ばる|専業読書家(人文学)

哲学、資本、テクノロジー、歴史、文化などを学び、なにかを考えて吐き出します。京大(工学…

ばる|専業読書家(人文学)

哲学、資本、テクノロジー、歴史、文化などを学び、なにかを考えて吐き出します。京大(工学)→東大院(環境学)→IT企業(ビジネス職)→退職:死ぬまで独学。30代。100%人力で執筆します。

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記事一覧

小3長女の読書事情:初めて手に取った新書はまさかの...

うちの子は将来、どんな本を読むようになるんだろう。 それ以前にまず、本を読むタイプの人種になっていくのだろうか。 人生がまるごと本とともにあるような親にとって、…

独学考#6:過去を問い、前方予測性を高める

あるテクストの読解のゴールは、究極的には著者を読者自身のうちに憑依させ、著者が辿る思考の道筋をありのままに再現できる状態になることだと思う。 別に異論は全然認め…

独学考#5:文脈を置き直す(ための管理手法をわりとミスってたかも)

ここ最近、アルチュセールの概説書を少しずつ読み進めてて、多面的に衝撃受けまくってるんだけど、とりわけ徴候的読解とか認識論的切断の話とかを自分の学習/知的生産シス…

久々に池袋ジュンク堂でいっぱい買った。

昨日の記事の参考文献。とりわけ『中国山水画の誕生』は緻密な考証から背面の思想的傾向を丁寧に炙り出してて良かった。松岡正剛がこれを千夜千冊で取り上げてるけど、ふわっとした昔話に終始してて面白い。

【絵画読解】山谷深くして気韻生動す

もはや恒例の、絵画読解記事。今回もCasieで借りた作品、あきこ屋《The Story of the Monkey King》を題材として、さまざま思いを巡らせてみたい。 西遊記を題材にしてい…

独学考#4:読みながら索引を作る

普通に読んでもさっぱり読めない難しい本というのが世の中にはたくさんあって、それでも内容を少しでも理解する必要がある場面というのもたくさんある。 眼の前のテクスト…

君は「ドラえもんひみつ道具レビューサイト」の存在を知っているか

つい先日、R-1の決勝メンツが発表されてたので眺めていると、史上初のアマチュア決勝進出者「どくさいスイッチ企画」とある。興味が湧いたのでyoutubeとかでネタ動画を漁っ…

夕暮れを待ち望む~カミュ『異邦人』

ちょうど先日記事にした『適切な世界と適切ならざる私』において、詩人は私と世界の再構成の実験をしていた。翻って、20世紀フランス文学を代表する本作の著者はむしろ、精…

私-世界を結び目から開ける~文月悠光『適切な世界の適切ならざる私』

いつ何時も力強くそびえ立っている「世界」という舞台があって、その中には無数の存在者がひしめいている。それを意識の主体としての「私」が認識する。人はふつう、このよ…

死ぬという驚き~池田晶子『41歳からの哲学』

哲学エッセイスト池田晶子の週刊新潮での連載エッセイを一冊にまとめたもの。おそらくは著者41歳の1年間分なんだろう。それ以上には、書名にあまり意味はない。 時事ニュ…

2024年の前口上

やっと年が明けた。なぜといえば、おととい本屋に行って、今年のカレンダーを買ったからだ。そして、つい今しがたデスクの大掃除が済んだからだ。 思えば、年越しそばを元…

【引用】偶有性へと"投機"する個

"でも、ここでしょうか。 この世間の荒波、都の嵐のただなかでしょうか、 私が竪琴の響きに和した言葉を紡ぐのにふさわしいのは。"
―ホラーティウス『書簡詩』,講談社学術文庫,Kindle版位置番号. 2,143

ストックオプションと分裂症

マルクスが『資本論』を書いて、グレーバーが『負債論』を書いたので、当然そろそろ『ストック・オプション論』も必要だろうと思う。以下はそのうちのほんの片隅の試論であ…

独学考#3:その理想主義を捨てよ

およそ人がなにか物事に取り組み始めるとき、圧倒的な作品や才能や努力に触れて感動し、それ自体が持つ熱気に当てられて行動を起こすということがあると思う。その熱量が自…

小3長女の読書事情:初めて手に取った新書はまさかの...

