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威厳は心の底光り


 打ち見たる所に、そのまま、その人々の長分たけぶんの威があらはるゝものなり。引きたしなむ所に威あり、調子静かなる所に威あり、ことばすくなきき所に威あり、礼儀深き所に威あり、行儀重き所に威あり、奥歯がみして眼差まなざしするどなる所に威あり。これ皆、外に顕はれたる所なり。畢竟ひっきょうは気をぬかさず、正念なる所がもといにて候となり。

葉隠 聞書二 八九 

堂々としておごそかなことを「威厳」というが、内部から発する底知れぬ雰囲気であるだけに、その人となりが推し量られるものである。 
「新刀のあだ光り」という言葉があるように、今どき出来た粗雑な刀が、厳選された玉鋼たまはがねで熟練した刀匠とうしょう精魂せいこんを込めて鍛え上げた「古刀の底光り」には到底及びもつかないように、人の輝きもまた同様である。いかに外見を整えたところで、りんとした内部からの輝きは伝わってこないのである。

 人が全身全霊を傾けて物事に取り組んでいる姿や、従容とした振る舞い、何時いつ如何いかなる相手に対しても慇懃いんぎんな態度で対応する姿にも、思慮深い冷静な行動にも、奥歯をみ締めて眼光炯々けいけいとして人を圧する面構つらがまえにも威厳を覚える。

 「畢竟ひっきょうは気をぬかさず、正念なる所がもといにて候」と締めくくっているように、日頃何事にも顰蹙ひんしゅくを買うことの無いように真剣に対処していく気構えの積み重ねが、おかがたい雰囲気をかもし出すのである。


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