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#360 「ホンダとアップルの賭け」を読んで。

昨日7月8日の日経新聞朝刊7面「ホンダとアップルの賭け」という記事を読んで思ったことを、メモ。


1、どんな記事?

日経新聞本社コメンテーター中山淳史さんが書いたコラムで、ホンダが2040年のガソリン車全廃を宣言したことと、アップルが「公平・公正」、「脱酸素」、「循環型経済」を打ち出していることは「ストーリー」を顧客に提示し寄り添うという点で共通している、という内容です。

印象に残った部分をいくつか引用します。

(本田宗一郎さんは)寝ても覚めても技術のことばかり考えていた印象があるが、そうでもなかったらしい。自著「俺の考え」などによれば、本田氏は「社の連中に話をするのはみな、技術の基礎になっている思想についてである。すぐに陳腐化してしまう技術はあくまで末端のことであり、思想こそ技術を生む母体だ」と考えていた。
経済や社会、組織を変えようとする心理メカニズムを解き明かそうと試みた本に米経済学者、ジョージ・A・アカロフ氏らの「アニマルスピット」がある。それによれば、「血気」と訳されるアニマルスピリットが顕在化する要素とは、「安心とその乗数」「公平さ」「腐敗と背信」「貨幣錯覚」「物語」の5つ。著者はそのうちの物語に注目し、「人々が血気を強くするか否かを左右する動機の枠組みだ」と説く。
興味深いのは、物語を埋めるか否かは「指導者の力量にかかる」とする点だ。指導者の生み出す物語次第では時代の空気がどうであろうと、現状とは違う世界を呼び込むことも可能になる。


コラムでは、「消費者の血気」を上手に引き出してきた企業としてアップルを挙げ、以下のようにその特徴を述べています。

こちら(アップル)は米心理学者、故アブラハム・マズロー氏が唱えた人間の「欲求の5段階説」によっても理解が可能だ。5段階とは「生理的欲求」「安全欲求」「社会的欲求」「承認欲求」「自己実現欲求」。それらを順に踏んで消費者は変化する、との分析である。
このうち、4段階目までは「自分にないもの」への欲求だが、アップルが現在、重視するのは「『こうあるべき』という自己実現の欲求だ」と、同社に詳しい立教大学ビジネススクールの田中道昭教授は指摘する。


そして最後にこう結んでいます。

常識が変わろうとする今だからこそ、起こせる変化や醍醐味は大きい。好機もきっと眠っている。「ポストコロナ」の思想や物語を語り、競う時である。


2、まとめ(所感)

いかがでしたでしょうか?

本田宗一郎さんは技術よりもその基盤となる思想を重視し、周囲に説いて回った。
ティム・クックさんも人種差別に反対し、CO2をゼロを目指すこと、廃棄される製品を完全に再利用すること、などを打ち出している。

こうしたリーダーのストーリー(物語)を語る動きは、「血気」(アニマルスピリット)を引き出すことにつながり、ついには現状と違う世界を呼び込むことも可能にする、という内容でした。


現代の経営において、パーパス(存在意義)やミッション(使命)は最重要とされています。

多くの企業で、パーパスやミッション(あるいは両方)を定める動きが見られます。古くは社是、なんかも当てはまるかもしれません。

このコラムを読んで、改めて思ったことですが、パーパスやミッション、社是、作って終わり、ではなく、作った後が重要だ、ということです。

作った後、経営陣がそれに触れることもなく、従業員から見て、「それってパーパスに反してないか?」と感じるような言動や経営方針が出されれば、「あぁ、あれは別に気にしなくていいんだな」となり、そのうち壁のシミとなってしまうのです。

逆に、パーパスだ、ミッションだ、などと騒がなくとも、経営者が常に周囲に同じ「思想」を繰り返し繰り返し伝えていくことで、その「思想」は企業全体に浸透していくものなのです。


コラムの中で、今年のホンダの株主総会で、「創業者は脱ガソリンを悲しむのではないか」との質問が出た際、三部社長が丁寧に回答したことが紹介されています。筆者は、「遠慮せず、株主らと「思想」を侃侃諤諤と戦わせればよかった。少なくとも筆者はそう感じた」と述べています。

つまり、質問に対して丁寧に回答するだけでなく、脱ガソリンと思い切った決断を下した「思想」を、質問した株主だけでなく、他の株主、世の中、そして何より従業員に問いかける好機だったのではないか、という趣旨でしょう。

「思想」への理解を深めてもらうためには、時にあえて議論を呼ぶようなことを試みることも必要なのでしょう。


これは、普段の我々のコミュニケーションでも言えることではないでしょか。

「技術」ではなくその基盤となる「思想」を語る。

「結論」だけではなく、その背景となる「思想」を語る。

時間も手間もかかるかもしれませんが、そういったコミュニケーションの繰り返しがその組織の文化となっていくのでしょう。



最後までお読みいただきありがとうございました。

記事のご紹介でしたがどこかお役に立つところがあれば嬉しいです。


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