らしています』(PHP研究所)。イラストのお仕事は、NHK・Eテレ『すイエんサー』、書籍『おいし なつかし なごやのおはなし』(戸田恵子著、ぴあ)など多数。現在2冊目の本の執筆中。ひよことプリンとネコが好き。 http://www.hiyoko.tv/

コメント5件

「出版社は、作家にとって大切なクライアントで、信頼関係が大切」そうなんですよね〜。しみじみ感じています。
一冊書くのに、どれだけの体力と精神力が必要なのかも、知ってほしいです。
つきねこさま 本当にそうですね。プロでもアマでも引き受けたら最後までやるというのは当然のことですよね。
羊は草が好き!さま 一冊書き上げるのは本当に大変ですよね。
はい......もう嫌かもしれない、です。(冷汗)
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