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プルースト『失われた時を求めて』を詳しく読む

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世界文学の最高峰とも呼ばれる、 20世紀フランスの大長編小説 マルセル・プルースト『失われた時を求めて』の詳細解説です。
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マルセル・プルースト『失われた時を求めて』第1部 コンブレ- を読む part6

マルセル・プルースト『失われた時を求めて』第1部 コンブレ- を読む part6


0.前回までのあらすじ前回の記事はこちらから

夢うつつを行き来する「私」は一度眠りに入るが、幼少期に経験した恐怖を夢の中で再び思い出す。
前回同様、今回も比喩を用いて、「私」は記憶や時間について語っていく。

1.本文読解(1)「私」は女好き?

ここでは「私」がおそらく過去にある女と経験したであろう快楽について語られている。女の名や特徴は一切言及されておらず、その人物像は不明だ。後に明らかに

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【大長編読解】マルセル・プルースト『失われた時を求めて』第1部 コンブレ- を読む part5

【大長編読解】マルセル・プルースト『失われた時を求めて』第1部 コンブレ- を読む part5


0.前回までのあらすじ前回の記事はこちらから

眠れない不安を見知らぬホテルに泊まった旅人の心情にたとえながら、夢うつつを行き来する私はついに周囲に融け込んで眠りに入った。

1.本文読解(1)「夢」とは何か

注意して読まないと混乱しそうな文章である(毎回そうだが)。
ここでは「私」にとっての過去の辛い記憶が蘇ったことが書かれている。
※この巻き毛の話は光文社古典新訳文庫版では確か注があったは

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【大長編読解】マルセル・プルースト『失われた時を求めて』第1部 コンブレーを読む part4

【大長編読解】マルセル・プルースト『失われた時を求めて』第1部 コンブレーを読む part4

※前回の投稿から間が空いてしまいましたが、ぼちぼち再開していきます。

1.前回までのあらすじ
夢と現実の間を朧気な意識で行き来する「私」。
先程まで読んでいた本の内容を思い出し、
寂しい野原を独り歩く旅人の情景が描き出される。
時計を見ると、夜の十二時になっていた。

2.本文読解この文章は、素直に「私」の現状を比喩で表したものと考えてよいだろう。
ここでは再び旅人を例にして、不安が希望に、希望

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【大長編読解】プルースト『失われた時を求めて』第1部 コンブレーを読む part3

【大長編読解】プルースト『失われた時を求めて』第1部 コンブレーを読む part3

前回に続き、『失われた時を求めて』の読解をしていきます。

前回の記事はこちら

今日の一文前回の記事では、目覚めた際に認識される闇が、精神にとっては快く穏やかな闇である、ということが語られていた。今回はその続きなのだが、早速話が脱線している。いきなり孤独な旅人の話が始まり、読者は
「なんじゃこりゃ」
と言わずにはいられないだろう。
これは作者の「夢」なのか、目覚めている状態で単に空想しているだけ

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【大長編読解】プルースト『失われた時を求めて』第1部 コンブレーを読解する part2

【大長編読解】プルースト『失われた時を求めて』第1部 コンブレーを読解する part2

さて、今回もプルースト『失われた時を求めて』を読み解いていく。退屈かもしれないが、この記事を書くことで、私はこの作品を深く理解できるだろうし、読者の皆さんにもこの作品の良さを伝えることができると思っている。じっくり読んでいこう。

1.脱線と豊富な比喩表現~混乱の原因~前回は、夢現(ゆめうつつ)を彷徨う作者の混乱に関する描写を見てきた。
今回のテーマは「脱線」と「比喩」だ。
プルーストの文章は比喩

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【大長編読解】プルースト『失われた時を求めて』第1部 コンブレーを読む part1

【大長編読解】プルースト『失われた時を求めて』第1部 コンブレーを読む part1


1.要約が(本質的に)存在しない小説さて、前回はこの本の読み方とあらすじを簡単に紹介した。今回からこの本を詳しく読んでいく。簡単なストーリー紹介と感想だけでもよいのだが、それだけではプルーストの魅力は伝えきれない。
そもそもプルーストの小説は要約が不可能だ。読みやすくするための手段として要約するのは問題ない。だが、プルーストは流れゆく時間と意識を描く作家だ。要約で内容をざっくり把握する意義は薄い

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