小3長女の読書事情:初めて手に取った新書はまさかの...

うちの子は将来、どんな本を読むようになるんだろう。

それ以前にまず、本を読むタイプの人種になっていくのだろうか。

人生がまるごと本とともにあるような親にとって、これはとても気掛かりな問題である。

とくべつ教育熱心な親では無いものの、本だけは長女の幼少期よりせっせと配給しつづけてきた。家の本棚には年齢ごとの絵本が敷き詰められているし、妻が図書館で借りてきた本も常にそこらに転がっている。どんどん

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独学考#6:過去を問い、前方予測性を高める

独学考#6:過去を問い、前方予測性を高める

あるテクストの読解のゴールは、究極的には著者を読者自身のうちに憑依させ、著者が辿る思考の道筋をありのままに再現できる状態になることだと思う。

別に異論は全然認めるとして、ではここに向かうために、読者には何ができるだろうか。

著者を自分の脳に「降ろす」とは、単にその著作が論じている理路の再現だけに限ったものでは全然なくて、著者がものを考える際の規則や傾向性を丸ごと把握し、それに即して思索を展開す

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独学考#5:文脈を置き直す(ための管理手法をわりとミスってたかも)

独学考#5:文脈を置き直す(ための管理手法をわりとミスってたかも)

ここ最近、アルチュセールの概説書を少しずつ読み進めてて、多面的に衝撃受けまくってるんだけど、とりわけ徴候的読解とか認識論的切断の話とかを自分の学習/知的生産システムと重ねて考えていくともう全部が全部反省しきりって感じで、根底的に刷新しなきゃいけないかもなと思ってきた。いろいろミスってたわ、と。

自分の情報の集約の仕方ってわりとデジタル偏重というか、抜き書きとかは基本Scrapboxに全部突っ込ん

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昨日の記事の参考文献。とりわけ『中国山水画の誕生』は緻密な考証から背面の思想的傾向を丁寧に炙り出してて良かった。松岡正剛がこれを千夜千冊で取り上げてるけど、ふわっとした昔話に終始してて面白い。

【絵画読解】山谷深くして気韻生動す

【絵画読解】山谷深くして気韻生動す

もはや恒例の、絵画読解記事。今回もCasieで借りた作品、あきこ屋《The Story of the Monkey King》を題材として、さまざま思いを巡らせてみたい。

西遊記を題材にしているらしい動きのある作品を一瞥して、立ちどころに浮かびあがるイメージがある。それは、中国奥地に屹立する山々の原風景である。千年以上の歴史が脈打つ水墨山水画が描いてきた雄大な自然である。

なによりもまず、この

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独学考#4:読みながら索引を作る

独学考#4:読みながら索引を作る

普通に読んでもさっぱり読めない難しい本というのが世の中にはたくさんあって、それでも内容を少しでも理解する必要がある場面というのもたくさんある。

眼の前のテクストに真正面からぶち当たって無理そうなときは、読者の側で読解のためにアレコレ策を弄するよりほかにない。足場を組んでみたり、手すりを設置してみたり、分解して調べてみたり、遠くから見たり。

「自前の索引を作る」というのもそういう手段のうちのひと

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君は「ドラえもんひみつ道具レビューサイト」の存在を知っているか

君は「ドラえもんひみつ道具レビューサイト」の存在を知っているか

つい先日、R-1の決勝メンツが発表されてたので眺めていると、史上初のアマチュア決勝進出者「どくさいスイッチ企画」とある。興味が湧いたのでyoutubeとかでネタ動画を漁ったら、これがかなり面白い。

