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読書感想

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ケン・リュウ、ミラン・クンデラ、J・G・バラード、三島由紀夫など、ジャンル問わず好きです。
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平野啓一郎『息吹』オーディブル感想。

平野啓一郎『息吹』オーディブル感想。

平野啓一郎『息吹』オーディブルで拝聴。運命の分岐点を感じさせる経験は誰の人生にもあると思う。そこを深掘りして、予想外のSFにしてしまうのだから、やっぱり作家ってすごい。非日常のドアを召喚する能力が圧倒的に高いんだろうな。
現代における魔法使いだ。
ある人にはメラ、ある人にはホイミ、またある人にはルーラの呪文をかけてくれる。
穏やかで優しい生活を侵食するパラレルワールドの影はあまりにも濃く、それゆえ

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『輪るピングドラム上中下』読書感想

『輪るピングドラム上中下』読書感想

アニメの方が良いが、小説でもちょちょぎれるぐらいの涙は出る。
アニメのラストシーンでは、幼少期の姿で出てきた冠葉と晶馬についての解釈で旦那と意見が分かれた
(旦那は生まれ変わった冠葉たちがまた陽毬たちと交流し人間関係を築いていくという前向きな解釈、
私は冠葉たちは陽毬と苹果を生かすため犠牲になり、まどマギのまどかのように概念の世界から陽毬たちを覗く存在となったという解釈)が、
小説では、どちらかと

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『目玉』吉行淳之介 読書感想。

『目玉』吉行淳之介 読書感想。

白内障手術やタクシー運転手とのやりとりなど、取り止めのない日常を綴ったエッセイ集。
よく目にするタイプの、テーマを深掘りする感じのエッセイではなく、思考がふわふわと色んなところに泳いでいく感じのエッセイで、文章化される思考以前の脳内の感じとよく似て、それをもっとも近しい所まで降りてきて言語化してくれているので、読んでいてとても心地よい。深掘りするタイプのものは脂っこいし、無理矢理なときもままあるの

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『同志少女よ、敵を撃て』読書感想。

『同志少女よ、敵を撃て』読書感想。

少女狙撃兵たちの過酷な運命を描いているのだが、どこかアニメのような軽やかさがあり、読みやすい。
キャラクターの辿る運命も意外性があって楽しめた。
特に主人公と幼馴染との最後の交流?が、衝撃的だった。
戦争は人を変えてしまう。
人ではないナニカに変えてしまう。
そのことを切に教えてくれるワンシーンだった。
ここを読むためだけにでも是非読んでもらいたい一冊でした。

『ボラード病』読書感想。

『ボラード病』読書感想。

災害後、復興途上にある港町・海塚市。
市民たちはふるさとを愛し、皆一丸となり、より良い町づくりに邁進している。

町の小学校に通う小学五年生の少女・恭子は、同級生たち不可解な死や、ときおり起こる大人たちの失踪に小さな違和感を覚えている。

少女のあどけない視点から描かれる町の様子は、ピンホールメガネから覗いた景色のように、どこかしらに何らかの欠けがあるのだが、その分だけ視界がクリアになり、不穏さが

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『消滅世界』読書感想。

『消滅世界』読書感想。

性、愛、恋が切り離された近未来。
これはディストピアかユートピアか。
感じ方は人それぞれだと思う。
私個人の感想としてはディストピアだ。
社会で子供たちを見守るというコンセプトは理解できるし、良いことだと思うけれど、
この小説のようにお母さんお母さんと誰彼関係なくなつかれるのには嫌気がさしそうだし、そもそも
誰にでも懐く奴は結局誰でも良いってことでしょと身も蓋もなく考えてしまいそうだから。
心の狭

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『列車に乗った男』読書感想。

『列車に乗った男』読書感想。

強盗常習犯の流れ者ミランと田舎町で長年教職を勤しむマネスキエ。
町の薬局で偶然出会った2人は、徐々に互いの人生に惹かれあってていく。
マネスキエにとっては、街からほとんど出たことのない自分が持ち得ないミランの自由さに、ミランにとっては、マネスキエの持っている土地との繋がりとそこから生まれる重厚な歴史にそれぞれ羨望の念を抱いていた。
互いの人生への羨望がエスカレートし、
マネスキエはミランの服をこっ

