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【映画評】こんなん観ましたけど

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欠如を反転させたとき、人は輝く。ナイーブな野生児、「七人の侍」菊千代のアンビバレンツ。

欠如を反転させたとき、人は輝く。ナイーブな野生児、「七人の侍」菊千代のアンビバレンツ。

これってオレそのまんまじゃねえの。

 野武士の襲撃から村を守ろうとする侍たちと百姓を描いた映画「七人の侍」(1954)。
侍や百姓たちを演じる役者の中でひとり、舞台経験のない、芝居の素人がいます。しかも、主役。
 当時って、映画俳優は皆、芝居小屋の役者経験があった。好きで役者になった猛者ばかり。
 そんな中で、はなから映画俳優として役者人生を始めたひとり。

 それが、「菊千代」こと、

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山田太一「シルバーシート」  世のスネ夫・スネ子へ。老兵たちの果てのないスネっぷりを見よ。

山田太一「シルバーシート」 世のスネ夫・スネ子へ。老兵たちの果てのないスネっぷりを見よ。

◆土曜ドラマ 山田太一シリーズ・男たちの旅路 第3部「シルバーシート」(1977年 芸術祭TVドラマ部門大賞)

 養老院で暮らす老人4人が、車庫に停まっている無人の路面電車を占拠します。
 何を要求するでもなくただ閉じこもるだけ。
 説得を続ける警備主任の鶴田浩二。やがて彼らは少しずつ本音をもらし始める。

 さすがの鶴田もさじを投げかける…。

 笠智衆、藤原釜足、加藤嘉、殿山泰司という名だた

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「Shall we ダンス?」 名もなきダッセーたちがカッケーたちになるとき。

「Shall we ダンス?」 名もなきダッセーたちがカッケーたちになるとき。

「Shall we ダンス?」周防正行監督

(1995年) 役所広司、草刈民代、原日出子、竹中直人、渡辺えり子

 周防正行監督が一貫してこだわるものが「ダサい」もの。
 そこで当時彼が嗅ぎつけたのが「社交ダンス」。
 でも、ただ逆張りしてダサいものをとりあげたんじゃないんです。

 もちろん誰もテーマにしたことがないものなのだけれど、周防監督にとっては、映画監督としてのノーマルな嗅覚が大いに刺

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三島由紀夫のコンプレックスを刺激した映画。死に場所を探す負け組の男たちの最後に見た夢。

三島由紀夫のコンプレックスを刺激した映画。死に場所を探す負け組の男たちの最後に見た夢。

「七人の侍」(昭和29年)黒澤明監督作品

 黒澤明監督の映画を見渡すと、とにかく「男たち」の魅力が満載。女性がメインの映画は皆無。対照的に、女を描いたら一番といえば、溝口健二監督でしょう。

 では黒澤はなぜ「男たち」が得意なのか?

 武士社会と「御家」はきってもきれないもの。御家に奉仕できてやっと侍の矜持がたちます。

 これは現代産業社会でも同じ。組織のパーツとしての生産性が問われるのです

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映画「ブレードランナー」 死にたくないから神を殺した人間存在の物語。

映画「ブレードランナー」 死にたくないから神を殺した人間存在の物語。

 SF映画の不滅の金字塔。
 「金字塔」とは一義では「ピラミッド」とのこと。金の字のように先が尖った建築物を指して金の字の塔。それにならい、転じて二義で「不滅の業績」ときます。
 ピラミッドは、死にたくないと願った王の墓です。
 この映画に登場するレプリカントも、四年間しかない寿命を知り、製造した科学者に近づき延命を訴える。だが、願いはかなわず、彼を殺してしまいます。
 「自らに似せて我らを作りた

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映画「パピヨン」 (1973) 人生を無為に過ごした罪・・・。自由を求めて生きる。そのとき、すでに自由は手中にある。

映画「パピヨン」 (1973) 人生を無為に過ごした罪・・・。自由を求めて生きる。そのとき、すでに自由は手中にある。

 スティーブ・マックィーンとダスティン・ホフマンの主演映画「パピヨン」(1973年)。監督は「猿の惑星」のフランクリン・J・シャフナー。

 あまたある脱獄映画の一つですが、脱獄方法の奇抜さやスリルだけの映画ではありません。

 映画の後半、パピヨン(マックィーン)は夢を見ます。
 無実を訴えるパピヨンは「人生を無為に過ごした罪により、有罪…」といわれ、妙に納得する。
 なんのこっちゃ、と思えるこ

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