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「悪夢」を頻繁に見る人に潜む病と脳のしくみ

怖い夢には「抗ストレス作用」などメリットも

怖い夢を見てハッと起きる…、そんな経験をした人も多いのではないでしょうか。悪夢を繰り返し見る場合は、もしかしたら重大な病気が潜んでいるかもしれません。人はなぜ悪夢を見るのか。それを知るためには、まずは睡眠の仕組みを理解する必要があります。


睡眠の仕組みについて

眠りについてから目が覚めるまでの間には、レム睡眠とノンレム睡眠という2種類の睡眠状態が繰り返されます。
レム睡眠の間、体は休んでいるものの脳は活動しています。
いっぽう、ノンレム睡眠はレム睡眠の逆で、体だけでなく脳も休息しています。
ノンレム睡眠はさらに、「まどろみ期」、「軽睡眠期」、「深睡眠期」の3つに分類されます。
つまり、ノンレム睡眠(まどろみ期→軽睡眠期→深睡眠期)→レム睡眠が、ひと晩で4~5回繰り返され、夜明けになるにしたがってレム睡眠の持続時間が長くなります。
では、人はなぜ悪夢を見るのでしょうか。
それは、扁桃体と呼ばれる恐怖心や不快感といった感情に深く関わる脳の部位が、レム睡眠中に過活動になっているためだとされています。
これは過去のトラウマ経験を持つ人や、ストレスに晒されている人に見られる傾向です。

悪夢は過去の経験を反映する

4~5歳まではまだ人生経験が少ないため夢の中身はシンプルで、悪夢もあまり見ることはありません。
悪夢を含めてさまざまな夢を見るようになるのは、思春期で多感な年ごろになってからです。
過去の経験が夢や悪夢に反映されいるわけです。
疲れて睡眠時間が長くなったり、昼までゆっくり寝ていると、レム睡眠が長くなり悪夢を見ることが増えます。そして、起きがけの悪夢はリアルに憶えているようになります。

夢の意味とは~情報の整理

夢には、「誰かに追いかけられて必死に逃げる」という悪夢や、「空を自由に飛び回る」という現実では起こり得ない夢、「未来を予想する」予知夢など、さまざまな種類があります。
それらには一体どんな意味があるのでしょうか。
睡眠中の脳は、その人が今まで見聞きした情報を整理しています。

脳の中にはライブラリーがあって、その人の記憶を「家族」「友達」「小学校時代」「高校時代」「恋愛」などのジャンル別に整理しています。そのジャンル分けされたライブラリーに貯蔵された記憶を引っ張り出したりまとめたりするのですが、その過程を脳の中で再生しているのが夢です。
ただ、子どもの頃は絵本や漫画、テレビなどに夢の内容が左右されやすいという傾向があります。
実際に体験していないことでも映像で観ていたり、想像したことがあったりすると、それらを組み合わせたものが夢になることがあります。
表は、最近見た夢に関する調査をした際の頻出語を年代別に多いものから順に表したものです。
高齢者は「旅行」「仕事」「トイレ」「母」、大学生は「友達・友人」「遊ぶ」「サークル」、高校生は「友達」「学校」「クラス」「部活動」など、どの年代でも自分の生活史上、密接に関わっている言葉が多く見られました。
こうした結果が出るということは、自我がはっきりする高校生以上になると、やはり自分の体験をもとに、より日常に近い夢を見ているということになります。

夢の「お告げ」はあるのか

昔の人は「夢のお告げ」という言葉を使っていましたし、現代でも「夢占い」という言葉があります。しかし、未来について夢が教えてくれるということはありません。
でも、「心の中で反芻して想像している未来」が夢に出てくることはあります。
そして、その夢(もとは自分の想像)がたまたま現実と一致することもあり、「夢が本当になった!」という印象を受け、よく覚えているものです。
でも、外れた時の夢は印象に残らないので、忘れてしまいます。
「夢のお告げ」とは、たまたま現実になった夢(自分の予想)を、都合よく解釈しているだけなんです。
夢に心配ごとが頻繁に登場するのも、こうしたストレス、心理的、身体的な状態が関係していると言えるでしょう。

