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【超短編】月の光 街の灯り

静かな風がそよぐ夜。
私は一人、窓から外を眺めている。
今夜は月の光が寝静まった世界を明るく照らしている。

大きな森、その先に見える湖、大きな街。
森には美しい花や気高い動物たちが棲み、透き通った水を抱える美しい湖には可愛らしい魚たちが遊ぶ。街は活気に満ち溢れ、楽しげな音楽や人々の声が響く。
どれにも行ったことがあるが、どれも今日のような夜にここから見るのが一番美しい。

昼間、赴く方がよく見えるのは知っている。
でも私は、明るい日差しの中でそれらを見るのが嫌いだ。
明るすぎると、見えすぎてしまう。
見たくないところまで見えてしまう。

すべてのものには光と影がある。
花には毒があり、動物は自分より弱いものを襲う。湖にも死んだ魚が腹を上にして漂う。街もすべての者が善良なんてありえない。妬みや嫉みに心を蝕まれた者もいる。
だからここから、美しいものだけを見ていたい。

柔らかな風が森の木々の枝を揺らし、心安らぐ音色を奏でる。
湖は陽の光を浴びて水面を輝かせ、神々しい雰囲気を漂わせる。
にぎやかな街には笑顔に溢れ、人々が幸せな毎日を送っている。

薄明かりで見えるくらいがちょうどいい。
見えないところを自分で補うくらいがちょうどいい。
静かな夜に、月のおかげで見える私だけの世界一美しい景色。
そんな儚い夢想を、酒を片手に味わうのだ。



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