【伊勢遷宮編】エピソード26　国寿ぎの宴

第十一代天皇、垂仁天皇すいにんてんのうの御世みよ。

紀元前4年、皇紀こうき657年（垂仁天皇26）。

天照大神あまてらすおおみかみ（以下、アマ）の御杖代みつえしろ、倭姫やまとひめ（以下、ワッコ）一行と、忌部和謌富奴いんべ・の・わかとみぬ（以下、わかとん）たちは、伊勢神宮いせじんぐうの建造けんぞうを開始した。

物部八十友諸もののべの・やそとものおと呼ばれる職人たちが作業をする中、遷座せんざに向けて、着々と準備が進められていたのである。

そんなある日の夜のこと、ワッコが眠っていると、夢の中に「アマ」様が現れた。　

アマ「ワッコよ・・・。ワッコよ・・・。」　

ワッコ「えっ？　アマ様？　如何いかがなされました？」　

アマ「わらわは、高天原たかまのはらにいらっしゃり、かつて、高天原たかまのはらの門を押し開かれ、眺ながめ見みられて、見み定さだめた国の宮処みやどころは、まさに、この地でありました。わらわは、この地に、お鎮しずまりになり、お定さだまりになろうと思う。」　

ワッコ「ん？　アマ様？　言ことの葉はが、少しおかしくは、ありませぬか？」　

アマ「し・・・仕方なかろう。『倭姫命世記やまとひめのみこと・せいき』の原文げんぶんが、自身で敬語を用いる、自敬じけい表現ひょうげんになっておるのじゃ。」　

ワッコ「そのような表現方法が有るのですね。」　

アマ「とにかく、そういうことじゃ。」　

ワッコ「されど、なにゆえ、夢の中に？」　

アマ「そう書かれておるのじゃ。仕方あるまい。」　

ワッコ「か・・・かしこまりました・・・(;^_^A」　

翌日の朝、ワッコは、夢の内容を大夫たいふや「ワクワク」たちに語った。　

一同「おお！」×大勢　

ちね「なんや、よう分からへんけど、良かったなぁ。」　

インカ「左様さようですな。」　

カーケ「しかし、さんざん出演しておいて、この時だけ、夢で伝えるところが、ニクいんだぜ。」　

オーカ「これまでの出演は、オリジナル設定にあらしゃいますよ？」　

乙若おとわか「オイジナウ？」　

くにお「されど、『倭姫命世記やまとひめのみこと・せいき』では、拙者せっしゃたち、五人の大夫たいふと『ワクワクさん』にだけ語ったような記述になっておるのう。」　

おしん「えっ？　ホントだべか？」　

武日たけひ「安心するっちゃが。この物語では、職人たちも含めた、皆みなが聞いちょるんやじ。」　

八十友諸やそとものお（い）「いやぁ。場所が間違まちがってる・・・なんて、言われたら、恐おそろしいことになってましたで。」　

八十友諸やそとものお（ろ）「恐ろし過ぎるやろ！」　

八十友諸やそとものお（は）「ホンマ、そうならんで、良かったなぁ。」　

ワクワク「よぉぉし・・・。それじゃあ、ここで、国寿くにほぎしちゃうよ。」　

ねな「国寿くにほぎとは、国を褒ほめ讃たたえる言ことの葉はよ。」　

ワクワク「神風かむかぜの伊勢いせの国くに、百船ももふね、度会わたらいの県さと、佐古久志呂さこくしろ、宇治うじの五十鈴川いすずがわの川上かわかみに鎮しずまり定さだまる『アマ』様。」　

ワッコ「よし！　では、今日は目出度めでたいゆえ、宴楽とよのあかりを致いたそうぞ！」　

市主いちぬし「分かりやすく言えば、飲み会で、お休みですな？」　

ワッコ「うむ。今日は、作業無し！　宴うたげじゃ！」　

わかとん「おお！　かたじけなし！」　

アララ「やったぁぁ！」　

カット「えっ？　アララ？　初めて、異ことなる台詞せりふを言ったのではないか？」　

アララ「ようやく解禁かいきんされました。おいら、すっごく感動してます！」　

カーケ「き・・・禁きんじられていたのかね？」　

こうして、宴うたげが催もよおされた。

夜通よどおしおこなわれたと「倭姫命世記やまとひめのみこと・せいき」は語る。

ねな「舞まっちゃいまぁぁす！」　

おしん「おらは、唄うたうべぇ！」　

乙若おとわか「ささっ、一献いっこん。」　

八十友諸やそとものお（に）「これは、これは、かたじけない。」　

ワッコ「では、私も国寿くにほぎ致いたそう。」　

インカ「おっ！　ワッコ様が、国寿くにほぎ？」　

ワッコ「朝日向かう国、夕日向かう国、波なみの音ねが聞こえぬ国、風かぜの音ねが聞こえぬ国、弓矢ゆみやや武具ぶぐの音が聞こえぬ国、稲穂いなほの浪なみが幾重いくえにも打うち寄よせる、素晴すばらしき国、神風かむかぜの伊勢いせの国くにの度会わたらいの県さとの佐古久志呂さこくしろ、五十鈴いすずの宮みやに鎮しずまり、お定さだまりくださいませ。」　

一同「おお！」×大勢　

こうして、宴は、朝まで続いたのであった。　

つづく