悪夢が持つ役割とは 

夢を見ない人はいるのでしょうか。
また、夢を見たことは覚えているものの、どんな内容の夢だったのかはっきりと思い出せないという人も多いですが、それは何故なのでしょうか。
脳の損傷などがなく、脳機能が正常に働いている人なら、1日に平均で3〜5つの夢を見ます。
夢を見たことがない、と言う人は自分が夢を見たことを覚えていないのです。
夢を見ている時は、起きている時と比べて記憶を固定する「神経伝達物質」があまり出ないので、寝ている時に見た夢を記憶として残しておくのは難しいことなのです。
ただ、起きる直前に見ていた夢を覚えていることがあるので、その覚えている一部の夢を私たちは「その日見た夢」として他者に話しているのです。
そして、いわゆる「悪夢」の方が記憶に残りやすく、とくに死や恐怖にまつわる夢はリアルに覚えていますよね。

夢は脳が記憶を整理する過程で見る、断片的な記憶です。
そのため夢には処理しきれなかった記憶、オーバーフローした部分を整理する役割や、記憶を取捨選択する役割があると言われています。
ネガティブな情報を適切に処理するために悪夢を見るという説もありますから、悪夢は悪夢で役に立っている可能性もあるのです。
米国の研究では、悪夢が現実社会で起きる悲劇的な経験に対して、心身の準備対応を行うためのセラピーのような、抗ストレス機能をはたす可能性を確かめています。
また、悪夢には大きく分けて2種類あると言われています。
 

ひとつ目は、私たちが何らかのストレスを感じたときに見る悪夢。これは、誰しもが見るものなので、それほど深く悩む必要はありません。
実際に、悪夢に関する聞き取り調査を年代別に行ってみたのですが、そこで出た頻出語を多いものから順に並べてみたところ、年代による差がほとんどありませんでした。
「追いかける」「走る」「殺す」「死ぬ」「落ちる」といった言葉は、世代を問わず共通しています。
実は悪夢に関しては、世界的に見ても同じような言葉が並んでいるのです。
世代や人種、環境にかかわらず同じような悪夢を見ているというのは、非常に興味深い結果です。
 
もうひとつの種類は、PTSDなど何かトラウマになり得る出来事があり、起きている時はフラッシュバック、睡眠中は悪夢として出現するものです。
こうした悪夢をたびたび見る場合は、夢と現実の区別がつかなくなったり、不眠状態、抑うつ状態に陥ったり、自殺企図の遠因になったりする可能性もあるため注意が必要です。
また、心理的な不安やストレスだけでなく、身体的な不調が夢に現れる例も報告されています。
睡眠時は感覚がより体の内部に向く傾向にあります。
トイレに行きたいとき、海や川、水に関する夢を見ることってありますよね?
覚醒しているときには気が付かない不調部分、病因が夢に現れるという現象はいくつも報告されていて、脳梗塞や肺がんを「夢で見て気づいた」という例もあるそうです。

就寝前の思考が大事!?良い夢を見る方法とは

悪夢には大切な役割がありますが、悪夢を見ると目覚めが悪いというのも事実です。
良い夢だけを見る方法、夢をコントロールする方法はあるのでしょうか?
夢を見ている最中に「これは夢である」と自覚しながら、その夢のストーリーをコントロールできる「明晰夢」というものがあります。
「明晰夢」を見ている間は、視覚や聴覚などの感覚がセンシティブになって、夢の中の出来事がよりリアルでビビッドに感じられます。
もう少し簡単に「良い夢を見る」方法としては、寝る前にネガティブ思考を反芻しないことです。悪夢をよく見る人は、寝る前にその日の行動を振り返って反省したり、次の日の心配をしてしまいがちです。
入眠直前のインプットがストレスとなり悪夢の引き金となる可能性があるので、できるだけネガティブな思考を棚上げし、ベッドに持ち込まないことが大切です。
反対に眠る前にポジティブなことを考えて眠れば、いい夢を見る確率は上がるかもしれません。
好きな人の写真を枕の下に置いて眠るとその人の夢が見られる、というジンクスがありますが、あながち間違いとも言い切れません。

