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XYZ

 分かったことにして通り過ぎようと思ったが、できなかった。

「XはYと暮らしているが、Zの金で生活している。YはWの生活費を出しているが、WはVとのあいだにできた子供と暮らしている。Vはシカゴに引っ越したいが、子供が母親のWとニューヨークにいるので引っ越せない。WはUと付き合っているが、Uの子供が母親のTとニューヨークで暮らしているので引っ越せない。TはUから金をもらい、WはYから慰謝料を、Vからは子供の養育費をもらい、XはZから金をもらっている。XとYのあいだに子供はいない。Vは自分の子供とめったに会わないが養育費を払い、UはWの子供と暮らしているが養育はしていない。」
リディア・デイヴィス著、岸本佐知子訳『分解する』白水社、P179)

 1ページに収まる、この短篇。タイトルは「問題」。
 一読して、この文章がなぜ「問題」と題されているのか、それは分かった。だから、内容の細かい部分はどうでもいいではないか。そう思おうとしたが、気づけばペンと紙を用意して、「XとYは……」と書き始めていた。
 「いまお前は、無駄なことをしている!」。頭はそう忠告するが、指先は止まらない。早く次のページへ、早く次の作品を! そう強く望んでも、指先は聞き入れてくれなかった。
 紙の上に、文中の登場人物の関係図が出来上がったとき、私は本を閉じて、近くのベッドの上に放り投げた。本は難なく着地する。本当は床の上に叩きつけてやりたかったが、それもできなかった。

 疲弊しきった心身を休めるため、ベッドに体を横たえて、音楽を聴くことにする。
 Apple musicの検索欄をタッチすると、指先が勝手に「XYZ」と打ち込んだ。「これは重症だな」と思いつつ、検索結果を見る。すると思いのほか、「XYZ」というタイトルの楽曲は存在した。
 「最新の"XYZ"を聴こう」。そうして掘っていくと、MONKEY MAJIKのアルバム収録曲に行き着いた。「マジックって、GじゃなくてJだったのね」。そんな発見をしつつ、試聴開始。アニメのOPのような疾走感があり、とてもエネルギッシュな楽曲だった。



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