見出し画像

デザインの敗北を笑うな。「セブンカフェのマシン」と「ふれあい灯」を今、学生と考える

こんにちは。ライターなのに、九州デザイナー学院の非常勤講師を務めております大塚たくまです。

「企画発想」という授業の枠を、2時限分(180分!)請け負っており、毎回毎回、授業内容を考えるのに苦しんでおります。

前回はゲストをお呼びしてお話をうかがいまして、とっても盛り上がりました。

常日頃から「授業ネタ」を探しまわっているんですが、今回はこの本と出会い、すぐに「これを学生と考えよう!」と思いました。

この中には分かりにくい道路標識や表現の事例などが紹介されており「分かりやすい表現って大事だよなあ」「第三者目線って大事だよなあ」と、改めて感じます。

そこで思い出したのが「デザインの敗北」という言葉。7年くらい前、セブンイレブンのコーヒーマシンに大量のテプラが貼られている画像がバズっていたのを思い出しました。

「デザインが敗北すると、テプラが貼られる」

そんな共通認識は、セブンカフェのこの一件から生まれたと思います。


もう一つ思い出したのは「バッドデザイン賞」と題されて、めちゃくちゃにバズり散らかしたWeb記事。

この記事の中で衝撃だったのが、イトーヨーカドーに存在するという「ふれあい灯」です。

これは今でもイトーヨーカドーのWebサイトで紹介されており、今でも設置されているものと思われます。(福岡でイトーヨーカドーないからわからない)

イトーヨーカドーの公式サイトより

からだの不自由な方や、お年寄り、外国人の方でお手伝いが必要な状況で使用するとのこと。ボタンを押すと「エリーゼのために」が大音量で流れ始め、ランプが点滅するそうです。

・何なのかわからない
・外国語表記がない
・点字あるけどどうやってこの点字に気づくんだ

などなど、ツッコミだしたらキリがなく、「なぜこんなものが生まれたんだ」と気になってしまいます。

バッドデザインを笑うのは簡単。その先を考える

「なんでこんなこともわかんないんだよ!」
「馬鹿じゃね??」

そう思うのは簡単です。実は思っているほど、世の中に馬鹿はいません。かなり多くの場合で「そうするしかなかった」というような状況が生まれているのです。

「馬鹿じゃね?」という出来事の裏には、たいてい何か事情があります。そう思ったほうが、気づけることは多いのです。対象者自身が馬鹿だからではなく、様々な外的な事情でその判断に至っています。そう考えたほうが、建設的。

ここからは想像ですが「セブンカフェのコーヒーマシン」と「イトーヨーカドーのふれあい灯」の生まれた背景には、以下のようなものがあったかもしれません。

セブンカフェのコーヒーマシン
・コンビニでコーヒーを売るという革新的な挑戦
・革新性を示すようなスタイリッシュなデザインにしたい
・コンビニでコーヒーを買うことがかっこいいと思えるようにしたい
・なるべくシンプルでボタンを少なく、使いやすくしたい

イトーヨーカドーのふれあい灯
・企業として店内で困っている人を助けたい
・何かモノで常に姿勢を示しておきたい
・モノがあることで言い出しやすくなるんじゃないか
・シンボルとなるようなモノがほしい

いや、実情はまったくわからないけど。でも、こういう話し合いが強めに行われていたら、まあまあ、現状のようなものが生まれるのは理解できるじゃないですか。

今日の授業は「じゃあ、どうすればよかったのか」という、その先を考えてみました。

セブンカフェのコーヒーマシンはどうすればよかったのか

まず第一の課題はセブンイレブンのコーヒーマシン。ぼくは、学生にこのようなお題を出しました。

セブンイレブンのコーヒーマシンは、どうすればよかったのか?
・なるべくボタンは少なく
・なるべく言葉を減らしたい
・現場でテプラを貼られたくない
店員さん、お客さんにとって良い方法を考えてみましょう。

