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数年ぶりに再会した従姉妹と、ひとつ屋根の下で甘い生活を 第2話

  *

 どうやら、これは夢じゃないようだ……。

 夢なのか、それとも現実なのか……確かめるために頬をつねってみる。

 普通に痛いんですけど。

 とりあえず、現実だということがわかった。

 この事実を受け止めよう。

 俺は、あのときの女の子と一緒に生活することになるのだから……。

 ――なんて、思っていたのだが。

「……なんてね」

「えっ?」

「なーんてね! ドッキリ大成功!! びっくりした?」

「えっ……!?」

 陽葵が急に笑みを浮かべる。

「驚いたよね〜?」

「……ああ、うん」

 俺が呆然と立ち尽くしていると、陽葵がくすりと笑う。

「この家をどうするつもり?」

「……えっ?」

「たとえ親戚であっても……いえ、親戚だからこそ……ここは、わたしたちの家なんだよ? ……なのに蒼生はなにもわかってなさそうだったからね。ちょっとイタズラしちゃった」

「はっ?」

「ふっふっふっ……蒼生がどんな反応をするのか見てみたくてね」

「……なんのために?」

「さあね。なんのためだと思う?」

「……わからない」

「本当は……?」

「……本当に、わからないんだけど」

「……実はね」

「……なんだよ?」

「……本当はね」

「……うん」

「……蒼生が、わたしたち一糸家の姉妹たちに手を出すんじゃないかって思ったから……その前にわたしがハグして、どんな反応をするのか気になっちゃってね。もし蒼生がそんなことをしたら……お仕置きしなくちゃいけないから」

「……お、お仕置き!?」

「……もしもの話だよ。そんなに身構えなくても大丈夫」

「いや……でも……なんか怖いな」

「……そんなことをされたら、もう蒼生とは口もきかないから」

「ええっ……」

「……冗談だよ。本当に……。さっきのは全部……嘘だから」

「……はい?」

「蒼生は、そんなことをしないもんね?」

「……当たり前だ」

「うん、そうだね。蒼生はそんなことをする人じゃない」

「……だろ?」

「だから、安心した」

「そりゃよかった」

「でもね」

「なんだよ」

「もしも、蒼生が一糸家の姉妹たちに手を出したら……」

「出したら……?」

「本当に許さないから。二度と立ち直れないくらいに傷つけてやるから」

「えええっ……」

「覚悟していてね、蒼生。もし手を出したら、絶対に逃がさないから。逃げても無駄だよ。地の果てまで追いかけて、捕まえるから。絶対に……逃がしたりはしないからね」

「ひっ……」

 俺は思わず後退りしてしまう。

 陽葵の目は本気だった。

 ――だが、すぐにいつも通りの表情に戻る。

「……だから、そんなことは絶対にしないでね? 約束だよ? 破ったら、一生恨むから」

「わ、わかったよ……」

「うん、よろしい!」

 彼女は満面の笑みを見せる。

 そんな彼女に、俺はある疑問を投げかけた。

「そういえば、なんで、さっきお兄ちゃんって言ったんだ?」

「ああ、あれね。別に深い意味はないよ。ただ、蒼生をお兄ちゃんと呼んであげれば喜ぶかなって思ってね。そういう男性って実際にいるしね。あと、わたし、お兄ちゃんが欲しかったし」

