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詩『南下する季節』#シロクマ文芸部

振り返ると
部屋にゆきが降り出した
雪搔きしても追いつかない
雪雲がつきまとって来る
私が埋まってしまう

レントゲン検査を受けにいった
肺の中心に冬が降り積もっていた
身体の芯が冷えて
中心から暮れてゆく

曇っている硝子
指で文字を書く
昨日からの伝言
明日へのエール
バトンタッチしたい声
喉がくっ、と締まってくるので
レントゲン写真を雪搔きした

晩ごはんが寒々しいので
温かいお茶を淹れて
お茶漬けにする
仏様のお下がりの冷やご飯が解れてゆく
自分で漬けた沢庵や白菜の漬け物を
箸で摘まんで持ち上げる
ふゆを喰らって嚥下してゆく

ふゆが深まって
私が吹雪いている
からだのなかの時計が硬直して
零度以下で凍てついている

しょりしょりしょり、
リズミカルに漬け物を噛んで
温かいお茶で流しこむ
肺に棲みついた季節を
ゆっくりと解かす

振り返ると
渡り鳥の群れが南下してゆく
あたたかいほうへ
あたたかいほうへと
背後には雪の代わりに
柔らかい羽根が降り積もっていた

あたたかいほうへ
あたたかいほうへと
私のなかの季節も旅立ってゆく

明日、室内の雪は止むだろう

声はバトンタッチされて
内側の時計が動き出していた


photo:見出し画像(みんなのフォトギャラリーより、はこゆきさん)
photo2:Unsplash
design:未来の味蕾
word&poem:未来の味蕾

#シロクマ文芸部
#振り返る

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