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『さかさま世界史 怪物伝』読書感想。

『さかさま世界史 怪物伝』読書感想。

アンデルセン、スウィフト、ヒットラー…etcに物申す。
自由闊達な評伝集。

万有引力の法則のニュートンに対しては、「孤独だから空ばかり見ていたのだろう。孤独じゃない奴は空なんて眺めない。」と、「本当に大切なものは目には見えないものなのだよ」と王子さまに語らせたサン・テグジュペリを「現実ぎらいの人間ぎらい」とぶった斬る。
魯迅の『阿Q正伝』を見下しと哀れみの文学とし、弱者に対する敬意皆無な魯迅の視

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『国境の南、太陽の西』読書感想

『国境の南、太陽の西』読書感想

ここではないどこかに行きたい男の物語。 
初恋のあの人は幻想なのか現実か。
男が夢現から現実に戻った時、目にする空白を真っ白なキャンバスと捉えるか、砂漠の荒野と捉えるかはその人次第。

年は取りたくないのに変化したい、人間の業は不合理だなーと思った。

『サラバ!』読書感想。

『サラバ!』読書感想。

主人公の歩の印象が読み進めるほど悪くなっていくのにそれに応じて共感も強まっていく、不思議な読み心地の小説だった。
特にラスト少し手前、30過ぎてからの歩は非常に嫌な感じの奴。
それなのに彼に自分の影を、また嫌いな知人の面影をも見る。
つまり、歩はどこにでもいる男なのだ。
個性的な姉に脅威とコンプレックスを抱いており、器用貧乏で、それ故に結局何も成し遂げることもできず34歳まできてしまった男。
そん

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『ロボットイン・ザ・ガーデン』

『ロボットイン・ザ・ガーデン』

偶然庭に迷い込んできた、おんぼろロボットのタングと関わり合うことで、大人の階段を登っていく34歳・無職のベン。
純粋無垢なタングと触れ合うことで、今までの独りよがりだった人生が変化していく。
中年の遅咲き成長物語。
ポジティブの押し売り感が強く、私のようなネクラな人間には感情移入できなかった。
『ポリアンナ物語』のように狂気を含んだポジティブさではなく、地に足のついた真っ当なポジティブさに胃もたれ

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『火車』読書感想。

『火車』読書感想。

遠戚の和也の婚約者・関根彰子が自身に自己破産の過去があることを和也に知られたことをきっかけに行方をくらませた。

怪我により休職中の本間は和也から彼女を探し出すことを依頼される。
彼女を探すうちに徐々に見えてくる凄惨な事件のあらましとは。

「ただ幸せになりたかっただけなのに」

”本物”の関根彰子のこの言葉に隠されているクレジットサービスの闇とは。

関根彰子の自己破産の手続きを請け負った弁護士

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『本心』読書感想。

『本心』読書感想。

生まれたときから母子家庭で過ごしてきた朔弥。
たった一人の肉親である母が自分を置いて安楽死を希望していることを打ち明けられ、猛反対している最中、母は事故によって命を絶たれてしまう。
悲しみに暮れる朔弥は、母がなぜ死にたがっていたかをどうしても知りたいと切望し、大金を使い、母のAIを作り出した。
AIの母とのやりとりすることでなぜ亡き母が安楽死を望むようになったかを突き止めようとする。
母のAIの精

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『イニシエーションラブ』読書感想。

『イニシエーションラブ』読書感想。

童貞の妄想のような話を嫌になるホド見せつけられ辟易したけれど、
”ラストがゾッとする”という評判を信じ、期待を込めて最後まで読み切った。

例え交際相手に殺されようとも可哀想とは1ミリも思ってあげられないような人格の主人公•たっくんだけれど、損得勘定や効率で動く自分をクレバーと思い混んで突き進んでいった結果、自分の本当の気持ちにさえ気づくこともできずに大切な人を失ってしまう姿には同情してしまった。

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