典型的な一人コントではあるんだけど、どのネタにも風刺的/批評的にしっかりとした幹があって、主題えらびと構成の妙から生まれる構造的な裏切りがじわじわと効いてくる仕掛けが心地よい。社会人落語の実力者でもあ

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夕暮れを待ち望む~カミュ『異邦人』

夕暮れを待ち望む~カミュ『異邦人』

ちょうど先日記事にした『適切な世界と適切ならざる私』において、詩人は私と世界の再構成の実験をしていた。翻って、20世紀フランス文学を代表する本作の著者はむしろ、精神生活において正しい秩序への従属を日々演じることの耐えがたさの告発と内在的な正しさへの問いへと向う。それも一歩一歩が震えるように重く、地中に沈み込むような足取りで。

カミュが主人公のムルソー氏の目を通して表現した違和感は、社会への鋭い問

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私-世界を結び目から開ける~文月悠光『適切な世界の適切ならざる私』

私-世界を結び目から開ける~文月悠光『適切な世界の適切ならざる私』

いつ何時も力強くそびえ立っている「世界」という舞台があって、その中には無数の存在者がひしめいている。それを意識の主体としての「私」が認識する。人はふつう、このように思っている。

しかし実際には、そうした「世界」の存在をほのめかすような知覚の印象(視覚、聴覚、味覚、触覚、嗅覚)が「私」の手元にあるだけであり、感覚を超えたところにある外界の有り様やそこで起こっている事柄を指し示すものは何一つない。 

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死ぬという驚き~池田晶子『41歳からの哲学』

死ぬという驚き~池田晶子『41歳からの哲学』

哲学エッセイスト池田晶子の週刊新潮での連載エッセイを一冊にまとめたもの。おそらくは著者41歳の1年間分なんだろう。それ以上には、書名にあまり意味はない。

時事ニュースをとっかかりに人生と日常のあれこれを幅広く扱っており、1話毎に数ページ完結ぐらいのボリュームながら、それぞれのテーマに鋭く切り込んでいく迫力が感じられる。そして、それら多方面への思索の核である「死」への眼差しが、一冊の全体を緩やかに

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2024年の前口上

2024年の前口上

やっと年が明けた。なぜといえば、おととい本屋に行って、今年のカレンダーを買ったからだ。そして、つい今しがたデスクの大掃除が済んだからだ。

思えば、年越しそばを元日の0時半に食べたのがまずかった気がする。その辺りから今日に至るまでの記憶がおぼろげである。傑作PS4ゲーム『Red Dead Redemption 2』の20世紀アメリカ西部でカウボーイとして動物の皮を剥いだり駅馬車を襲ったりして過ごし

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"でも、ここでしょうか。 この世間の荒波、都の嵐のただなかでしょうか、 私が竪琴の響きに和した言葉を紡ぐのにふさわしいのは。"
―ホラーティウス『書簡詩』,講談社学術文庫,Kindle版位置番号. 2,143

ストックオプションと分裂症

ストックオプションと分裂症

マルクスが『資本論』を書いて、グレーバーが『負債論』を書いたので、当然そろそろ『ストック・オプション論』も必要だろうと思う。以下はそのうちのほんの片隅の試論である。

『資本論』が労働者の労働生産物からの疎外を言うとき、資本主義において生産手段の所有者と実際に生産を行う労働者との不一致という事態が大きな役回りを担っていた。労働の対象化たる生産物が、資本(家)の価値増殖運動のうちに労働者の手を離れて

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独学考#3:その理想主義を捨てよ

独学考#3:その理想主義を捨てよ

およそ人がなにか物事に取り組み始めるとき、圧倒的な作品や才能や努力に触れて感動し、それ自体が持つ熱気に当てられて行動を起こすということがあると思う。その熱量が自分に乗り移り、同じように素晴らしいなにかを成し遂げたい、そのために同じように頑張ろうと決意することがあると思う。

自分も、「5万冊の本を読んだ人」とか「図書館に3年寝泊まりして資料編纂した人」とか「毎日20時間ものを書き続けてる人」とかの

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