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『宇宙探索編集部』 フェイクドキュメンタリーと詩の言葉について
コン・ダーシャン『宇宙探索編集部』を一言で表すのは難しい。宇宙人を扱ったSFと言うことはできるだろう。とぼけたユーモアのコメディ映画でもある。映像はフェイクドキュメンタリー風であり、そして旅の映画である。
フェイクドキュメンタリーの手法を採用しているが、その効果については曖昧なところが多い。登場人物たちがインタビューに答えるシーンがいくつかある。皆既日食のシーンでは旅先で出会ったスン・イートンと
ジェイムズ・べニング『アレンズワース』を見た感想
恥ずかしながら作品を全く知らなかったのですが、「アメリカ/時間/風景」という特集のタイトルが気になったので見てみました。
アレンズワースとはカリフォルニア州で初めてアフリカ系アメリカ人による統治が行われた自治体で、第一次大戦後に住民の多くがこの地を離れて荒廃しましたが、現在は残された建造物の修復と復元が行われているそうです。
映画『アレンズワース』は同地で1月から12月に撮影されたそれぞれ5分
『破壊の自然史』 セルゲイ・ロズニツァ
映像はドイツの街並みから始まる。道路を行き交い、カフェに集い、音楽を楽しむ大勢の人たち。そこから不穏な転調が起きる。カメラは意味深に彫像を仰ぐ。鋼鉄製の門がゆっくりと開く。地獄の門であるかのように。骸骨が映る。場面は戦闘機工場に移る。一定のリズムを刻み続ける機械から吐き出される爆撃機の部品。軍需工場で働く女性たち。訪問した軍人がジョークを交えた演説で工員たちを鼓舞する。そして始まる爆撃。操縦席から
もっとみる岡本綺堂『影を踏まれた女』
Amazon.co.jp: 影を踏まれた女 新装版 怪談コレクション (光文社文庫) : 岡本 綺堂: 本
岡本綺堂は『半七捕物帳』で知られる作家だが、本書のような怪談も数多く残している。
ホラーというジャンルにおいて「生きている人間が一番怖い」という紋切型がある。それとは反対に「本当に怖いのは幽霊だけだ」という向きもある。正解はおそらくどちらにもないのだと思う。
岡本綺堂の書く怪談は、一見
『NOPE』感想(うろ覚え)
「最悪の奇跡」というキャッチコピーに大した意味はなかったように思う。撮ることと撮られることの関係性、いるのにいないとされた者たちの逆襲、そういったものが主題であると感じた。
動物を撮ること。この映画には撮影される3種の生き物がいる。作中でたびたびその場面が挟み込まれる、アメリカのホームドラマのレギュラーであり、ある時出演者を殺傷する事件を起こしたチンパンジー。映画製作者たちの無思慮な視線に晒され
『パッサカリア』ロベール・パンジェ/堀千晶訳 水声社
厩肥の上で男が死んでいる。いや、その男は机に突っ伏して死んでいた。いや、厩肥の上で死んでいたのは四肢を空に向け腹を切り裂かれていた牝牛である。いや、厩肥の上には案山子が倒れ掛かっていた、血のように見えるのは布切れの赤である。
実際に作者と親交があったという事実はさておくとしても、ロベール・パンジェの『パッサカリア』はロブ=グリエを彷彿とさせる小説の騙し絵だ。
ロブ=グリエの作品においては例えば人
『シン・ウルトラマン』の感想ではありません
『シン・ウルトラマン』について真っ先に思い浮かぶのは数年前に公開された1枚の写真だ。湖畔に立つウルトラマン。Twitterで榛名湖じゃないかと言われていて、確かによく見ると白鳥丸が映っているし周りの建物にも見覚えがあった。ついに地元も怪獣映画の舞台になるのかと公開が待ち遠しかった。結論から言うと映画本編に榛名湖らしき場所は登場しなかった。たぶん見落としはないはずだ。『ウルトラマン』を下敷きにして
もっとみる『春原さんのうた』について
窓が開いている、というのがこの映画の第一印象だった。杉⽥協⼠監督の作品を見るのはこれが初めてだった。とりわけ大きな事件が起きることもなく、穏やかだとか静かだとか形容できる作品であると思うのだが、不思議と記憶に残るシーンは多い。
特徴的な構図が二つある。部屋の奥から玄関を正面に見据えているか、部屋の入り口側から窓を正面に見据えているかである。いずれにしても玄関の扉が開いているし、窓も開いていて、そ
『MEMORIA メモリア』について
世界は一個の巨大な博物館である。あるいは記録装置である。アピチャッポン・ウィーラセタクンの監督作『メモリア』を見ていると、主人公のジェシカ・ホランドと共に博物館の見学者となって、奇妙な世界(あるいは元々奇妙であることが明かされた世界)を彷徨っているような感覚を覚える。
この作品はアピチャッポンの映画によく見られるように二部構成を取っている。前半はコロンビアの都市メデジンが舞台である。ある明け方、
『チュルリ』東京国際映画祭で それと『ジャッリカットゥ』のこと
東京国際映画祭、実は今まで行ったことが無かった。今回見たのは『チュルリ』。あの『ジャッリカットゥ 牛の怒り』の監督リジョー・ジョーズ・ペッリシェーリの作品だ。
インド映画に詳しくない身としては歌も踊りもない、更には華やかな大スターも登場しない、そんなインド映画があることが驚きだった(もちろんそういう作品だっていくらでもあることは承知しているが)。
『ジャッリカットゥ』のジャンルをなんといえば良いの
アイの歌声を聴かせて 感想
思っていた以上に好きな映画だった。
正直言うとそんなに期待はしていなかった。
というのは映画館で予告編をしつこいくらい見せられていたからで、予想される内容もよくある高校生の青春と冒険という感じ。AIものらしいがこれまたよくある「○○(AIやアンドロイドの名前)は道具じゃない!」みたいな台詞が挟まれて、なんだかなあと思っていた。
では何が良かったかというと主人公のサトミとAIのシオンの関係性、それに
『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』を見たよ
東京タワーが真っ二つになって地面に突き刺さる光景を見るために何度も映画館へ足を運んだ。
タワーが崩壊して開けた視界に真っ青な空が広がる。風の中に上掛けを投げ捨てる登場人物たち。
初めて見た時は何が何だかわからなくて、でもすごく爽やかだった。作画と楽曲と演出で、つまり映画の言語でわからない話がわかるように語られて、背景を知らない登場人物たちの物語に感動していた。
凄いアニメを見てしまった、と思った。