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「インタラクション」とは何か? vol.1

本記事は、Human Computer Interaction(HCI)の国際学会「CHI 2017」にて、コペンハーゲン大学のHornbæk氏とアールト大学のOulasvirta氏が発表した "What Is Interaction?" を私が翻訳・独自に解釈したものです。

「インタラクション」という単語は定義されていない

そう言われてみれば…と思う、2017年に発表された衝撃的なタイトルの論文をパーソンズの授業の中で読んだので、簡単に私の理解を書いておきたいと思う。

「インタラクション」という単語はCHI2016の論文集でも4500回以上登場し、今やコンピュータの世界も超えて当たり前のように使われる単語であるが、昔のようにコンピュータと人間との間だけのインタラクションで完結しなくなってきた今だからこそ、インタラクションという単語は明確に定義されていない、と彼らは論文で主張している。

よくインタラクションとは、2者の間での「やり取り」である、なんて言われるものの、それ以上の定義がされていなかったり、または著名な研究者、例えばD.ノーマンが「誰のためのデザイン?」の中で語ったインタラクションの7つの原則、Dourishの "存在するインタラクション (embodied interaciton)"、Jacobらの "現実志向インタラクション (reality based interaction)" など、様々な研究者がそれぞれの視野でインタラクションを解釈しているが、HCIの文脈において統一的な見解は無い。この論文の中では、インタラクションという概念を、文学的な意味ではなく、問題解決の手段としての立場から定義することに挑戦している。

インタラクションという「俗説」

「インタラクションデザイン」「インタラクティブシステム」「インタラクションデバイス」などの言葉は当たり前に使われ、「インタラクションXXX」に関する文献や参考書は巷に溢れているが、「インタラクション」という概念自体を直接的に扱っているものは少ない。なんとなく「やり取り」というふんわりした概念が俗説的に使われているが、インタラクション自体を明確に説明する理論やモデルが語られることはほとんどない。

過去には、上述したノーマンなどの他、Bødker氏とKammersgaard氏が1988年に発表した「インタラクションの4つのタイプ(システム、ツール、対話相手、メディア)」など、インタラクション自体の定義に挑んだ論文も散見されるが、各論文はある1つの視野から語られており、お互いの関連性や統一的な見解が作られてこなかったのが現状である。そこで、今回この論文では、HCIの文脈における過去のインタラクションに関する論文を精査・比較し、インタラクションの7つの概念を再定義している(下表)。

1. 対話としてのインタラクション (Interaction as Dialogue)

インタラクションを「機械の入出力、または人間の知覚/動作を介した情報伝達行動のサイクル」と捉える。この概念はHCIの初期の時代から語られており、D.ノーマンのインタラクションの7つの原則などは最も有名である。

重要な要素としては、ノーマンが語るように、最終的にユーザーがゴール/当初の意図に辿り着けるような、適切な動線やフィードバックの設計である。

ゆえに、「良いインタラクション」とは、シンプルで、理解がしやすく、人間の動作に合った対話がされている状態と定義できる。

設計や評価にあたっては、ユーザーフィードバックやウォークスルーなど、包括的・客観的に評価できる手法が役立つ。

[私の解釈追記] このタイプのインタラクションが現在のUXデザインや人間中心設計の基礎をなすものになっている。例えばUXハニカムなどはこのタイプのインタラクション設計のガイドラインになるものであろう。

UXハニカム

2. 情報伝達としてのインタラクション (Interaction as Transmission)

インタラクションを「機械と人間との間の情報伝達」と捉える。HCIの文脈ではシャノンの情報理論が素地となっている。

重要な要素としては、雑音のある通信路(noisy channel)の中での送信者から受信者への情報(ビット)伝送効率である。

ゆえに、「良いインタラクション」とは、情報のスループットが最大化された情報伝達がされている状態と定義できる。

設計や評価にあたっては、パフォーマンス指標や定量的なテストが役立つ。

シャノンの情報理論

3. 道具の利用としてのインタラクション (Interaction as Tool use)

インタラクションを「道具を介した(道具そのものの目的を超えた)人間の活動」と捉える。ここでいう「道具」とはハンマーを使った釘打ち動作とか、頭の中でのルールを使った暗算とかではなく、機械が道具としてユーザーに扱われ、その結果、何かに変化を与えたり、ユーザーを拡張するような現象を指す。理論としては活動理論(Activity Theory)などが素地にある。

重要な要素としては、機械/道具が我々を形作り、我々の行動を規定する([解釈追記] 例えば横断歩道とか街づくり、みたいなものも、広くこの概念と言えるかもしれません)という立ち位置で考えることである。よりモノを「利用する・使う」部分が強調され、その「道具を使って我々がタスクを行ったり、活動したりする」。例えば建築現場のクレーンや、遠隔操作ロボットなどがある。

ゆえに、「良いインタラクション」とは、利便性や実用性が高い道具(機械)が人の活動をサポートしている状態と定義できる。

設計や評価にあたっては、Beaudoin-Lafonが "道具としてのインタラクション (Instrumental Interaction)" の中で言及している、互換性(その道具の使用が人の動作の何を互換しているのか)の指標が役立つ。

instrumental interaction

4. 最適な行動としてのインタラクション (Interaction as Optimal behavior)

