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文学研究

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基本的に資料収集と読解です。地味。もっとも、中には世界中でここにしかない情報も……。
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記事一覧

【『飛火野耀読本』より】飛火野耀スレッドには何が書かれていたか?

【『飛火野耀読本』より】飛火野耀スレッドには何が書かれていたか?

 「飛火野耀=真行寺のぞみ説」検証のきっかけが匿名掲示板だった、とは 既に書いた 通り。
 この点であの掲示板は、筆者にとって恩義あるサイトではある。
 けれども一方で、数々のガセが書かれていたのも確かだ。
 惜別の意も込めて、ここでは雑多な情報も残しておこう。

 以下、引用はすべて当時の2chライトノベル版、『「飛火野アキラ(字がでねえ)」消息求む』による。 ※くどいようだが、このくだりはあく

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【『飛火野耀読本(仮)』収録コラムより】飛火野耀 『もうひとつの夏へ(上)』初版の回収事情と異同点

【『飛火野耀読本(仮)』収録コラムより】飛火野耀 『もうひとつの夏へ(上)』初版の回収事情と異同点

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 数年前までは、2ch(当時)の飛火野耀スレッドがある程度の解答を提示していました。最近ではスレッドの過去ログに触れることすら困難なため、以下、個人的な調査を行った上で記しておきます。

記事の内容
・文庫カバーでの回収版か修正版かの見分け方。 ※版数は同一。
・回収版と修正版の違い。
・初公開の比較画像3枚。

   ・

 初版かつ未修正版(以下、回収版)かどうかは、いくつかの目安

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『ハーモニー』最終読解に必要なポイント1つ。/伊藤計劃読解

 またつらつらと考えてまして、霧慧トァンの意志(なぜ『ハーモニー』を記したか?)を確定させるに際し、以下の一点が必要と考えるに至ったため、ひとまず記しておきます。

 まず、「大調和後の霧慧トァンは意志を持っている(自身は大調和の影響を受けておらず、また回避手段も持っていた)」のは既に書きました。
 その上で、

・大調和後の生府社会で、御冷ミァハはどう語られているか?

 が情報として必要だなと

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【進捗報告】「なぜ霧慧トァンは『ハーモニー』を書いたのか?」/伊藤計劃『ハーモニー』読解

【進捗報告】「なぜ霧慧トァンは『ハーモニー』を書いたのか?」/伊藤計劃『ハーモニー』読解

 年末の進捗報告です(挨拶)。色々やってるんで自分でもこんがらがる可能性があり、まあ後に続く研究者もいるかも、て感じで書き残します。

 本題。「なぜ霧慧トァンは『ハーモニー』を書いたのか?」ですね。ここ数ヶ月ほど引っかかってまして、この問いが本当の最終問題なのかなーという気はしています。

 まずそもそも、『ハーモニー』本文では、たびたび重要な事実が隠されています。たとえば、一部の旅路。霧慧トァ

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都市伝説が証されるとき~作家・飛火野耀と真行寺のぞみ~

都市伝説が証されるとき~作家・飛火野耀と真行寺のぞみ~

 伝説的な作家・飛火野耀と、謎の女子高生作家・真行寺のぞみ。
 今でこそ二人は同一人物と見なされていますし、説に異議を唱える人はほとんど居ません。

 では、その「飛火野耀=真行寺のぞみ」説はどのようにして広まったのか?
 そもそも「飛火野耀=真行寺のぞみ」は本当に事実なのか?
 事実ならどんな根拠が存在しているのか?
 最初期からの経緯を踏まえつつ、事実確認し広めた側の目線からここ20年を振り返

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【小ネタ】『虐殺器官』と『CURE』『戦争広告代理店』

【小ネタ】『虐殺器官』と『CURE』『戦争広告代理店』

当時から有名な話として、『虐殺器官』は黒沢清監督の『CURE』から発想を得ている話があります。別に目を引く話ではなく、作者当人が述べていたことです。
『CURE』のもう一方の主役、殺意の伝道師・間宮。彼の行動対象が民族単位だったら、と。

そして『戦争広告代理店』。今でこそPR会社の話は珍しくない、けれども刊行当時は衝撃的でした。紛争の風向きでさえ、情報戦が支配しかねないのだと。
「虐殺」の影の、

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【雑記】伊藤計劃、カズオ・イシグロ、小島秀夫/『ハーモニー』と『わたしを離さないで』

 おそらく影響関係がある(『ハーモニー』の執筆難航中に『わたしを離さないで』を読んでいた)ことまでは把握していましたが、いま読み返すと、

「この小説で使われたテクニックについて話し合った」とのことで、もう少し意味合いが変わってきますね。『わたしを離さないで』でのテクニックについて両者ある程度把握していて、なおかつ話し合っていたと。
 加えて、

