【伊勢遷宮編】エピソード15　鷲取りの翁

第十一代天皇、垂仁天皇すいにんてんのうの御世みよ。

紀元前4年、皇紀こうき657年（垂仁天皇26）。

天照大神あまてらすおおみかみ（以下、アマ）の鎮座地ちんざちを求め、倭姫やまとひめ（以下、ワッコ）の一行は、旅を進めていた。　

カット「ついに宮川みやがわを出て、海に入りましたぞ。」　

おしん「伊勢湾いせわんだべ。」　

ワッコ「そんなことより、私は、喉のどが渇かわいた・・・。」　

市主いちぬし「水にござりまするな。では・・・。あっ！」　

カーケ「どうしたのかね？」　

市主いちぬし「水が・・・有りませぬ。」　

ワッコ「えっ？」　

くにお「飲み水を切らしてしもうたのか？」　

市主いちぬし「どうも、そのようで・・・。」　

ワッコ「ど・・・どうしたものか・・・。」　

インカ「あっ！　あちらの小浜おはまに、翁おきなが！」　

ねな「鷲わし取とりの翁おきなみたいね。」　

乙若おとわか「あの翁おきなに、尋たずねてみましょうぞ。」　

ワッコ「うむ。そう致いたそう。」　

乙若おとわか「もし、そこの翁おきな？」　

翁おきな「何なんや？」　

乙若おとわか「どこぞに、水が飲める処ところは有りませぬか？」　

翁おきな「しゃぁないなぁ。ちょっと待まってなさい。」　

すると翁おきなは、冷たい水を汲くんで戻ってきた。

それだけでなく、食事まで用意してある。　

ワッコ「えっ？　水が飲める処ところを聞いただけなのじゃぞ？」　

翁おきな「せやけど、皆様みなさまは『ワッコ』様の一行ですやろ？」　

ねな「バレちゃってるのね。」　

カーケ「されど、何故なにゆえ、ここまでしてくれるのかね？」　

翁おきな「二千年後の人が、嬉うれしそうに言うてますやろ？　お・も・て・な・し。」　

オーカ「手を横に動かしながら言うんが、コツにあらしゃいますか？」　

翁おきな「せやで。お・も・て・な・し。」　

ワッコ「なんとありがたいことじゃ。これよりのちは、この浜を『鷲わし取とり小浜おはま』と名付なづけようぞ。」　

おしん「二千年後の『鷲ヶ浜わしがはま』のことだべ。伊勢市いせし大湊町おおみなとちょうに有るんだ。」　

ワッコ「更さらには、社やしろも建たてようぞ。」　

カット「これが、水饗みあえの神かみの社やしろにござりまする。」　

ねな「候補地は、二つ有るみたいね。」　

市主いちぬし「左様さよう。一つ目が、水饗みあえ神社じんじゃにござる。」　

くにお「されど、二千年後の地図に、そのような社やしろは見当たらぬが・・・。」　

インカ「西暦1907年、皇紀2567年（明治40）に、同じ大湊町おおみなとちょうの日保見山ひほみやま八幡宮はちまんぐうに合祀ごうしされたとの由よし。」　

くにお「では、元々の鎮座地ちんざちは、分わからぬということか？」　

インカ「御安心ごあんしんくだされ。忘わすれ井いの有る地が、元々の鎮座地にござりまする。」　

ワッコ「読者の御世みよには、児童じどう公園こうえんになっておるのじゃな。」　

市主いちぬし「ちなみに、祭神さいじんは、水戸御饗都神みなとのみけつかみにござりまする。」　

ワッコ「二つ目は？」　

乙若おとわか「二つ目は、御食みけ神社じんじゃにござりまする。こちらの祭神も、水戸御饗都神みなとのみけつかみにござりまする。」　

ねな「ちょっと待まちなさいよ！」　

ワッコ「い・・・如何いかがしたのじゃ？」　

ねな「鎮座地が、三重県みえけん伊勢市いせし神社港かみやしろこうになってるのよ。」　

オーカ「何なにか問題でも有りますのか？」　

ねな「鷲ヶ浜わしがはまは、伊勢市いせし大湊町おおみなとちょうでしょ？　だったら、社やしろの鎮座地も大湊町おおみなとちょうになると思うんだけど・・・。」　

オーカ「何なにを言うてますのや。汝なびとが、いつも言うてますやろ？　これが、ロマンというモノではあらしゃいませんか？」　

ねな「あっ！」　

アララ「あらら・・・。そういうことになっちゃった。」　

ワクワク「ちなみに、御食みけ神社じんじゃには『辰たつの井い』という井戸いどが有るそうだよ。さぁ、翁おきな？　どっちの井戸で水を汲くんだのかな？」　

翁おきな「うう・・・。わてが、祀まつられてるわけやないんや・・・( ﾉД`)ｼｸｼｸ…。」　

ワクワク「えっ？　ちょっと？」　

おしん「ち・・・ちなみに『辰たつの井い』では、新年最初の辰たつの日ひに『お水取り』がおこなわれるそうだべ。」　

カット「そ・・・その初水はつみずは、一年間の水難すいなんや火除ひよけになるそうで、地元じもとの人々は、家の周りにかけたり、台所だいどころに、お供そなえするそうですぞ。」　

ワッコ「翁おきな・・・。許ゆるせ・・・。」　

旅は、まだまだ続くのであった。