インタラクションを「タスクや自分の能力、UIによってもたらされる制約の下で、効果(実用性)を最大化するための適応行動」と捉える。合理性(rationality)の概念が素地にあり、UI、環境、タスクなどから与えられる制約も含めていかにユーザーの能力を最大化するか、ゴールに到達させるかが論点となる。

重要な要素としては、報酬とコスト、アクション、制約からなる一連のシステム(エコシステム)を考慮する必要があり、その中で人がどのように機械に接触するかも適応行動に影響を及ぼす。

ゆえに、「良いインタラクション」とは、与えられた条件下で最大or高い満足度・実用性のある行動が達成されている状態と定義できる。

設計や評価にあたっては、選択・採餌・適用モデル (models of choice, foraging, and adaptation)が役立つ。

[解釈追記] サービスデザインの考え方はこの概念にマッチしている

5. 存在としてのインタラクション (Interaction as Embodiment)

インタラクションを「物質的or社会的世界の中での存在・参加」と捉える。環境心理学や、ハイデガーの解釈学現象論が素地にあり、1人称の視点(私がユーザー!私の世界!)が特徴である(道具の利用としてのインタラクションのような、第3者視点が重要になるアプローチとは異なるものである)。

重要な要素としては、意図、文脈、そしてそれらを結合する要素を理解することである。ユーザーの行動(意図)は複数の文脈に根ざしていることもあり、何がそれらの文脈を接続しているのか、何がユーザーの意図を創出しているのかを理解しなければならない。

ゆえに、「良いインタラクション」とは、よりスムーズに人々の社会的参加を促したり、(ユーザーの)世界の中での個の存在のサポートが達成されている状態と定義できる。

設計や評価にあたっては、定量的なデータを参考にしたり、厚い記述(thick description)が役立つ。

[解釈追記] SNSもこの観点で「どれだけ個が自分の存在を表現できているか」という軸で評価できるかもしれない

6. 体験としてのインタラクション (Interaction as Experience)

インタラクションを「ユーザーの期待、体験の瞬間、回想の一連の流れ」と捉える([解釈追記]いわゆる予期的UX、一時的UX、エピソード的UX、累積的UXだと理解)。

重要な要素としては、人の体験、すなわち期待や感情のようなものは、功利主義的な品質だけで形作られるものではないということを理解しておく必要がある。体験のデザインは、インタフェースのステップや製品の機能にシンプルにマップできるものではない。

ゆえに、「良いインタラクション」とは、心理的な要求が満たされ、次の体験の動機付けまで達成されている状態と定義できる。

設計や評価にあたっては、UXメトリクスや体験デザインの方法論が役立つ。

UX白書より

7. 制御としてのインタラクション (Interaction as Control)

インタラクションを「ユーザーがゴールやある要求に向かう際のエラーを最小化する対話的な活動」と捉える。HCIの文脈では一般的ではないかもしれないが、制御理論はHCIよりも前に発達し、HCIの分野にも多大な影響を与えている。

重要な要素としては、いわゆる制御理論で用いられる、フィードバック、フィードフォワード、制御、入出力、状態、系(システム)、ダイナミクスなどを理解することである。この概念におけるインタラクションは、ゴール、入出力、状態制御の系とみなすことができ、ユーザーは「制御者」である。

ゆえに、「良いインタラクション」とは、目標状態への迅速かつ安定した収束が達成されている状態と定義できる。

設計や評価にあたっては、制御タスクの実行可能な動的シミュレーションが役立つ。

[解釈追記] いわゆるプラント監視系UIなんかはまさにこの例だが、ここでの概念はそれだけにとどまらず、「制御系として全体の体験を扱う」ことも指している

さて、分類はなんとなく分かった。それで?

ここまでで、過去の個別のインタラクション理論を整理し、「インタラクション」という単語が持つ範囲を明らかにした。筆者らはこれで全てとも、あらゆるインタラクションがどれか1つに振り分けられるとも言っておらず、こう言った議論をきっかけに、さらなる体系化に繋がって欲しいと述べている。私自身としては、UIデザイン、UXデザイン、サービスデザイン、ソーシャルインパクトデザインなど、最近のトレンドワードが確かに違う文脈に位置付けられることがわかり、この分類を知っておくだけでも自分の立ち位置を明確にして意思疎通ができる気がした。また、例えば1の概念でUXを考えてみたものを、7の制御系の概念として見てみるなど、1度デザインした体験を別の概念で考えてみても新しいインサイトが出るかもしれない

この論文ではさらにここから続きがあり、分類が済んだところで、まだ足りてない議論や、Bungeの因果性を用いて、原因-結果の関係性で見るとどうなるかなど、新しい示唆を生み出しながら、最終的にじゃあ結局「インタラクションって?」という結論に持っていっている(1文でスパッと明確な結論ということにはなっていない)のだが、長くなったのでまた次回書きたいと思う。

もし原文を読まれた方でここ違うよ、ということがあればご意見ください。

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