マリ❤️の小説

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マリ❤️の小説です。 ショート・ショート、短編、長編小説をアップしたいと思います。 どうぞよろしくお願いします。

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あたたかな水面に浮かびショート・ショート4

 マサは今では、漂ってきた友だちを手なずけて上に跨がっていた。前に一度だけ乗せてもらったイルカフロートの要領で、手で水を掻いてみたが何かの役には立たなかった。それでも潮とわずかな流れに乗り、いつのまにか海に来た。マサは入道に見ほれていた。  神という名前を知らないが、それは神だった。つぎにお婆さんが流れてきたので乗っている友だちに繋いだ。次に灯をつけない小船がやってきた。その小舟には黒い男が二人乗っていた。  いっぽうスジ公とトミは浜までやってきた。 「マサはどこだ」 「

    • あたたかな水面に浮かび ショート・ショート 3

      「マサー」 「あやあ泳げるだか」 「浮いとやがる」 「マサー、こっち帰ってこお」 「答えん、生きとるだか石ぶつけてみりん」 「あ、もぞもぞ動いとる」 「お前助けに行ってこりん」 「おら泳げんだもん」 「おらも泳げん、どうするだん」 三河湾の町々はいずれ西の新興都市に飲み込まれる運命で、矢作川の主流はすでに西へ変更されているから、矢作古川のほうは水量が少なく、中洲の周りをせせらぐ程度だ。しかし海から上げ潮がやってくる。三人が中洲の縁で魚を叩くうちに、いつしか潮が満ち、中洲は水

      • あたたかな水面に浮かび ショート・ショート2

         マサはこの夏、母から遠縁に預けると言われてやってきた。里子の約束が、児童相談所を介して結ばれていたのだった。棄てられた悲しみや恨みの原形が、ほんのひととき湧き上がったものの、そんなものを新世界にまで持って行けやしない。回る世間に目を回さないようにするのが手いっぱいだ。おまけに手荒らな歓迎も待っていたからおおわらわである。歓迎委員会は魚屋の息子で小学三年のスジ公と小学一年のトミである。マサは幼稚園中退である。  関係ない話だが、鮭の卵を卵巣の膜もそのままに塩漬けしたのを筋子

        • あたたかな水面に浮かび

             河床の砂と夏空を混ぜて水に溶かせば、抹茶の薄茶を点てた色になる。その上にぽっかり浮かぶマサは、汽水の水が穴という穴から浸入するのだが、潮気がひりひりするだけでいっこう意に介する様子はない。そういうことより目の上に立ち上がる入道の、筋肉を爆発させるムーブメントや、西へ行ってしまった太陽が、後ろ足で砂を掻くように刷き散らす光芒から、かたときも目を離なすことができないのである。だから自分が溺れているとは少しも思っていないし、そもそも溺れるという言葉すら知りはしない。まして生と

        あたたかな水面に浮かびショート・ショート4

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        • ショート・ショート
          5本

        記事

          妙子ショート・ショート 3

           ふた月み月すると、ぼくらと妙子は真心で通じあう仲になった。そしてぼくは、キッチンと運びの手伝いを、ネジは梯子を掛けて、古家の修繕をやっていた。 「そういうことは、やっていただかなくて結構です、もうほんとうに結構です」と言うのを 「まあまあ、そう遠慮なさらず」と強引に説き伏せた。慎ましやかな女の真意に配慮するのが紳士のたしなみというものだから。  ネジは直しているのか壊しているのか、わからないようなものだが、貴重な情報がもたらされた。 「こりゃ特ダネだ。いくら出す」と

          妙子ショート・ショート 3

          妙子ショート・ショート

           キャンパスの裏門から、寂れた方へしばらく行くと、車止めの路地があり、百メートルほどゆるやかに上って雑踏に出る。この道はかつての石畳が健在で、きっと馬車道だったろう。木造の民家が並び店もある。妙子の握り飯屋はそこにある、名を桃苑という。  暖簾をくぐり、がらりを開けると、四人掛けテーブル二卓に小上がりが付いた小さな店だ。喰わせるものは握り飯だ。黒々と海苔で包んだ大きな結び二個、ふっくら炙った鯖に焼き味噌をまぶして出してくる。そんなものが盆に乗り、二三枚の紅葉が散らしてある。

          妙子ショート・ショート

          妙子ショート・ショート

          「だから二十二対零で完敗するところだったじゃないか。あーあと思ったよ。そしたら突然ラックの中から出た球を、背番号十の大男が、ああこいつをスタンドオフっていうんだってな」 「それはいいから、妙子はどうしたんだ」 「それを言わなきゃ話がつながらん。スタンドオフってオールジャパンでは田村なんだってな」 「だから……」 「そんでな、スタンドオフが左翼に球を飛ばしたのよ。ロックっての?四番の背番号つけたやつ、そいつがちょんと触ってバックパスした、その球を掴んだのがわれらの超特急、我が

          妙子ショート・ショート

          満月苑で会いましょう

            日本の色は青でしょう、あるいは紺とか?  「青は藍より出でて藍より青し」とか 「紺屋の白袴」とか 「水色は瓶に覗く青空の色」とかいろいろあるじゃないですか。古来からの藍染めが意識に蘇ったのではと思ったりします。ほんとうに洗練された世の中になったと思ったりもします。   関係はありませんが、一九八 ○ 年あたりからの、日本の色は金でした。貧乏なわたしすら浮かれ騒いでいた気がする。デリケートな陶酔にふわふわしていた頃のおはなしです。   山手にひっそり裏通りがあり、深紅の

          満月苑で会いましょう