そんなこと可能なのかよ。でも、考えることに意味があります。すると、現在19歳〜20歳の学生たち、いろいろ案を考えてくれました。

①ホットとアイス、RとLでコップの色を変えて、ボタンの色と揃える

これ、結構アリじゃないですか?つまり、既にコップに色がついていて、コップと同じ色のボタンを押せば間違わないんですよ。直感操作。

②注ぐ前に液晶で確認させる

コーヒーマシンにある小さな液晶で「ホット・レギュラーを注ぎます。街がないですか?」と表示させるとどうか、という意見です。

これはもともとのデザインのままで実施できるアイディア。デザイナーさんの事情も考慮した、折衷案でいいなと思いました。

ただ「押したのに出てこないじゃないか」というクレームの可能性も指摘されました。たしかに。いい感じに消費者目線になってきましたね……。


③コップにQRコードをつけて読み込ませる

コップを規定の価格で購入する方法を活用し、コップにQRをつけて、読み込ませることで規定の量が出るという仕組み。コップに仕掛け、というのもいいアイディアかも。

マシンがコップを認識し、それに基づいたものを出してくれたら、助かりますね。デザインもかなりシンプルに守られそうです。

ちなみに容器で自動判断する装置も存在するようです。


④量をマシンに制御させない

今回出たアイディアの中で、もっとも大胆な案でした。どうせコップはRとLで違うわけだから、RにLに値する量を入れることはできません。Lを買った人がRくらいしか入れなかったのは、もうその人の判断ということで。まあ、これもナシじゃないですよね。

ただ「挽きたて」「淹れたて」ではなく、ある程度、コーヒーのストックが必要になっちゃいますね。

⑤マシンの表記を変える

  • 「R」ではなく「M」にする

  • アイスが青、ホットが赤に光る

  • シンプルなイラストで示す

これもナイスアイディアです。実際に青赤に光る方法や、イラストはセブンイレブンでも使われているようでした。

学生たち、いいぞいいぞ。けっこういいアイディアが出せるじゃないか。このまま「ふれあい灯」にもチャレンジしましょう!!


イトーヨーカドーのふれあい灯はどうすればよかったのか

次の課題は、強敵「ふれあい灯」です。

イトーヨーカドーのふれあい灯は、どうすればよかったのか?
店員さん、困っている人、助ける人、みんなにとって良い方法を考えてみましょう。

①ふれあい灯のボタンを大きくして、遠くから見ても使い方が想像できるようにする

かなりボタンを大きくして目立つようにして「HELP」などの文言を大きく入れ、遠くから見ても使い方が想像できるようにするという意見がありました。

たしかに、そもそもふれあい灯を見つけることが難しそうです。常日頃から目立っていれば「あそこにふれあい灯があったぞ」と思い出してもらえるかもしれませんね。「消化器」や「非常ベル」のように、目立つとまだいいのかも……。

②スピーカーをなくして、店員さんに直接伝えるものに

ふれあい灯の仕様で、押すと大きな音で音楽が流れるという点が「恥ずかしくて押せない」という意見がありました。たしかに、そうかも……。

大きな音ではなく、直接店員さんに伝えられたらいいのではないかという、ぐうの音も出ない正論。本当、そうですよね……。

もしくはボタンを押すと「ふれあい灯でお客様がお待ちです」というような館内放送がなればいいんじゃないかと。それもいいですね。


③普段から自身の存在をアピールさせる

ふれあい灯が「スン……」と佇んでてわかりにくいという声がありました。

スピーカーがあるのなら、普段から「こちらのふれあい灯は、からだの不自由な方や高齢者、外国人の方のために……」みたいなアナウンスを流しておけばいいじゃないかという意見がありました。確かに。

館内放送で「ふれあい灯を、ご存知ですか?」とやわらかく、いつも流してたらいいじゃないか、という声もありました。(もしかしたら、実際には行われているかもしれませんね。)


⑤車椅子を貸し出す時、小さなボタンを渡す

車椅子を貸し出すという出来事がお店で発生するので、その時に「ふれあいボタン」を渡したらどうか、という声がありました。確かに、それがあれば、いつでもどこでもボタンを押せます。

困った時に「ふれあい灯」まで行くのが、何よりも難しいでしょうからね……。なにせ、困ってるんだから……。

考えると、答えが出てくるので考えよう

たった180分の授業で面白いアイディアを出すのは難しいと思いましたが、ちゃんと考えたら、ちゃんとアイディアは出るなあと思いました。

「学生の頭がやわらかいなぁ」とは感じましたが、それでも、やっぱりぼくらは考えてなさすぎるなぁ、とも。ぼくらだって、考えたフリだけじゃなくて、本気で考えたら、あれこれ浮かぶんじゃないかなと思いました。

「考えよう。答えはある。」

ヘーベルハウスのCMで見たこの言葉、けっこう好きで、口癖になっています。ようし、ぼくも考えよう。答えはある。たぶん。

サポートをいただけた場合は、今後の取材活動のために使用させていただきます。