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ひきこもりに関する報道について①

川崎の児童殺傷事件に続き、練馬でおきた元農林水産事務次官による長男刺殺。立て続けにおきた痛ましい事件によって、再び「ひきこもり」に世間の注目が集まっている。

児童殺傷事件をおこし自殺した容疑者は、ひきこもり生活を送っていた。親族からの相談はあったものの、公的な支援は本人にも同居する親族にも届いていない状態だった。

元農林水産事務次官の長男も、定職にはついておらず、生活費は親持ち。ゲームに没頭し、ひきこもりがちだった。家庭内暴力もあったようで、5月下旬に実家に戻ってからの父親との関係悪化は想像に難くない。公的機関への相談はなかった。

こうした事件がおこる度に、犯人、容疑者、被害者といった当事者の特定の属性と事件とが、あまりに短絡的に結び付けられて報道されてしまうことの危険性を常々感じている。

今回の事件のように「だからひきこもりは…」と、「ひきこもり」という存在に対していとも簡単に否定的な印象が形作られてしまいかねない報道の姿勢には疑問がある。

こうしたメディア報道に関して、苦言を呈し続けてきた人物がいる。ひきこもりスペシャリストである精神科医斉藤環氏である。6月3日放送のAbemaTV『AbemaPrime』から彼の主張を紹介する。

斉藤氏がまず指摘したのは「被害者の追悼と遺族への寄り添い」と「被害者視点」が欠けていること。「初期段階としては被害者のサポート、心の問題についてのケアがなされて然るべき」であり、そうして視点なしの「事件を面白おかしく消費」する報道姿勢は残念だと述べた。

「ひきこもり傾向だということは事実であろうことなので仕方がない」と言いながらも「過度に犯罪に結びつけることはやはり違う」と主張。

「川崎と練馬の間には福岡で子どもが母親を刺すという事件があったが、"連鎖"があったかどうかは検証しようがないし、ひきこもりという言葉が使われ始めて20年が経っているが、明らかにひきこもりの人が関わったという犯罪は数件しかない。つまり、100万人の当事者がいて数件しかないというのは、非常に犯罪率が低い集団」「相関関係がない問題を無理に結び付けようとするのではなく、抑制的に報道をして欲しい」。

続けて「私の統計では大体1割前後に家庭内暴力がみられる」とし、「どうやって暴力に対峙するかということへの対処法についての報道をしてもらうことが続発を防ぐ方法」と指摘。

あわせて「ひきこもりの人を強引に外に出そうという業者」に対しての危惧を表明。「高額な金額を請求しておいて、3か月かそこら預かって、変わらないとなるとほっぽり出すという業者も中にはいる。その辺の実態を見極めてから報道に使っていただきたい」と述べた。

「ひきこもり」が世間の注目を集める度に、斉藤氏は以下の主張を繰り返している。

1.犯罪とひきこもりを過度に結び付けることのない抑制的な報道を
2.ひきこもりビジネス業者(自称支援団体)に関しての報道は慎重に

それでもこうした報道姿勢が一向に変わらないのはなぜだろうか。

視聴者である我々も無関係ではない。視聴率を上げるための報道スタイルに飼いならされてはいないか。ワイドショーなどで流される情報をうのみにせず「情報を咀嚼して自分の頭で考える」ことを、我々は手放してはならないのではないか。

次回は、斉藤氏が繰り返し懸念を表明する「ひきこもりビジネス業者(自称支援団体)」とメディアの関係について書きたい。


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