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📕宮本輝「月光の東」を書き手として読んでみた時
🥀宮本輝「月光の東」
「十三歳のときの私の恋は、いまもまだつづいていると思うのも本心ですし、加古慎二郎への嫉妬も本心ですし、よねかを癒せる男になりたいのも本心なんです。
誰もが、みなそうであるにちがいありません。人は誰もが無数の本心を持っている」
〜宮本輝「月光の東」より
パキスタンのカラチで首を吊って自殺をしてしまった友人の影には「よねか」という幼馴染の女性の影がちらつ
📕フィッツジェラルド「グレート・ギャッツビー」
「すっかり夏になっていた。道筋の宿屋の屋上にも、赤い新型のガソリンポンプが照明を浴びている修理屋の正面にも、夏の色がある。ウエストエッグのわが家に着いて、車を車庫に入れてから、放ったらかしの芝生ローラーに腰をおろした。風が吹いたばかりで、まだ夜がざわめいている。木立に鳥の羽ばたく音がする。とめどなく湧きあがるオルガンのような音は、大地に生命の風を吹き込まれたカエルの群れが発している。猫がシルエッ
もっとみるトマス・ハーディの短編を読んでみた
ハーディ短編集の中から、「妻ゆえに」「幻想を追う女」「呪われた腕」の三遍を読了。どれも面白かった。
特徴としては、短い物語の中で主人公の人生をうまく描き切っているということ。そうなると、ストーリーを急いで追うような状況説明になりがちだが、ハーディはそうではない。
絶妙のタイミングで入れてくる風景描写。効果的な場面の切り取り方。上手く書くもんだなあ、と思わず唸ってしまう。プロットも秀逸で、全体的
📕ヘミングウェイ「日はまた昇る」でさらに描写を学んでいく❶〜静止した風景に動きを与えるには?
ヘミングウェイ「日はまた昇る」、やっと半分くらい読み終えました。今日はまた描写についての気づきをひとつ。
この物語の風景描写は、車やバスの車窓から見える景色の流れが非常に多く見受けられます。例文を出せばよいのでしょうが、なんせ長くなってしまうので割愛。そういえば、トーマス・マン「ブッデンブローク家の人々」では、馬車から見える景色の流れが多く見受けられた。
ここで気がついたことが、【被写体
🦅トルーマン・カポーティ「無頭の鷹」〜思わず真似したくなるその華麗な風景描写
「その日は明け方から空は暗く、今にも雨が降り出しそうだった。暑い雲が空を覆い、夕方五時の太陽を遮っていた」
「沈んでいこうとしている月は、夕暮れに昇ったばかりの月のようだ。湿った一ドル銀貨のように見える。暗闇を失っていく空は、灰色に洗われている。日の出とともに吹く風が、天国の樹の葉を揺さぶる。白んでくる光の中で、庭はその形を、物はその位置をはっきりとさせていく。あちこちの屋根からは、鳩の低い朝の
「トーマス・マン『ブッデンブローク家の人びと』から描写の基礎を学ぶ
①トーマス・ブッデンブロークは、メング通りを下手へ歩き続け、フェンフハウゼンまでおりた。上手をまわってブライテ通りを通るのは、知り合いの何人もに会い、帽子をいつも脱いでいなくてはならないので、それを避けたのであった。濃い灰色の暖かそうな襟付外套の大きいポケットに両手を突っ込み、こちこちに凍りついて、水晶のようにきらめいている雪の上を、きゅっきゅっと踏みながら、考えこみがちな顔をして歩いていた。誰も
もっとみるゲーテ「ファウスト」を読んでみた❶
🌹「法律や制度というものは、
永遠の病気のように遺伝して、
ずるずるべったり親から子、子から孫への伝えられ、
国から国へとおもむろに移り動いて行く。
その間には、正は邪となり、善は悪となる」
〜ゲーテ「ファウスト(一)」新潮文庫147ページメフィストフェレスの台詞から抜粋
ゲーテ「ファウスト」、ひとまず(一)を読み終えました。
戯曲を読むのは、数年前、ゴーゴリの「検察官」を