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45.必要な人は必要な時に現れる

2ヵ月間のローマ滞在中、自分では何の成果も見い出せていないと思っていました。
就労ビザは取れないし、仕事すら決まっていない状態でしたから。
すっかり意気消沈していたころ、ローマとタオルミーナとで新しい出会いがあったのですが……。


現実逃避でローマ再発見

2ヵ月のタイムリミットまであと少し、10月半ばには東京から友だちが遊びに来てくれました。
大家さんが泊まってもらってかまわないと言ってくれたのでホテルは取らず、2人で暮らすようにアパート滞在できて楽しかったです。

ハマっていた朝ごはんはリコッタチーズ+オリーブオイルで友人にもふるまう
アペリティーボもほぼ毎晩のように
近所にできたお気に入りのカフェで朝ごはん

ローマに来てから新しい生活に慣れることや仕事探しでずっと気の抜けない日々を過ごしていました。
そこへ友だちが来てくれたのでこの時とばかりに現実逃避です。

日ごろのプレッシャーから解放され旅行者として楽しむローマの町は、これまでとは全く違う顔を見せてくれました。
勉強したての遺跡や教会建築、アートの説明やうんちくを披露することで、観光都市としてのローマの魅力を新たに発見できたようです。

そして、数日ローマに滞在したあと今度は一緒にタオルミーナへ行きました。

日本語を学ぶシチリア女子

約2年ぶりのタオルミーナ。
とても懐かしかったものの、旅行者のような感覚を持ったのを憶えています。
あの時にもう私は、気持ちの上ではすっかりローマの住人になっていたのかもしれません。
タオルミーナに移住したい、とはまったく思いませんでした。

滞在場所はもちろんトモコさんの家の前にあるいつもの短期貸しアパートです。
ワイナリーへ連れて行ってくれたり自宅に招待してくれたり、楽しい時間を過ごさせてもらいました。

イワシのベッカフィーコなどトモコさんの手料理はいつも美味しい
トモコさんに日本語を教わってる生徒さんの家で寿司づくり
生徒さんの家の食卓。むちゃくちゃステキでした

このタオルミーナ滞在中にトモコさんが日本語を教えている3人のシチリア女子を紹介してくれました。
そのうちの一人は秋に日本旅行をするつもりですでに航空券も買っていたのですが、それを聞いたもう一人が自分も行くと言い出し航空券をすぐに購入。
それはちょうど私が日本に一時帰国している最中でした。

こうして2人のシチリア女子と東京で再会し、この時、私はけっこう重要な人生の決断をすることになります。
というのも、あとから日本旅行を決めたシチリア女子の兄弟が当時、ブラッチャーノに住んでいたのです。

日伊両国で活躍するプリマドンナ

トモコさんから紹介されて、10月始めにローマですでに顔を合わせていた一人の日本女性がいました。
タオルミーナ滞在中に2人の出会いのきっかけを聞いたら、彼女がシチリアでコンサートをしたのが縁だったそうです。
その人は、日本とイタリア両方で活躍するオペラ歌手だったのです。

そして、そんな歌手であってもイタリア就労ビザは出ないようでした。
実はどんなタイプのビザでイタリアに滞在しているのか1度だけ彼女に訊ねてみたことがあります。
そうした個人的なことを聞くのは気が引けましたが、当時の私は相当追いつめられていたのでそうも言ってられません。
遠慮がちにそれとなく訊ねてみたのです。
しかし、はっきりとした答えを彼女から得ることはできませんでした。

プリマドンナを張る人はオーラが違います。
生まれ持った美しさに加え洗練されたその姿は華やかで、私より年上なのにずっと若々しくて、誰が見ても正真正銘のプリマドンナ。
こんなステキな人でオペラ歌手という仕事があるにも関わらず就労ビザを取るのが難しいのだと知り、そこで初めて自分はかなり無謀な挑戦に挑んでいるのだと実感することになります。

トモコさんも、1年のうち9ヵ月日本で働いて3ヵ月をイタリアで過ごす、そんなふうにしてもいいのではないかとアドバイスしてくれました。
私も完全移住はあきらめるしかないのかもしれないと思い始め、このまま2ヵ月のローマ滞在を終え帰国しようとしていたまさにそのとき、そのプリマドンナが私に言うのです。

ローマでの仕事探しは難しいし就労ビザを取得するなんて夢のまた夢。
それでもどうしてもイタリアで暮らしたいのなら学生ビザを取るしかないと。

あとになって知ることとなるのですが、彼女はローマの音楽大学、サンタ・チェチーリアの学生としてイタリアに長期滞在していました。
当時はそれを公表していなかったようです。

移住を決意してイタリアに渡って2ヵ月、実際に来ることによって2人のキーパーソンと出会うことになりました。
当時の私はそんなに重要な出会いとは思ってもいませんでしたけれど、この2人がいなければブラッチャーノで就労ビザを取れる未来もなかったと思います。
必要な人は自分ではそうと気づかなくても、しかるべきタイミングで現れるのだと思いました。

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