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展覧会レビュー:和食展(国立科学博物館) その②

──酎 愛零が展覧会「和食」を鑑賞してレビューする話──


 ごきげんいかがでしょうか、お嬢様修行中のわたくしです。


 東京都は台東区、上野恩賜公園内にある国立科学博物館の展覧会「和食」のレビュー続きとなります。前回は日本列島の水事情、多様な植生、お米と大豆についてまでレビューいたしました。どれも内容が濃く、脳みそに詰めこむのにそれこそごちそうをお重に整然と詰めていくような、そんな感じの展覧会です。雑多にぽんぽん放り込んでいくとすぐに頭がパンクしそう。

 では、まいりましょう!今回は水産資源からです!


日本列島をとりまく海は、水平分布、垂直分布に大別されますわ。面白いことに水平分布は緯度で決定されないこと。太平洋側は千葉県と茨城県の間、日本海側は佐賀県と福岡県の間に境がございます

 植生と同じく、南北に長い日本列島は海の様相も海域ごとに特色がございます。北は流氷におおわれるオホーツク沿岸域から南はマングローブ林や珊瑚礁の広がる沖縄の海まで、その多様な水の環境には魚類が約4,700種、介(水産無脊椎動物)類が約8,500種も存在するとのこと。
 和食と言えば魚介類、みたいなところがあるのは、ひとえに南北に長い島国をとりまく海の環境の多様さにあるのですね。島国であっても、海の環境が単一相に近ければ、全国どこへ行っても同じような料理がでてくるでしょうから。


殺意の高そうなサメの標本ですわ……
あれ、この魚って?

 ベラって言いませんでしたっけ?あれ?わたくしだけ?母方の祖父がそう言っていたような気が……


カツオ、カワハギ、トラフグ。

 トラフグ……?えっちょっとお待ちなさい、カツオより大きいんですけど?トラフグってこんなに大きくなりますの?こわ……


お寿司屋さんで見るのとは少し違いますわね。なんか、生々しい内臓感が……
マンボウって食べれますの?

 なんとなくプニョとしたイメージのあるマンボウ。もちろん食したことはございませんわ。肉質は水分を多く含み、傷みやすく流通には向かないとか。食べてみたいと思ったら、水揚げされる漁港に行くしかなさそうですわね。


鳥ササミやイカ、ホタテのような食感。うーん、わかるような、わからないような?

 マンボウの可食部は肉、肝、腸など。腸が肉よりも食味がいいというのが気になりますわね。ホルモン焼きみたいにして食べるのでしょうか。ジュルリ(๑´ڡ`๑)


全長30cm以上にもなる三角形の貝殻を持つ、タイラギ貝。よーく見ますと三角形の突端にも小さな貝柱がございます

 これ!高級な貝ですわ……!わたくしも名前だけは聞いたことがございます。もっともわたくしが行くような駅ナカの立ち食い寿司ではあまり見かけませんけれども。九州では貝柱以外の部分も「びら」という名称で食用にするとか。


タカアシガニはおいしいのでしょうか?

 タカアシガニって、水族館で見かけるあのタカアシガニですよね。あまりにも脚が長すぎてエイリアンぽく見えるので食欲的な面で少し抵抗がありますわ……まあでも、調理されて出てきたら関係ないのでしょうけど。
 他に深海料理の食材としては、メギス、メヒカリ、ゲホウ、ゴソ、ノドグロなど。メヒカリの唐揚げは、上野アメ横の飲み屋さんで何度もいただきましたわ!


ホヤ。なぜこれを食べてみようと思ったのか、数ある珍妙海産物の中でもトップクラスの謎。

 それはともかく、わたくしこのホヤが好物なのです。人によって好みがまっぷたつに分かれる魚介類の代表格と言ってもよいでしょう。だいぶ癖のある味と匂いなのですけど、酒飲み、特に日本酒飲みにとってはベストな酒肴になれるポテンシャルを秘めています。生でいただくなら鮮度が第一、薫製でもいけますわよ!


寿司ネタを召喚!胃袋にダイレクトアタック!

 なんなんですの?この展覧会は?日本人見学者のおなかを減らしにきておりますの?٩(๑`^´๑)۶(半ギレ)これを観て出た後はお寿司屋さんに直行するしかないではありませんか!


ぬたっていう名前の響きも好き

 青柳のにぎりは大好き!青柳の小柱軍艦巻きも大好物ですわ〜(๑´ڡ`๑)
 ちなみに「青柳」は貝殻を剥いた身のことを指す言葉であり、標準和名は「バカガイ」。このバカガイの名の由来には諸説あり、馬鹿みたいに貝殻を開けて舌を出しているからとか、潮の満ち引きによって頻繁に住処を変える「場替え貝」が訛っただとか、産地の「馬加(まくわり。現在の幕張)」を音読みしただとか、いろいろとございます。東京湾、それも千葉県沿岸住みの民ならば、青柳を知らぬ者はおりませんでしょう(⁠*⁠´⁠ω⁠`⁠*⁠)


は?ナガコンブ?
ちょっ……
ええ〜?( ゚д゚)
どこまで伸びておりますの!(;´Д`)

 これで作る昆布巻きはタイヤみたいな大きさになるのでは?


