見出し画像

パンと本を手に踊る木曜組曲

7月18日、木曜日、しっとりとした曇りの日。
大気の湿度としっとり度は比例しない。
風はしっとりをさらいはしない。
しっとりするのはパンだけはない。

初めてパン屋に行ってきた。ベーカリーには幾度とあるが、「生」食パン専門店に行くのは初めてだった。

あいにくの天気で写真は映えない。
店内には小さなカウンターと、その日焼き上げられたパンを積んだ棚があるだけ。
それ以外のスペースは全て工場だ。
今日は午前10時頃に整理券を受け取り、11時半に再訪問。既に20人くらい列をなしていた。

Yahoo!検索大賞2018〔食品部門賞〕で2年連続日本一、、、だそうだ。
正直、そんな肩書きに興味はなかった。
この店のことは人伝に聞いた。
ある日、知人にこの店を教えてもらい、同時に「生」食パンを半斤譲ってもらった。
口に入れたら、その空間にヘヴンが広がったんだ。
ヘヴンに湧き出した泉の蜜は、じわじわとカラダ中に浸透していき、気付けば時既に遅し。
完全に脳は蜜に侵されていた。
こんな美味しい食パンがこの世に存在していたのか!?
「うまっ!……んーまっ!!」
半斤がなくなるまで時間はかからなかった。
受賞という肩書きは、この初めて食べた時の高揚感・幸福感・感動にさりげなく茶々を入れるように感じられた。
もちろん検索サイトのおかげで多くの人が恩恵にあずかっているわけで、それを否定はしないけどね。
無粋だと非難するほどではないけれど、少しばかり違和感を覚えただけ。

これがブツだ。
明日の朝から3-4日かけて僕の腹に入る。

行列は苦手だった。ディズニーランドもタピオカも以ての外だ。何かと欲望レベルを下げてでも、並びたくないと思っている。
しかし最近はちょっとくらい並ぶくらいは悪くないかも、なんて思えるようになってきた。
気持ちに余裕が出てきたのだろうか?

昔から、一人カフェで待ち人を想う時間は全く問題にならないのに、たとえ恋人と一緒でも行列に並ぶ時間は苦痛だったりした。
おそらく僕はただのワガママで、目の前にある自分の身や心が自由であることが最優先なのだろう。
そんな僕を並ばせたのは、日頃とは違う小さな気持ちだ。

あまり書くことのない家族のこと。
パンを譲ってくれて店を教えてくれた知人というのは、妻の同僚だった。
一緒にパンを食べた時の妻の顔は、梅雨の曇り空から久々に顔を出した太陽のようだった。
共働きの妻は、最近すごく頑張っている。
パンに並ぶのは年貢でもご褒美でもなくて、日頃の感謝の気持ちだった。
こんな些細なことしかできないのは恥ずかしくもあるし、「正直書くほどのことでもない」
……のだけれど、明日からの朝の食卓が、共に楽しくなればいいなと思う。

パンを待つ間に書店に寄った。積ん読消化や創作活動のため、最近は足が遠のいていた。
ちょうど芥川賞・直木賞も決まったし、受賞作を見てみるかと思い、新作の棚へ。
受賞作は両方とも売り切れていた。
みなすごい瞬発力だ。お目当ての本は手に入れられなかった。
しかしハードカバーの棚の前にいれば、5分と立たずに、出てくる出てくる読みたい本。

(これ以外にコミックも4冊買いましたw)

綿矢りささんの新作は女性同士の恋愛小説。
右の本はおそらく男性同士の恋愛を描いたものであろう。これらは百合・BL本コーナーではなく、文芸コーナーにあった。
百合かどうか、BLかどうか、は何で決まる?
出版社か? 作者か?
はたして百合やBLは「ジャンル」でいいのか?
……色々考えた上での僕の希望。
読者ファンのために百合・BLのジャンル・コーナーは残りつつ、文芸コーナーに「もっと」こういった小説が何気なく置かれていってほしいと思う。
もっと、もっとだ。
その方がきっと自然なのだから。
僕は人にタグを貼るような言葉が好きでない。
そこにはLGBTも含まれる。
もちろんコミュニケーションのためにそれらの言葉を使用することもあるけれど。
簡単に分断して区別する類の言葉は、物語には本来必要のないものだ*。
みんなただ「好きだ」と書けばいいし、
「好きだ」と言えばいい。
もちろん、人生や日常だって物語だ。

(*社会的には必要です)

月に一度の木曜日は、100%自分のために使える日。前回は6月20日だった。この日は曇のち晴れ。

やりたいこと、やらなきゃならないことは溢れている。
しかし今日は月一回の特別な木曜日なのだから、全てを放り出して気ままに生きるよ。モー娘。が歌うような「日々のあれこれ 思い切って後回して」が、僕にとっての木曜日なのだ。
恩田陸さんの『木曜組曲』の中からも、大好きな一節を引いておく。

木曜日が好き。大人の時間が流れているから。丁寧に作った焼き菓子の香りがするから。暖かい色のストールを掛けて、お気に入りの本を読みながら黙って椅子にもたれるような安堵を覚えるから。木曜日が好き。週末の楽しみの予感を心の奥に秘めているから。それまでに起きたことも、これから起きることも、全て知っているような気がするから好きーー

こんな木曜日の幸せをこれからも続けていきたいな。


ご支援頂いたお気持ちの分、作品に昇華したいと思います!