眠る直前に考えていることは脳の記憶に残りやすいため、その日の夢に影響を与えやすいということです。
また、良い夢を見るために夢の内容を誰かに話すことにも意味があります。
というのも、「明晰夢」のように夢の中でその結末をコントロールできなくても、目覚めてから夢の結末を「こうだったらいいな」「こうなれば良かったのに」というものに書き換えてしまうことで、その後の夢にとても良い効果が生まれるのです。
自分が見た夢を他の人に話しながら別の結果を考えるというのは、良い夢を見るトレーニングになります。

睡眠の質を上げる鍵は「血流」だった

悪夢を見ない工夫も含めて、少しでも睡眠の質を高めたいと思っている方は多いのではないでしょうか。
睡眠の質が悪くなると、仕事の生産性が低くなるだけでなく、様々な病気の原因になります。
睡眠の質を高める一番の近道は血流を良くすることです。
そもそも睡眠の質が良いとは?
質の良い睡眠とは、①寝つきがよく、②深く眠れたと実感すること、③ 目覚めが良い(スッキリと目覚めることができる)の3つが挙げられます。
これらは主観的な感覚が多く含まれていますが、近年はウェアラブル端末や睡眠計を使用することで「睡眠の深さ」を測定することができます。
正常な人の睡眠は約90分周期のリズムを1晩に4〜5回繰り返して朝の覚醒を迎えます。
これらのリズムをウェアラブル端末等では心拍数や睡眠中の体動を捉えて、睡眠の質を評価しています。

身体のライフラインである「自律神経」のバランスは睡眠の質を左右します
活動をしている日中は交感神経がよく働いていますが、健康な人では睡眠時間前になると副交感神経の働きが高まり、眠りを誘導します。
しかしながら、この時間帯でのスマートフォンの利用やストレス等により交感神経が活発な状態が続くと、眠ることが難しくなります。
また、交感神経が高い状態で眠りについてしまうと、いわゆる眠りの浅い状態になってしまいます。
そうなると成長ホルモンなどの分泌や胃腸の働き、免疫(風邪のひきやすくなる)に影響が出てしまい、いわゆる身体の不調につながります。
睡眠は記憶の定着や脳の老廃物の除去を促しますので、認知機能の低下にもつながります。
 

睡眠の質を高める方法
睡眠の質を高めるためには、入眠前に「寝るスイッチ」を確実に入れることが重要です。
入眠のメカニズムをより深く見ると、入眠の数時間前から深部体温が下がり始めることがわかっています。
この深部体温は身体の中にある一定のリズムによってコントロールされていますが、皮膚表面から熱を逃すシステム(熱放散)が働くと、深部体温が下がり、それに伴って体は休息状態になり眠気が訪れます。
赤ちゃんの手が暖かくなるとそれは眠むたいサインだとよく言われますが、これはこの熱放散が働いているためです。この熱放散を調整しているのが自律神経のうちの副交感神経です。
特に入眠の数時間前に、入浴やストレッチなど全身の血流を良くすることで副交感神経のスイッチを入れて熱放散を促すことが重要です。
冷え性の人の中で寝付きが悪い人が多いのはこの熱放散が働いていないためなので、入眠前に血流を良くする習慣を身につけるとよいでしょう。
入眠前にいちばん気軽にできる血流を良くする習慣は、入浴です。
入眠前の1~2時間前に、38〜40℃のぬるま湯にゆっくりと浸かることで全身の血流が良くなり、かつ副交感神経のスイッチを入れることができます。
日々の質の高い睡眠を行うために、入眠前の血流を良くして副交感神経のスイッチをしっかりと入れましょう。

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