「……なるほどね。まあ、いいけどさ。そういえば、さっきまで、どこへ行ってたんだよ?」

「ああ、それね。蒼生から来るから歓迎パーティをしようと思って……じゃーん! これ、買ってきたの!」

 彼女は手に持っていた紙袋を掲げる。

「えっ? マジで? それって……」

「うん! ケーキを買ってきたの!」

「おおっ……ありがとう」

「どういたしまして! その前に晩ご飯が先かな? お腹すいたなあ……。あ、でも……先に部屋へ案内するね! はい、ついてきて!」

「ああ」

 俺は陽葵の後についていくことにした。

 ――そして数分後。

「ここの部屋を使ってね!」

 陽葵は俺に部屋の中を見せてくれた。

「……すごいな。綺麗に整頓されてるじゃないか」

「えへへ、そうかな? まあ、蒼生が来るから頑張ったんだけど」

「えっ? そうなの? わざわざ俺のために……?」

「もちろんだよ! だって、大事な従兄弟だもの!」

「……ありがとう。助かるよ」

「うふふ、いいんだよ〜。困ったときはお互い様だからね〜」

 陽葵は嬉しそうに微笑んでいる。

 俺も嬉しい気持ちになった。

 こんな可愛い子に大事だと言ってもらえるなんて……この子を好きな男性諸君は俺の立場がうらやましいと思うだろうな。

 だけど、ふと思った。

 ――陽葵って、恋人いるのかな?

 一糸家の四姉妹はみんな可愛かった。

 特に陽葵は……贔屓目抜きにしても美少女だと俺は思う。

 ――そう考えると……陽葵はモテるはずだ。

 おそらく、今までに何度も告白されているのではないだろうか?

 ――陽葵は、誰かと付き合っているのかな……?

 それが気になってしまう俺。

 ……まあ、いいか。

 今は考えないようにしよう。

 これから一緒に暮らすわけだし……いつかわかる日がくると思うから。

「じゃあ、蒼生。荷物を置いたらリビングに来てね!」

「おっけー」

  *

 俺は自分の部屋に荷物を置くと、陽葵とともにリビングへと向かった。

「お待たせ!」

 リビングの扉を開けると、そこには一華と琴葉と咲茉がいた。

 一華が俺を手招きする。

「晩ご飯できてるよ〜。食べよ〜。ほら、座って〜」

「はい、いただきます」

 俺は席に着くと、目の前に並んでいる料理を見つめる。

 どれもおいしそうだ。

「なにか嫌いなものとかある?」

「いえ、特にはありません」

「そっか〜。なら、よかったよ〜。遠慮せずにいっぱい食べてね!」

「はい、わかりました」

「ところで、蒼生は、どんな子がタイプなんだい?」

「えっ? なんですか、急に?」

「もう、とぼけないで〜。蒼生は誰が一番タイプなの〜? 正直に答えてよ〜」

「……えっと、誰と言われましても……まだ、よくわかりませんよ」

「わからないって、どういうことだい?」

「それは単純に恋愛経験がないからです。今までに一度も彼女ができたことがないので……」

「そっか〜。これからだよ〜きっと! がんばれ、蒼生!」

「はい、ありがとうございます」

「あっ、ちなみに、わたしは、どう〜?」

 一華が自分の胸を指差して言う。

「……えっ?」

「どう〜?」

「えっ……あっ……」

 俺は一華の顔を見た。

 彼女の顔が、だんだんと赤くなっているような気が……?

「……なーんてね! 冗談だよ! さすがの私でも従兄弟と恋愛関係になるのは、ちょっとね。結婚はできるみたいだけど、現実ではありえないでしょ! 血がつながっているわけだしね〜!」

「はあ、ですよね……」

「そんなことより、ご飯を食べましょうか。一華姉さん、蒼生くんを困らせちゃダメでしょ」

 琴葉が呆れたようにため息をつく。

「ごめんなさ〜い」

 一華は舌を出して謝った。

 ……というわけで、不思議な気持ちで晩ご飯を食べる俺であった。

 ――そして、数時間後。

「今日は楽しかったよ、蒼生。明日は一糸学院を案内するから早めに休んでね。おやすみ」

「うん、陽葵もおやすみ」

「蒼生、おやすみ〜」

「蒼生くん、おやすみなさい」

「蒼生お兄ちゃん、おやすみ」

 一糸家の四姉妹が順番に挨拶してくれる。

「みんな、おやすみ。また明日」

 こうして、一糸家での初めての夜が終わっていく。

「晩ご飯おいしかったな。今まで食べた料理で一番おいしいかも。デザートの陽葵のケーキもおいしかった。幸せだなぁ……ずっとこのまま生活していたいな……いや、するのか」

 そんなことを考えながら、俺は眠りにつこうとする。

「学校か……もう、あんなことは、絶対に、したくないな――」

 俺は目を閉じて、明日を迎える準備をするのだった。

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