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一人応援団の想い出

「りこちゃーん、もうすぐ お昼ごはんだよー。」
こざるちゃんが、りこちゃんの部屋にやって来ます。
りこちゃんは、テレビで高校野球を見ながら うとうとしていましたが、
こざるちゃんの声で、ぱっちりと目を開けて にっこりしました。

「あら、こざるちゃん。」
「りこちゃん、もう少ししたら、お昼ごはんが出来るよ。」
「そうね、お昼ごはんね。」

 テレビからは、ワーワーと歓声が聞こえてきます。
ホームランを打ったようです。
打った選手が、嬉しそうにベースを駆け抜けます。

「わぁ、今のホームランで、逆転したねー。」
「そうねー。」

 りこちゃんも、こざる達も、高校野球が大好きです。
大人の野球と比べると、まだまだ子供のような高校野球ですが、
みんな 真っすぐで、とにかく一所懸命です。

「みんなの表情がいいんだよね。」
「うん、そうねー。」

エラーなど、ミスをした仲間に声をかけたり、
好プレーをした選手を讃えたり、
みんなの 精一杯さが、とても清々しく感じられます。

「りこちゃん、昔、高校野球の地方の予選、観に行ったね。」
「そうね、行ったわね。」

 それは、りこちゃんの友人のお宅に みんなで遊びに行った時に、
たまたま夏の大会の予選を すぐ近くの球場でやるからと、
観に行ったのです。

 試合は、そこそこ強いチームと、離島の高校のチームの対戦でした。
力の差は歴然としていて、9回までやることなく、
そこそこ強いチームが、コールド勝ちして終わりました。

 けれども 離島のチームは、うなだれたりすることなく、
精一杯、頑張って、野球をしていました。

そして、離島のチームの応援は、チアリーダーや吹奏楽部はなく、
たった一人、おそらく野球部の一年生が、
客席から 大きな声で 応援していました。
「フレー、フレー」と一人で、応援団をやったかと思うと、
「チャンチャンチャチャチャーチャン♪」と一人で、吹奏楽部をやります。
レパートリーが多くて、なかなかの芸達者でした。

その試合を観に来ていた人たち全員が、にこにこと見守っていました。

そして試合が終わると、その彼は周囲の人たちに きちんと頭を下げて、
「応援、どうもありがとうございました!」と言いました。
みんなは、ずっと拍手をしていました。
「よかったよー。」
「また次、頑張れよー。」
そういう声も聞こえました。

みんなが、温かい気持ちになりました。

「とってもいい試合だったね。」
りこちゃんは、誘ってくれた友人、こざる達に言いました。
みんな、いい試合だったと思いました。

「りこちゃん、お昼ごはん 出来たか見に行って、
それでまた呼びに来るね。」
「うん、お願いね。」

こざるちゃんは、台所に向かいます。
お昼ごはんは、出来ています。

「じゃあ りこちゃん、呼んで来るねー。」

こざるちゃんは、りこちゃんの部屋に再び向かいます。


今日も こざるカフェでは、ゆっくりゆっくり
のんびり 穏やかに時間が流れていきます。

読んで下さって、どうもありがとうございます。
あの時の一人応援団の彼は、今、どうしているのでしょうか。
よい毎日でありますように (^_^)

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