 との言及もあり、『日の名残り』で使われていたテク

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クラヴィスと悪夢――「死者の国」再訪/伊藤計劃『虐殺器官』読解

クラヴィスと悪夢――「死者の国」再訪/伊藤計劃『虐殺器官』読解

 死者の国とは悪夢であり、中盤以降のクラヴィスには心休まる存在でない ――そんな記事を以前書いた。
 本稿はその続編にして増補版であり、全編を通してのクラヴィスと「死者」の関係を取り上げるものだ。

   ・

『虐殺器官』を通読して分かるのは、死者の国はあくまで全体の一エピソードということだ。そもそも「死者の国」とは、作品中盤までにのみ現れる言い回し」なのだから。

 注意深く読めば、「死者の国

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ETMLが持つ「真の意味」とは何か。 『ハーモニー』読解/伊藤計劃研究

ETMLが持つ「真の意味」とは何か。 『ハーモニー』読解/伊藤計劃研究

基本に立ち返った話をしよう。すなわち、

「なぜ『ハーモニー』でETMLは表示されているのか?」

刊行から今年で15年。あまりに当たり前過ぎて、これまで見過ごされて来た観点だ。

   ・

ETMLは現実のHTMLに想を得ている。

ある意味、当たり前の話ではある。本文冒頭のETMLからして、HTMLに加筆される形で表現されているのだから。

〈!DOCTYPE 「〜」〉は〈「〜」形式で書くと

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藤子・F・不二雄『ヒョンヒョロ』2周目を読む。

・本稿は既読が前提です。必然、オチを含めた作中のネタに触れています。

・ページは『藤子・F・不二雄大全集 SF・異色短編』4巻のものです。157pが1p目(表紙)に相当しています。

・扱うのは本編中の描写のみに絞っています。

 登場人物一覧:

 マーくん(マーちゃん):空想癖のある男の子。字はまだ読めない。

 うさぎちゃん:宇宙人。ヒョンヒョロを入手すべく人間へ接触。

 ママ:マーくん

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『ハーモニー』における「語り」の重奏構造/伊藤計劃研究

『ハーモニー』における「語り」の重奏構造/伊藤計劃研究

要旨:『ハーモニー』本編は複雑に時間軸が絡み合っている。本稿では、記述の時間軸について簡易的に扱う。

   ・

『ハーモニー』本編の構造は、整理すれば以下となる。

 明示的な過去描写――たとえば〈recollection〉タグ内の記述――もあるが、それだけではない。
 本編の記述は必ずしもリアルタイムではないため、各々の描写には微妙な齟齬が存在している。

 分類のヒントは作中にある。それも

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ノベライズ版『メタルギアソリッド ガンズオブザパトリオット』研究のための手引き /伊藤計劃読解

ノベライズ版『メタルギアソリッド ガンズオブザパトリオット』研究のための手引き /伊藤計劃読解

 オリジナル長編『虐殺器官』『ハーモニー:』と比較し、ノベライズ長編『メタルギアソリッド ガンズオブザパトリオット』(以下、N版『MGS』表記)の研究は現状ほぼ成されていない。時期上は『虐殺器官』と『ハーモニー』の合間に位置し、一時中断していた『ハーモニー』の完成にも寄与した可能性が高いのだが。

 残念ながら、N版『MGS』の謎は『ハーモニー』の謎よりなお知られていない。私事でしばらく忙しくなる

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「御冷ミァハの子供姿」の真相究明 『ハーモニー』読解/伊藤計劃研究

「御冷ミァハの子供姿」の真相究明 『ハーモニー』読解/伊藤計劃研究

『ハーモニー』には複数の裏プロットが存在しており、その内ひとつが「霧慧トァンが事件を振り返るうち真相に気づき、カリスマと思っていた御冷ミァハの実態に直面する」である。本稿は「ミステリアスと思えた描写が実は違う意味を持つ」事例を扱い、『ハーモニー』を捉え直す一助とする。

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 ごく素直に読んだ場合、御冷ミァハはどんなキャラクターか。気まぐれでミステリアスな、カリスマあるイデオロ

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『ハーモニー』再読のための「信頼できない語り手」ガイド。/伊藤計劃研究

 あけまして。咳以外だいぶ回復しまして、今年もよろしくお願いいたします(挨拶)。
 少し間が空いていたため、昨年の読解を読み返しました。その結果、

・個別には納得できても、全体を通して何を述べたいか分からないのでは?

 との疑念が。こ、これは確かに……と反省しきりです。
 なので今回は「作品全体を見通すための視点」を提示しておこうと思います。以下の視点を押さえることで、『ハーモニー』全体像への

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