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妻有にて

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越後妻有での
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春は雨から

春は雨から

雨が降ると、春の訪れを実感する。
雪が降るこの街では、雨は気温を測るものさしのひとつだ。真冬の雨というのは殆どなくて、時々降るものなら「今日は気温が高いんだね」という台詞が挨拶についてくるだろう。
本格的な冬がくる前は、それまでの雨粒が大きくなってベタつきを持ったみぞれになる。だんだんと寒くなるにつれ、透明な粒は白く色づく。
冬の終わりはその逆で、雪が水分を含んで重たくなった雪から徐々に色が消えて

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冬の枝の先の雪

冬の枝の先の雪

自分が住む街は、ひと冬の積雪量が2〜3mにもなり、街中は白い壁に囲まれた迷路のような景色になる。
白い壁は、ただただ雪が積もってできているわけではなく、夜間に道路に降った雪を明け方に除雪車が道路脇に片付けてくれることで日に日に高さを増していく。多い日だと一晩で50〜100cmほど降るこの街は、おそらく常時3m近い壁が道の数だけ作られている。

そういうこともあってか、この街には街路樹が少ないように

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殺タヌ犯

殺タヌ犯

先日、タヌキを殺した。車で轢いてしまったのだ。

夜。目を凝らしながら車を走らせる山道を抜けて、市街地をしばらく走っていたときのことだった。

前照灯に反射した何かが目だと認識し、しっかりと目を合わせた瞬間にはもう遅く…私は殺タヌ犯になってしまった。
あまりにも一瞬の割には、表情をしっかりと脳裏に焼きつけてしまったし、瞳はつぶらだった。この前は夢に登場した。私の記憶はすぐに夢に繋がるようだ。

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初雪

初雪

ポストに届いたトイザらスのカタログをめくるのがクリスマス当日よりもクリスマスをしているから好きで、目を覚まして白くなった道を見るよりも雪が降りそうな予感のする夜が好きだった。

冬が好き。クリスマスにも雪にもソワソワしなくなったけれど、冬が好き。

スンとかツンとかシーンとか、吸い込む空気が鼻先を抜けて頭を刺すときのワクワク感。
今朝、確かにそれがあって「冬がきた!」と確信しては寒さにときめいたの

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季節を食べる

季節を食べる

小学校2年生だったと思う。

教科書に、ふきのとうが出てくる作品があった。
物語だったか、詩だったか…今では忘れてしまったけれど何か惹かれるものがあったのだろう。ほんものをみてみたくてたまらなくなった。みたことがないから、有名人のような存在になった。

ちょうどその時期、偶然帰省をすることになった。
山を走る道中で車をとめてもらって初めてみたふきのとう。桜並木の道の脇に住む私にとって、緑から春を感

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嬉しくても悲しくても優しくされても泣いてる

嬉しくても悲しくても優しくされても泣いてる

初めての冬…ではないけれど去年は100年に一度だと言われた小雪が嘘のように、雪が降って降って積もっている。

仕事を終えてから翌朝出勤するまでの間に、車は真っ白なカツラを被っている。
休みだからと2日も放っておくと…

埋まる。

ある朝、車を動かせなくなってしまった。

"スタック"といい、前進も後退もどうにも動かないのだ。
こんな時はブウゥンと踏み込むアクセルが泣いてるように聴こえてくる。

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まさか自分が軽トラに

まさか自分が軽トラに

スイカは盗みに行かないし、ケアンズでもベニスの空の下でもない。が、仕事で軽トラックに乗っている。

https://youtu.be/GLu5_Er3U_g

私の職種は第一次産業。その中で農業をしている。
大学卒業後に移住をした。

「まさか」というのは謳い文句でも何でもない。本当に「まさか」だった。上り坂、下り坂、まさか…大好きなドラマで語られた人生にあるという坂の3つ目に遭遇したのだ。
大学

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