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【文庫】井筒俊彦『ロシア的人間』は今年一番のグッドワーク

今月の新刊文庫の売り場で、
感激することがありました。

こんな仕事をする文庫編集者が
いるんだあ、と。
なんて志しが高いんだろう?

私が感激した新刊文庫は
『ロシア的人間』
作者は、井筒俊彦。
出版社は中公文庫です。

これは一般論ですが、
文庫の編集部というのは、
文芸雑誌の編集者が歳を経て移る、
ゆったりした働き場所です。
編集者たちは、
どこか忸怩たる思いも
持っているものです。

まあ、それはさておき、
文庫の編集の使命は、
自社の単行本をそのまま
文庫本にするだけではありません。

これまで様々な出版社から
出されていた本の中から、
今こそ読むべき本を探し、見つけ、
新たな装いをして、
現代の私たちに
手に取りやすくすること、
それも文庫編集者の大きな使命と
言えるんですが、
この『ロシア的人間』は
実に波乱万丈な本で、
しかも今こそ読むべき価値がある
貴重な本だよ、という自信が
本から漂っていました。

これを担当した方は
本当に編集者のカガミです。

なにせ、
最初は1953年、弘文堂から出て、
1978年、北洋社、
1989年、中公文庫、
そして、2022年、中公文庫新版、
と、なんと、今回までで
4回も出されてきました。

この『ロシア的人間』が
発売されるのは、
ロシアやソ連が
世界情勢を揺るがし、
注目を集めていた時です。

ところで、そんな貴重な本が
なぜ、何度も復刻されているのか?  
何度も絶版になってきたのか?

中身は凄いんですよ。
ただ、作者は世界に通じる
稀有な哲学者、井筒俊彦さんだから。
難解なんです。ちょっと。

私は岩波文庫から出てる
井筒俊彦先生の哲学書は
どれも挫折してきました(笑)。

西洋哲学、東洋哲学、
インド哲学、イスラム哲学、
これら全てを身につけた巨人で、
たしか30カ国語を読み話せた
という碩学です。 
まあ、俗っぽくいえば
知のモンスターでしょう。

司馬遼太郎や佐藤優や江藤淳らが、
敬愛してやまない大哲学者。

ただ、そんな井筒先生にも、
通常の哲学書でなく、
ロシアとは何かを
文学者を題材に書いた
文学的エッセイは
やや読みやすそうで、
今回買いましたが、
すでにもう、
挫折してしまいそうです。 
難解というか、
理解に時間がかかるというか。

この本で初めて、わたしも
井筒先生の著作を通読できる
かもしれません。

それにしても、
この時期に、この井筒先生の
文学的エッセイを出した編集者は
儲けや利益は考えてないでしょう。 
つまりは編集長ともども、
この本は出すことに価値があり、
利益は二の次にしたんでしょう。
そうしたやり取りが
目に浮かびます。

この本の復刻を発案し、
動きに動いた編集者に
こころから敬意を払いたいと
思います。

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