マコンブ。漢字変換したら魔昆布と出てきてあせりましたわ
ワカメって、こんな植物然とした姿をしておりますのね!塩漬けのよれよれの姿か、乾燥したカチコチのあれか、ラーメンの上に乗っている輪切りの茎わかめしか見たことがありませんでしたわ!
漢字は「若布」「和布」「稚海藻」など。
ヒジキは津軽海峡から沖縄の海にまで幅広く生育します。漢字表記は「鹿尾菜」。
わたくしはモズクも大好物。以前、テレビ番組でモズクの収穫作業の様子を見て、大きな掃除機みたいなののノズルを伸ばして一網打尽に吸い込んでいるのを見て衝撃でした
沖縄料理屋さんにいったら、島らっきょう、じーまーみ豆腐とともに必ず注文するのが、このクビレヅタ。「海ぶどう」と言った方が通りはよいでしょうか。
ギャース!加減なさいおばか!ヽ(`Д´)ノ

 ちなみに海藻が頻繁に食卓に載るせいで、日本人は世界の他の民族・文化圏と比べてもヨウ素の摂取量が多い民族となっております。なので海藻の食べ過ぎ=ヨウ素の過剰摂取にはご注意を。甲状腺ホルモン分泌に異常をきたしますわよ。


まるで砲弾、マグロの仲間
ふつうにわたくしより大きいですわ。海の中でこんなのが一直線に向かってきたら恐怖でしかありませんわね




 どんどん進んでいきましょう。ここからは原初のバイオテクノロジー、発酵についての展示となります。

 発酵と腐敗のと違いは、ざっくり言えば人間に有用か有害かということですわ。納豆やくさや、ふなずしなどのようにどれだけ異臭がしても、人間にとって有用であり、害がないのであれば、それは腐敗ではなく発酵──ということになりますの。
 そのためには有害な菌の活動を抑え、発酵に関わる菌の活動を後押ししてあげる必要があります。温度を低く保つ、水分を少なくする、塩分を高くする、酸性を強くする──それら人為的な介入の歴史こそが、バイオテクノロジーの曙だったのでしょう。

日本酒製造における菌の繁殖割合と経過時間の関係グラフ。最終的に清酒酒母だけが残るような手順とメカニズムであることがよくわかります
おしょうゆの基本5種の作り方。利用のされかたに地域性がある、というのは、そこに土着の菌があるということかもしれませんね
いつか、各地のおしょうゆ工場にも見学に行ってみたいですわ〜。味比べをするのに適した食材は何でしょうか?やっぱりお豆腐?
おそらく一生に一度くらいしかお目にかかることがないであろう、お醤油の色見本


 お醤油の起源は、はるか鎌倉時代に中国から伝えられた「径山寺きんざんじ味噌」の桶の底に溜まった液体であると言われています。
 醤油の醤は中国語のジャンであり、これは調味食品を発酵させたものの総称でした。豆板醤トウバンジャン甜麺醤テンメンジャンなどのジャンですわ。
 そして中国語のジャンは日本語のひしおとなり、肉や魚から作られる肉醤ししびしお(塩辛など)、植物から作られる草醤くさびしお(漬け物など)、穀物から作られる穀醤こくびしおが生まれました。このうち穀醤が現在の醤油の元祖となり、その前段階のものを未醤みしょうと呼び習わしたとか。この未醤みしょうの実態と音節が「味噌みそ」に転訛てんかしていった、というのは、なかなか説得力のある説です。


お味噌の地域性の図。わたくしの住む街では伝統的に甘い味付けが主流となっています。それにしても甘味噌と甘口味噌の違いとは?Sweet Miso?Not salty Miso?
それぞれ乳酸菌、納豆菌、麹菌を利用した和の食品代表
これ、呼び名がちょっと分かりづらいかもしれませんわね。バクテリア=細菌(と教わった)です。でも最近の区分は違うのかも……真菌類は多細胞の真核生物、細菌は原核生物……いえ、もっと簡単に、真菌類はでかい、細菌類は単細胞とか……
見た目はただのカビ
種麹のことを「もやし」というのですね!漫画「もやしもん」の表紙を見て一生懸命野菜のもやしを探したのは今となっては思い出ですわ〜(⁠*⁠´⁠ω⁠`⁠*⁠)
アフラトキシンは肝臓の細胞に作用し、肝臓がんを引き起こす毒素。無毒化していった経緯、お米つぶのような固体に付着すると発動する遺伝子をどのように獲得していったのかの経緯。食の歴史はかくも魅惑的な謎に満ちておりますわ(⁠*⁠´⁠ω⁠`⁠*⁠)




 いかがだったでしょうか?ここでいったん区切りましょう!展示はこれで2/4ほどです!(;´Д`)ハァハァ


 暖かい海、冷たい海、それぞれの海流、浅瀬から深海まで至る立体的な海中地形。ここでもやはり南北に長い日本列島の地形が大きく関わってきています。豊かな海の生態系は地域ごとの食習慣の差を産み、日本に「米と魚介」という基本スタイルをもたらしました。これが赤道直下の丸くて平たい島なら、ここまでの多様性は生まれなかったでしょう。
 また、真菌やバクテリアを使用した発酵は、バイオテクノロジーの原点とも言うべきもの。そしていまやお醤油をはじめ、お味噌、出汁などは日本人の構成元素のひとつと言ってもよいでしょう。わたくしも旅行する際は関東のお醤油を持ち歩いております。

 次回はいよいよ和食の黎明に切り込んでまいりますわ!各時代の民がどのようなものを食べていたのか、縄文時代の食から信長の饗応膳までをレビューいたします。まだまだ勉強は終わりませんわー!✧⁠◝⁠(⁠⁰⁠▿⁠⁰⁠)⁠◜⁠✧



 今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

 それでは、ごきげんよう。



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