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ラクダが空を飛んでいる

4年に1回のワールドカップ、1週間に1回の爪切り。1時間に2回のツイッター、3ヶ月に1回の散髪、1週間に5回のバイトと一生に20万回のトイレ。人間の営みの殆どは周期に沿って行われるが、時々その周期が乱れる時がある。寝坊してバイトを休んだり、見たかったテレビを見逃したり、おしっこを漏らしたりするときだ。

そんなときはいつも、ラクダが空を飛んでいる。
 
周期が乱れているとき、人間の視界は狭くなり、

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雑炊

道を歩いていると雑炊が落ちていた。

それは紛れもなく雑炊だった。ほのかに湯気も立っているし、そこに落ちてからまだそんなに時間は経っていないようだ。

とろりとした卵がご飯全体を優しく包み込み、その波に乗るようにしてネギと海苔が踊っている。まさに雑炊である。

仮に全国からランダムに選ばれた老若男女100人に「これは雑炊ですか?」と質問すれば9割が雑炊だと答えるに違いない。

しかし僕は今、目の前

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破裂音

人は、いつからか風船の大きさで人の善し悪しを判断するようになった。結婚も就職も風船の小さな者が有利となり‪日本から悪口と暴言が消え、‬合コンは盛り上がりに欠けた。

ーーーー令和が始まると同時に全国民の頭の上にはフワフワと風船が浮かんでいた。風船の大きさは人それぞれ違っていて、子供で大きな風船を持つ者もいれば大人で小さな風船を持つ者もいた。初めは面白がっていた国民も訳の分からない奇妙な風船に対

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昨日

朝起きると喉の奥に何かが詰まっている奇妙な感覚に襲われた。初めは風邪を疑ったが風邪特有のイガイガする感じはなく喉の奥に確かな存在を感じた。その存在はうがいをしても珈琲を飲んでもお米を飲み込んでも解消する事はなかった。試行錯誤している内に大学の講義の時間が迫って焦って大学に向かった。外に出ると雨がぱらぱらと降っていて憂鬱な気持ちになった。午前の講義中、ずっと存在に意識を取られ少しも集中できなかった。

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メロスは謝罪した。

村の牧人であるメロスが、王に対して「呆れた王だ。生かして置けぬ。」などと発言していたことが、関係者への取材で判明した。この一連の報道について、ネット上では「王に対して失礼!!」「身分をわきまえろ!!」など多くの批判が殺到し、メロスは、記者会見を開いて発言を認め「不適切な発言で王や民の皆様にご迷惑を掛けたことを心からおわび申し上げる」と謝罪した。

メガネ

仕事が終わって家に帰ると、買った覚えのないメガネが届いていた。付属の説明書には「世界がとても美しく見えます」とだけ書かれており、面白半分で、そのメガネを掛けて街を歩いてみると、いつもは道端に大量に落ちているタバコの吸殻や、ゴミ箱からはみ出して尚、無理やり押し込まれた空き缶やペットボトル、路上での酔っ払い同士の喧嘩、何一つ見当たらなかった(自分には見えなかった)。それだけではなく、仕事へ行くと以前か

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死ねない男

おれは死なない。というより死ねない。
はじめて死のうと思ったのは21歳でその時の事ははっきり覚えている。あれは2018年の11月30日の20時頃だった。バイト帰りにふらふらと歩いていると高級ラブホテルからカップルが出てくるのを見て「あ、死のう」と思った。人生に良い事なんてなかったし、彼女なんてもってのほか友達と呼べる人さえろくに居なかった。おれはそのラブホテルの屋上に無理矢理よじのぼりそこから飛び

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電話

プルルルルルルルル

駅のホーム、歩く男、スマホの音、
見たことの無い番号、男は考える。
誰からか、誰か、
スマホに夢中になる男、人に、ぶつかる。
線路に突き落としてしまう。
運悪く通り過ぎる電車、死んでしまう人。
刑務所 長い長い反省。
長い長い反省、男は老人。
出所、発展しすぎている世の中。
空飛ぶ車、未来や過去に電話、科学の発展
男はスマホを買う。あの感触。あの感じ。老人。
人にぶつかる

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